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シネマ365日

2016年1月7日

特集「新年おめでとうございます」⑦
007 スペクター(2015年 アクション映画)

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監督 サム・メンデス

出演 ダニエル・クレイグ/レア・セドゥ/モニカ・ベルッチ/レイフ・ファインズ

シネマ365日 No.1623

「ボンド、ジェームズ・ボンド」 

特集「新年おめでとうございます」

王道に戻った「007」とでもいうのでしょうか。ダニエル・クレイグがあの通り「陰」の気をまとう役者です。彼が「007就任」(?)以来、憂い顔だったボンドが本作になって「女性と酒が大好き」な本来のボンドのイメージに戻っています。でもな〜。最初からこう書くの、ちょっとばかりためらうのだけど、ホンネをいうと、物足りなかったわ。女性にもてて「マティニーのシェイク、オリーブ」で決めて、クライマックスは無敵のアクション、もちろんボンドガールは両手に花、こういうボンドなんか半世紀の間にいやというほど見てきたからね。だから、年齢的な弱みをみせたり、人を人と思わない職務の権化Mに反抗し、すねて職場放棄したり、射撃の腕の衰えに内心うろたえたりするボンドがとても新鮮で、ダニエルの憂い顔がぴったりだった▼今回もハイテク時代にもかかわらず、あくまでローテクでいく「00」(ダブルオー)部門など統合撤廃となり、新しい情報基地の指揮官はCが着任し、Mは更迭、M16本部は爆破という方針が決まった、という影の部分は説明されていますよ、でもそれだけ。「00」部門を前時代の遺物とみなす上層部に、彼らの見方こそ表層的であると指摘する、M(このときはジュディ・デンチ)の、堂々たる所信表明もないし、本作のダニエル・クレイグはやたら元気がよくて明るいし。それは目をつぶるとしても、決定的に気にいらないのが悪役なのよ。スペクターという世界転覆を狙う組織のトップ、フランツ・オーベルハウザーに扮したのがクリストフ・ヴァルツです。「イングロリアス・バスターズ」「ジャンゴ繋がれざる者」で二度のアカデミー助演男優賞受賞、「ビッグ・アイズ」では妻に絵を描かせ自分は署名するだけで、大儲けした、いやらしいニセ画家をたっぷり演じた素晴らしい役者です▼彼の容貌はものやわらかく整っていて、狡くてセコイ悪漢ならまだしも、世界制覇をやりぬくような冷血漢にはどうにも見えないのだ。これが、たとえば「スカイフォール」に出てきたバビエル・バルデムみたいな、俳優の名前は忘れても憎らしい顔だけは覚えているという、極めつけの面相ではない。ボンドガールはどうだろう。「スカイフォール」ではボンドガールはいなかった。代わりにボンドの育ての親、Mが主役を食っていた。こんな役者が出演するとき、共演者はよくよく気をつけるべきです。本作のボンドガールはモニカ・ベルッチとレア・セドゥだった。ベルッチはベルッチでなくともだれでもいい、チョイ役だった。出演シーンもわずか数カット。史上初の50代のボンドガールなどという、女をバカにした宣伝文句がいまだにでまわる、市場と文化の貧しさを指摘して終わった。レア? だいたい無愛想でニコリともしないフレンチセレブの彼女が、世をすてた一介の女医になって、似合うと思っているのかよ。きせかえ人形みたいにドレスアップして現れるシーンはあったけど、取ってつけただけだわ。走る列車の食堂車のなかで、砂漠から逃げてきた男女ふたりが、いっきにタキシードとイブニングドレスで現れるのね。この手の「やったモン勝ち・作ったモン勝ち」がめだって、きめ細かい映画の語りは、湯水のごとくお金をかけたアクションシーンに吸い込まれて消えてしまった▼ダニエル・クレイグのボンドはそろそろ彼自身、飽きたらなくなってきているのが見え見えだ。この調子では、あと何作やるか知らないけど、ボンド役を交代して「007」に新味をもたらすアイデアは、役者とかストーリーとかいうより、投入する資本と撮影技術に絞られていくのではないか。そう思うと今回の「物足りなさ」は、映画史上稀なる「エンタメのヒーロー」長期存続に、案外大きな方向転換を示唆するのでは。そして半世紀以上に及ぶ決めセリフ「ボンド、ジェームズ・ボンド」を、映画ファンはやっぱり聞きたいのだ。

 

 

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