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シネマ365日

2016年1月15日

特集「新年おめでとうございます」⑮
暮れ逢い(2014年 恋愛映画)

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監督 パトリス・ルコント

出演 レベッカ・ホール/アラン・リックマン/リチャード・マッデン

 

シネマ365日 No.1631

ルコントの手練手管 

特集「新年おめでとうございます」⑬

パトリス・ルコント監督はインタビューで答えている。「障害のない恋愛映画は5分で終わる。仲よくなってベッドインして、ケンカして別れる」。だから不倫ものを撮るのかというと、全然ちがいます。本作でも「不倫」という衣装をまとわせているけど、主人公のふたりはなにごともなく別れるのです。ルコントが撮りたいのは「純愛」それも至高の愛である。たとえば「髪結いの亭主」は、相思相愛の睦まじい夫婦がいて、妻はこの愛が日常の垢にまみれていつか変質することに耐えられず命を絶ちます。「仕立屋の恋」は、女が自分を裏切ることをわかっていながら、男はそんな女を愛し命を落とす。汗まみれのセックスという愛し方でルコントはついぞ、愛を表現したことがない。同じ愛の世界を描いても、マアなんと、嘘つき、騙し、軽蔑、裏切りにあふれる重苦しい…たとえばルキノ・ヴィスコンティとか、ジョセフ・ロージーとか、ロマン・ポランスキーとか、精神の異界が大好きな監督とはちがうのであります▼ところが、ルコントの頑固なところは、真っ赤に燃える愛の世界に必ず黒点があること、純愛が報われるのは死であるという、まったくひどい到達点に引きずり込むことです。彼は、愛を信じてはいるのだけれど全然おめでたくない男でして、彼の映画をみているあいだじゅう、観客は(しょせん、愛の幸福なんてこの世にはないのだ)とつきはなされ、(いや、それでも愛するってすばらしい)と、その気にさせられたりして、人をもてあそぶ傾向があります。彼の作品はみな流れが静かで、色調もしっとりしているから、ハリウッドの「もてあそびかた」とはちがいますがけっこうイヤらしい。さきほど「汗まみれのセックスという愛し方で、愛を表現したことがない」と書きましたけど、だから宝塚みたいに清く正しく描くのかというとおおちがい。隠微というか、暗いというか、手がこんでいるというか、とても大きな声で人にはいえないというか、お正月早々こんなことを書いていいのかと自分でもためらうのですが、ああ、どうしよう▼主人公のひとりフレデリックは大学の工学部を首席で卒業した、というから若い盛りです。彼はドイツの製鉄会社に就職、社長のカール(アラン・リックマン)に認められ、病身のカールの代行として業務遂行できるよう、同じ屋敷に居住する秘書となる。美しい妻がロッテ(レベッカ・ホール)だ。年が離れているのは、夫に死なれたロッテを、カールが励まし、支えとなったのが機縁だとわかる。熟した柿が落ちるのは時間の問題です。フレデリックは性欲を抑えがたい。元下宿先の女友だち、アンナと抱き合うが、心はうわの空、ロッテのことばかり考えている。でもロッテは節度を保ち「ここではいや」と拒み許さない。欲しいのですけどね。そこでフレデリックは、テーブルの下でロッテの脚に触り、じわじわ、とうとうロッテが声をだすまで上方に手をもぐらせていくというアプローチ。ロッテはロッテで、細く長いきれいな指でズボンの上からフレデリックの股をさわる、さっさとベッドに行けばいいのに、と思うのに、それをさせないのがルコントなのです▼肝心なことを書かねば。フレデリックはメキシコに新規事業を取り仕切るため、責任者として出張と決まる。2年の予定だ。もちろんカールが、フレデリックと妻との仲を確信したうえでの措置ですが。ロッテは取り乱し、「いや、いや、そんな、耐えられない」と半狂乱になる。で、フレデリックが、ならばここで、となると、「ここではいや」。どこならいいのか。彼女が言うには2年後任務を終え、帰国したら、というのです。本作の時代設定は1912年です。第一次世界大戦の開戦2年前ですね。フレデリックがメキシコにいる間に大戦が勃発、以後6年間ふたりは引き裂かれ、その間にカールは亡くなるのですが、直前に「君とフレデリックの愛を引き裂いた」と詫びるのです。夫に「おれひとり、死んでたまるか、ザマみろ」なんて言わせないし、ロッテの「ここではいや」は「もうすぐ夫が死ぬから待って」と同意語だともいわせない。平和な恋愛では映画にならない、なんて言っているくせに、こういう潔癖な人間が好きなところもルコントなのです▼フレデリックとロッテは6年ぶりに再会します。出会いから8年、ついに思いは遂げられる…はずですね。でもフレデリックはメキシコに定住し、結婚はしていないが別の女性がいて、仕事がらみでドイツに来たことになっている。当然メキシコに帰るのだろうけど「二度と離れない」「もう二度と君をひとりにしない」なんて、言っていいのか、キミたち。ルコントはさっさとエンドマークを出しました。今後のことはまたちがう映画になりそう。

 

 

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