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シネマ365日

2016年1月13日

特集「新年おめでとうございます」⑬
夕映えの道(2003年 社会派映画)

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監督 ルネ・フェレ

出演 ドミニク・マルカス/マリオン・エルド/ジュリアン・フェレ

シネマ365日 No.1629

とりあえずよかったです 

特集「新年おめでとうございます」⑬

お正月の喧騒のなかで、こんな静かな、小粒だけどいい映画もおすすめだわ。だれも避けられない老いと死というシリアスなテーマを、とてもエレガントに描いているの。監督のセンスのよさね。ルネ・フェレ監督について。彼が本作の7年後に撮ったのが「ナンネル・モーツアルト哀しみの旅路」です。この2本の映画は女性の自立、というより、いやでも自分を自立させてしまう、強い自尊心がテーマです。本作では、80歳以上の、ガンが進行して医師に「せいぜい数週間」といわれるヒロイン、マド(ドミニク・マルカス)と、経営者としてバリバリ会社をしきっている、中年のキャリア・ウーマン、イザベル(マリオン・エルド)の心の通い合い、といえばいえるでしょうが、偶然、町の薬局で見かけただけの老女に、縁もゆかりもない赤の他人が、なぜ身の回りの世話をし、彼女が息をひきとるまで見届けようとするのか…▼もちろん、ゆくゆく自分もこういう老いの身になるから他人事ではない、という共感はあるかもしれませんが、イザベルの場合、そんな理由ではないと思えます。マドが頑なに行政の施療を拒み、人を近づけず、徹底的に干渉を嫌い、ワンルームの汚い部屋に住み…足を踏み入れたイザベルはそのみすぼらしさに唖然。長い一人暮らしで部屋はゴミ溜めだ。小さな衣装箪笥、ボロボロのソファ、古い石炭ストーブにポータブルトイレ、狭い流しにガタピシのテーブル。イザベルが看護師を手配すると追い返す。病院にも医者にもいかず、頑固にアスピリンだけを買いに薬局に行く。薬局で押し問答をしているマドと店員をみて、イザベルが助け舟をだしたのがきっかけだ。しょぼしょぼと歩いて帰るマドをみかねイザベルが車で送った。家は案外近所だったが、その貧しさに口あんぐり、イザベルがそのへんを片付け、帰ろうとするとマドが「もう会えないのかい」と聞いた。イザベルは「また来るわ」といったのだ▼イザベルは経済的には裕福だし、仕事は順調だ、いい部下にめぐまれ、オフィスを任せておくこともできる。そのいっぽうで、付き合っている若いイケメンのフレッド(ジュリアン・フェレ)は、ジゴロみたいなものだ。家族はいない。イザベルもまたひとりなのだ。マドは子供のときの恵まれた家庭、父が再婚し、継母に使用人代わりにこきつかわれたこと、帽子職人として身をたてたこと、不幸な結婚、極貧のなかで子供を育て上げたこと、マドの人生は波乱万丈だった。イザベルはしかし、マドがほんとうにえらいのは、どんな援助も拒否し、家族もあてにせず、行政の手当も拒否し、年金かなにかわずかな収入であっても独立し、頑なに自分のスタイルを貫いていることだと思う。ゴミ溜めみたいな家でも、マドにとっては40年、暮らしなれたわが家なのだ。イザベルは手伝いを連れて来て、マドの部屋を大掃除する。熱いお湯でマドの体を拭いてやる。マドはこぎれいになり、部屋はさっぱりした。とはいえ、頑固なマドに腹がたちケンカになることもある。マドはマドで出て行けといいながら、今日はイザベルが一度も来ないとひとりで腹を立てる。イザベルの家政婦は、そんなに気になるならこの家にひきとってあげればどうか、広いからひとりやふたり、いっしょに暮らせるというが、イザベルは気が進まない。マドという女性は、あの部屋にひとりでいるのがいちばんいいのだと、本能的に察知している。マドは自分の孤独を守るためにあの部屋にいるのだ。それを侵犯されるのが嫌いなのだ▼マドが病気になった。イザベルはむりやり検査をうけさせた。「大丈夫、健康ですよ」と看護師は送り出してくれた。そのあとで医師はイザベルを呼び「重症のガンです」「どれくらい生きられますか」「よくて数週間」。イザベルは仕事を部下に預け、マドの最後の時間をいっしょに過ごすことに決める。ジゴロは家から追い出した。よちよちと杖をついて歩くマドと歩きながら…そうそう、マドが住んでいるのはパリの20区だ。モンマルトルの近くの下町である。坂道があり、その上から見るパリの町並みが美しい。公園のベンチに腰をおろしたマドは「今がいちばん幸せだよ」と言う。イザベルは「信じて。あなたの幸せはわたしの喜びよ」と言った。ちょっとできすぎでは、と思うけど、ともあれよかったですね、気の合う相手がみつかって▼原作はイギリス人のドレス・レッシング。女性の経験を描く叙情詩人といわれ、ノーベル文学賞を受賞したのは彼女が88歳のとき、歴代最高齢の受賞者となりました。映画化された彼女の作品は、ほかに「美しい絵の崩壊」があります。

 

 

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