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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年2月9日

特集 LGBTー映画にみるゲイ171 
ある愛のすべて(1972年 ゲイ映画)

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監督 ブライアン・G・ハットン

出演 エリザベス・テイラー/マイケル・ケイン/スザンナ・ヨーク

 

シネマ365日 No.1656

つくづく、すごい女優 

エリザベス・テイラーが40歳、マイケル・ケインが39歳、スザンナ・ヨークが33歳。みなさん仕事のし盛りですね。とくにリズは30代で「クレオパトラ」「バターフィールド8」「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」などで、あちこちの賞という賞にノミネーか受賞か、していた。病気もあったけど、結婚・離婚・病気はリズの一生についてまわった行事だった。くりかえす祝事と疫災、そのたびリズは不死鳥のごとくよみがえったのだ。リズの顔は、よく見ると、ただならぬ不安をかきたてる顔である。本作でもたびたびクローズアップされるが、そのたびになにやら胸騒ぎがする。こういう顔をはたして美貌というのだろうか。できれば関係性を避けて通りたい顔ではないか。そんなことを思いながらつぎのシーンでリズの全身が映る。なんとまあ、顔とのギャップに驚かされる。子供っぽい体型なのだ。黒髪の盛り上がった頭に大きな胸。劇中ブティックを経営しているステラ(スザンナ・ヨーク)がサイズを聞く。リズが答えると、こういう客はよくいるとみえ、ステラは「奥の部屋で本当のサイズを」と耳打ちする。採寸して「バスト99」うわ〜立派。夫のリチャード・バートンが、リズのアダ名を「ミス・ボイン」とつけたのはアタリね(笑)▼リズがゲイ映画に出演するのは2作目だ。「秘密の儀式」では、ミア・ファーローを自殺に追い込んだリチャード・ウィドマークを、ブッスリ刺殺する娼婦を演じた。このときのリズは、自分を家に招いてくれ、おいしい食事を作ってくれたミアが、神経を病んでいるのに気づき、見捨てられなくなる、そんな情のある女を演じた。本作では逆だ。ジー(エリザベス・テイラー)と夫ロバート(マイケル・ケイン)との結婚生活は倦怠そのもの、子供もおらず、お互いの顔をみるのもウンザリ。夫は女とみればいいよるドン・ファンだが、ジーは腹をたてるのにも飽き、そのかわり心の底に憎しみを沈殿させている昨今だ▼ロバートがパーティで見かけた、ブティックの経営者がステラ(スザンナ・ヨーク)だ。妻ジーの毒キノコぶりとかけ離れた清楚な女性である。ロバートは彼女を食事にさそう。内心おだやかならぬジーは、ロバートが席を外した隙に、ステラの耳に悪意に満ちたロバートのワルクチを吹き込むが、逆にふたりはなにもかも理解した「大人の恋人同士」となる。ジーは疎外感のなかで孤立する。こうなるとなにをするかわからない女のおそろしさを、リズがたっぷり演じてくれる。冒頭でリズの顔にふれたが、一言でいうとミステリアスだ。もちろん美しくはあるが、美醜に関係ない、なにかを秘めている。あえて大げさに言っていいのなら、「善悪の彼岸」に通じる「美醜の彼岸」なのだ。リズは母性に富む家庭的な女性だった。裕福な家で育ち、母親は美しい娘が自慢だった、ステージママのはしりである。両親に愛された、恵まれた環境ですくすく大きくなるのは「名犬ラッシー」の背景そのものだ。美しすぎる彼女の面貌は、なにかトチ狂ったものが彼女に憑いているとでも思おう▼リズの生涯に見られる特徴のひとつは、食べ物への愛着だった。彼女は食べることが大好きだった。神経をすりへらすハリウッドで生き延びるため、ご多分にもれずドラッグとアルコール依存症となったが、浴びるような酒と薬物にもかかわらず、彼女の肉体が徹底的な損傷から免れたのは、よく食べていたからである。よく食べるリズ。この一点だけでも、彼女に憎めないものを感じる。本作でもなにかというとリズは「食べ物」にふれたがるのである。脚本のせいというより、リズの食べ物好きを脚本に取り入れたとしか思えない。一挙にラストにとぶが、ジーが夫の恋人となったステラを破滅させ、夫をぬけぬけ家に連れ戻そうとする。そのときのセリフが「なにか食べる物を買いにいきましょうよ」なのだ。肝心なことを書かねば。なぜこの映画がゲイかというと、ステラがつい気を許して言った一言「学校で先生の尼僧を好きになった」に、悪知恵の固まりであるジーが食いついたのだ。1970年代といえば女が女を好きになることに「それがどうした、わたしの勝手」とはいえなかった時代だ。ジーはステラを見つめ「どうしてわたしを誘ってくれなかったの」などと言う。ジーはうそつきだとみえすいているのに、その気になったのはステラが無防備だというより、リズのあのミステリアスな双眸のせいだろう。ここいちばんというとき、なぜかどの監督も、リズの藤色の瞳をアップにするのである。三人の関係はめちゃくちゃになり、ジーだけがホクソ笑む。ロバートの帰りをまつステラのアパートに、音もなく姿を現したときのジーは、黒っぽいドレスのせいもあるが、まさに舞い降りた悪の天使だった。

 

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