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シネマ365日

2016年1月2日

特集「新年おめでとうございます」②
マジック・イン・ムーンライト(2015年 コメディ映画)

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監督 ウッディ・アレン

出演 コリン・ファース/エマ・ストーン

シネマ365日 No.1618

恋の魔術は解けなくていい

特集「新年おめでとうございます」

ウッディ・アレンの映画作りを貫く基本軸はなに? 女優よ。ダイアン・キートンからエマ・ストーンまで、アレンが登場させる女性は、男のアレンを女に投影したといってもいい、複雑なヒロインを作っています。容姿の上では歴代アレン・ガールズ番外だと思われたケイト・ブランシェットも、性格の複雑系という設定では、まぎれもなくアレンのヒロインでした。アレンのキャラには栄光とともに「養女性的虐待」のスキャンダルがつきまとっています。パートナーだったミア・ファーローの、一方的な作り話だとする擁護説もありますが、当時のアレンの落ち込みを見れば、大幅に譲っても「当たらずとも遠からず」だったのではないか。第一アレンのガールズたちには、ムンムンした成熟女性にはない、未成熟の少女性が共通しています▼ざっと見ても「アニー・ホール」のダイアン・キートンが、バシッと決めたパンツスーツ、見るからに女性というより中性キャラのミア・ファーロー。スカーレット・ヨハンソンは「世界でいちばん美しい胸の谷間」といわれていたにもかかわらず、彼女の男性性をスパっと見ぬいたリュック・ベッソンの「ルーシー」によって、スケールのひとまわり大きなアクション女優に脱皮しました。しかしその前段をいえば「マッチポイント」で、21歳の彼女が演じた怒り狂う女が大ヒットの要因となり、アレンは8年ぶりにアカデミー脚本賞にノミネート、長期の低迷から脱出したといえば言い過ぎでしょうか。そこで本作のエマ・ストーンです。「バードマン」では、ドラッグ依存症で退院したばかりの娘が、再起を期するパパの付き人となり、娘を顧みなかった父親に反発を覚えながら愛する、影の濃い役を好演しました。まさにアレンの好きな「複雑系」です▼本作の主役はコリン・ファースにエマ・ストーンです。その前に狡猾なアレンは時代設定を1928年にしています。1928年がなぜこの映画に必要なのか。みているうちにわかりますが、この年代にでもしておかないと、劇中コリン・ファースが発する女性への侮蔑的なセリフは、現代でそんなことをいわせると袋叩きにあうからです。すべからくアレンの脚本は秀抜なセリフで成り立っています。元カノのダイアン・キートンが「ウッディの描く女性はカテゴリーでわけることなどできない」と激賞していますが、カテゴリーにおさまりきれない女性をイメージさせるに足る、豊穣なセリフこそが、アレンの底力と思えます▼論より証拠、アトランダムに本作から数か所のセリフを抜粋しますから前後のシチュエーション抜きで、セリフだけ読んでみてください。ソフィがエマ・ストーン、スタンリーがコリン・ファースです。ソフィ「ジェニーはあなたを棄てた。ブロンドの長い髪。魅力的な笑い方の女性がなぜ? 部屋にこもって手品の練習ばかりしている、厭世的で陰気な男をだれが愛するのよ」スタンリー「ひたすら芸術に身をささげる男を愛する女もいるのだ」/スタンリー「君はペテン師だ。美人のペテン師さん」ソフィ「自分の価値観は絶対だと信じているのね。あなたはすぐ人をバカにする」スタンリー「君の脳にも希望はあるよ。無学な女がうらないだけで世間をわたってきて、結婚によって上流の生活に手が届く。ヨットに高級車…これ以上望めないよ、君の育ちではね。君は偽物だ」「つまらない人ね。あなたがくれたドイツの哲学者の本、チンプンカンプンだけど、人生には幻想が必要だと書いていたわ」「霊媒師もどきのメギツネ」「あなたと結婚したら何くれる? 陰気なムード? 侮辱の言葉? 人生は残酷だっていう悲観的な不平不満?」「ぼくが君に与えるのは機知にあふれた天才との生活だ」というふうに、今ならスタンリーは石をぶつけられるような男です。1928年でなければならぬ所以です。アレンの映画は自分で書いて、自分で説明していくのでとてもわかりやすく明快です。それだけに、本作はライトコメディの形をとっているものの、彼の心底の女嫌いをよく表している(笑)▼もっともそれを上手にカバーする配役も怠りない。家族のいないスタンリーが唯一愛するのが伯母さんで、アイリーン・アトキンスが扮する。彼女は甥が独断的な性格ゆえ、女性とうまくいかないとわかっているが、みるところソフィが好きらしい。ソフィはいい娘である。彼女をバカにして霊感を試そうとする甥に「やめなさい。女性は猿回しのサルじゃないのよ」とたしなめ、申し分のない婚約者がいながら「なぜソフィに恋したのかわからない」と頭をかかえる甥に「恋は解けなくていいのよ」と泰然という。伯母さんのいうとおり、すべて丸くおさまるのですけどね。アレンの毒の利き方がものたりないのだけど、正月だから、まあいいか。

 

 

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