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シネマ365日

2016年1月16日

特集「新年おめでとうございます」⑯
真夜中のゆりかご(2015年 サスペンス映画)

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監督 スサンネ・ビア

出演 ニコライ・コスター・ワルドー/マリア・ボネヴィー

 

シネマ365日 No.1632

罪を犯したのはだれ? 

特集「新年おめでとうございます」⑬

いい映画だと思います。どこがいいのかというと、最後まで「罪を犯したのはだれなのですか」という質問の答えがでないことね。刑事が子供を、黙ってとりかえてしまったのだから、もちろん彼は警官にあるまじき犯罪をおかした、罪である、それはわかります。ジャンキー夫婦の夫は乳児虐待、妻に暴力をふるうDV男が刑務所行きだ、それもわかります。でも水たまりに浮かんだ木の葉っぱみたいなわかりやすい罪でも犯人でもなく、いったいこの映画のなかでだれがホントに罪を犯しているのだろう、と思わざるをえないふうに、監督は情況証拠を積み上げていきます。登場人物は刑事のアンドレアス(ニコライ・コスター・イエンセン)と妻のアナ(マリア・ボネヴィー)、ジャンキー男のトリスタン(ニコライ・リー・コス)、その妻サネ(リッケ・メイ・アンデルセン)、そしてアンドレアスの友人の刑事シモン(ウルリッヒ・トムセン)というビア一家です▼日本であまりなじみのないデンマーク映画、ということで少し書き加えると、スサンネ・ビアはコペンハーゲン出身の女性監督。55歳。「未来を生きる君たちへ」でアカデミー外国語映画賞受賞。とっても素敵なイケメンの、ニコライの最新作はジュリエット・ビノシュと共演した「おやすみなさいを言いたくて」。マリア・ボネヴィーは北欧映画界を代表する女優で、「恋に落ちる確率」で二役を演じて注目されました。ウルリッヒの最新作はジョニデと共演した「チャーリー・モルデカイ」のロシア・マフィア。リッケは15年以上にわたって「ヴォーグ」などファッション誌を飾るトップ・モデルですが、ビア監督が「この人しかいない」と本作に引き抜いて映画初出演。ニコライ・リー・コスもビア監督とは3作目という常連です▼アンドレアスは仕事熱心な、誠実な刑事。アナは美しい妻。一粒種のアレクサンダーを奪い合うようにして愛している。夜泣きには「ぼくが(あやしに)行く」「わたしに任せて」と相手をいたわりあう。刑務所を出所したばかりのジャンキー男、トリスタンが暴れている現場に行くと、女房のサネは殴られてボロボロ、糞尿にまみれた赤ん坊が床に放りっぱなし、部屋中に脱ぎ散らかした汚い下着、垢じみたシャツやパンツのまま、部屋に這いつくばっている夫婦の目はクスリでモウロウ。臭いが充満しているような空気だ。アンドレアスは手際よく、赤ん坊の汚れをぬぐい、マシな布でくるんでやる。思わず自分の息子を思い出し、勤務中に妻に電話した。帰宅して事情を話すと、アナは愛しそうに夫をだきしめる▼幸福を絵に描いたような夫婦に悲劇が襲う。いつものように、夜中頃、息子の様子を見に起きたアナは呼吸が止まっているのに気づく。睡眠中の突然死だ。夫は「アナ、救急車を」と言いながら人工呼吸を施すが蘇生しなかった。アナはたとえ死体でも子供と引き離されるのはいやだ、もし子供を連れて行ったら死ぬと、激しく泣く。夫は鎮静剤を与え、シモンに電話したが酔いつぶれた彼は電話にでない。夫は赤ん坊を放擲しているジャンキー夫婦の部屋に忍び込んだ▼アナは夫の提案を受け入れる。死んだ我が子のかわりに、他人の赤ん坊を育てるのだ。自信がないとためらったが、アナは受け入れた。これで無事一件落着すると思えた。しかしサネは違った。死んでいる赤ん坊が自分の子ソーフスではない、坊やは生きていると頑強に言い張った。数ヶ月の乳児などみな同じに見えるものだとトリスタンも取り調べに当たったシモンもいうが、サネは承服しない。そのうちシモンは、アンドレアスが、ときどき妙な言い間違いをするのを聞きとがめる。サネの息子のことを「アレクサンダー」と言ったり「赤ん坊のいたトイレ」と言ったり、だれもトイレに赤ん坊がいたことは知らないはずだった。トリスタンが死んだ赤ん坊の処理に困り、誘拐事件を捏造し「子供はどこかにさらわれたからいない」と騒ぎたて、じつは森のなかに埋めた。酒を断ち、じっくり事件に取り組む姿勢をみせたシモンはアンドレアスへの不審を強めるが事件はそれで終わらなかった。夜ソーフスを乳母車に乗せ、散歩に連れて出たアナはトラックをよびとめ、寒いからこの子を車に乗せてほしいと頼み、いきなり橋から川に身を投げたのだ▼森の中で遺体を発見したシモンは、アンドレアスに残された子がソーフスだと突き止める。監察医は解剖の結果を告げた。「脳の数カ所からの出血で乳児は死亡しました。肋骨の骨折は故意にゆすったときの特徴です。あきらかにゆさぶり症候群です。だれかが激しくゆさぶったのね。これは殺人事件よ」。深層は母親の、育児ノイローゼによる虐待だった。アナはそれと気づかせなかったが、「子供が産まれて後悔しているかい」と聞いた夫に「なんてことを聞くの、この子はわたしの宝物よ」と異常に激しく反応した。心理の深層をカモフラージュするためか、あるいは積もり積もった育児疲労が、子供に反射したのか。どんな理由であれ子供は死んだのだ。どこにももっていきようのない悲しみに、アンドレアスは打ちのめされた。彼はシモンに事実を話し、サネに謝り、職を辞しスーパーの店員となった。数年後、店でサネをみかけた。4、5歳の男の子がそばにいた。「名前は」と聞くと「ソーフス」と答えた。それでもこの問いはついてまわる。「罪を犯したのはだれなのだろう」

 

 

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