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シネマ365日

2016年1月18日

特集「新年おめでとうございます」⑱
エレファント・ソング(2015年 社会派映画)

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監督 シャルル・ビナメ

出演 グザヴィエ・ドラン/ブルース・グリーンウッド/キャサリン・キーナー

 

シネマ365日 No.1634

愛の廃墟

特集「新年おめでとうございます」⑬

新年特集のトリはやっぱりこれ。お気に入りのグザヴィエ君。ずばり結論からいきますね。その方が無駄にひきずりまわされずにすみます。主人公のマイケル(グザヴィエ・ドラン)は死にたかった、これが結論です。彼の自殺に向かって映画は目も綾なプロットを織りなしていく。看護師長のピーターソン(キャサリン・キーナー)が、マイケルに事情聴取するグリーン院長(ブルース・グリーンウッド)に「彼の罠にかからないで」と警告しますが、これは(監督の罠にかからないで)と同義語。精神病院でローレンス医師が失踪した、最後の目撃者はマイケルだった、マイケルはなにか知っているはずだ。マイケルは「ローレンス先生の居場所を教えるには条件がある」と言い、「ご褒美にチョコレートをくれ」とか「僕のカルテはみるな」とか、もったいぶった条件をつける。はしょって言ってしまえば本作は、偶発したアクシデントで始まり、ミステリアスな衣をまとったプロセスを経て、主人公の死に着地した、という映画です。生きる希望を失った青年の哀しみを、グザヴィエは誇張気味の表情や表現でツボっています▼マイケルが精神病院に入れられたのは、「母を殺した」からと本人は言いますが、厳密には自殺を図った母親のそばで、幼かった息子は、母がこときれるまでなにもせず、彼女が教えてくれた「ゾウの歌」のリフレインを78回繰り返したこと。愛してほしかった母親は有名なオペラ歌手で息子にかまっておれなかった。大成功の舞台を終えた母親にかけよろうとすると、後援者たちが母を奪っていった。残された息子は空しくバラの花びらをちぎる。怨念がこもっています。愛に彼は飢えていた。グザヴィエは「マイケルこそぼくだ」とこの役を買ってでたそうですが、デビュー以来彼の受賞の歴史は母ものの歩みである。彼は自分がゲイである感性を「男と女」ではなく「母親と息子」という関係のなかで徹底的に追及します。「母親と息子」は「女と女」か「女になりたい男」に置換可能です。彼が愛したローレンス医師は、母親以外に、はじめてやさしい言葉をかけてくれた男性である。たとえ男と男の関係であっても、愛の裏側には母親への思慕が地縛霊のごとく貼り付いています。母親とは自分を産んだ女性というより、グザヴィエにとってすべてを産み出すミューズでありパワーの源泉なのである▼マイケルは自分のヌードの写真を見せ、ローレンス医師から性的虐待を受けていた、フェラチオを強要された、とかを暗示します。マイケルの提示した条件のひとつに「看護師長を外す」とありましたが、彼女が嫌いだからではなく、彼女が同席して院長の聴取に立ち会ったら、ばれてしまう計画を隠しているからです。看護師長はマイケルにさんざんふりまわされてきたから、彼のやり口を熟知しています。看護師長と院長は元夫婦で、ひとり娘がいたが死に離婚した、そんな背景が「イッチョ噛み」みたいに入ってきますが、全然大勢に影響ありません。院長と現在の妻は、まだしっくりいっていないみたいですが、これも味付け程度だから無視してよろしい▼ならばこの映画はどこを見るのか。マイケルが「自分のカルテを見ない」を指示したのは、ある事実を隠しておかねばならなかったから。彼は強度のナッツアレルギーでした。チョコレートを要求したのは、食べたら命取りになるナッツが、チョコレートの中に入っているからです。ローレンス医師は誘拐でも失踪でもない、急逝した姉の葬儀にかけつけねばならないから、事情を書いたメモを、面談中だったマイケルに預け、取るのもとりあえず病院を出た、マイケルは事実をだれにもいわず、メモも隠していたから大騒ぎになった。マイケルにしてもそのうち、ローレンス医師から連絡が入るのはわかっていた。彼はすでに5年も入院している。退院しても心の空虚が満たされるとは思えない。魂の抜け殻として生きていくより死んじゃおう、チャンスは今しかない。看護師長さえ遠ざけておけば、院長はなにも気がつかない▼ゾウの涙にみる少年の感受性こそ、グザヴィエの共感でしょう。母親に置き去りにされた少年は、自分を愛の廃墟のように感じて生きていかねばならなかった。そんなマイケルの痛ましさに、グザヴィエのマゾ好みはフィットしたにちがいありません。彼はやや太り、どことなくオッサンふうになってきました。小柄で目鼻立ちが整っているだけに、小太りになるとまずいのでは(笑)。彼がクレバーなのは自分の強みがゲイとマミーにあること、何度もいうようですが、それが誰にも真似できないパワーの源泉であることを熟知していることです。ちょっとほかからは手がだせないでしょう。独走するのがいいと思います。

 

 

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