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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年2月11日

特集 LGBTー映画にみるゲイ173 
4ヶ月、3週と2日(2008年 ゲイ映画)

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監督 クリスチャン・ムンギウ

出演 アナマリア・マリンカ/ローラ・ヴァシリウ

 

シネマ365日 No.1658

ヒロインの一番長い日 

直接的なゲイの表象はないのですが、きわめて濃い友情とでもいうのでしょうか、そうでも考えないとヒロイン、オティリア(アナマリア・マリンカ)が自分の体を堕胎医に与えてまで、女友だちのガビツア(ローラ・ヴァシリウ)の危機を救おうと奔走するわけがわからない。まして1987年のルーマニアです。独裁政権下で中絶が認められるのは子供を4人以上産んでいる場合だけ。オティリアの行為など違法もいいとこ、監獄行きだったのです。ふたりは大学寮のルームメイトです。オティリアは工学部だから、ルーマニアでは将来を確実視されたエリートだ。つきあっているボーイフレンドのアディもオティリアと真面目なつきあいを望み、母親の誕生パーティにオティリアを招待する。その日はガビツアの中絶日だったのでオティリアは招待を断る。あきらめきれないアディの懇請に、顔だけ出すと出席の約束をする▼なんでそこまで、このいい加減なお友だちに尽くすのだろうと不思議になるほど、ガビツアってドジなのよね。不妊に失敗した、4ヶ月にはいるまでなにもしなかった、オティリアが手をつくして堕胎医を探し、ホテルに連れてくる。まさか大学寮で処置するわけにいかないから、安静が必要と言われた3日間、安ホテルを借りたのだ。金の工面もガビツアは任せきりである。金どころか、堕胎医が事前に用意しておくように言っておいたビニールシートも、ガビツアは買っていない、ゴミ出し用のビニール袋で間に合わせようとなる。堕胎医は処置する前にいろいろ質問する。3ヶ月と4ヶ月では処置が異なり、4ヶ月では罪が重くなるのだと言う▼費用は3000レイだった。部屋代を前払いして2850レイしか残っていない。あとで土曜日までに払うとオティリアは説得するが、堕胎医は耳も貸さず帰りかける。オティリアは引き止め「彼女に処置を、そして…」自分は服を脱ぐのだ。セックスのあとオティリアが、下半身丸出しのままトイレで洗浄する。寒々しい光景です。堕胎医は長いプローブを消毒し手袋をはめ、ガビツアに挿入していく。処置後「胎児はトイレに流すな。塊でも粉々でもつまる。犬が掘り起こせる場所にも埋めるな。きちんと包み、バスで高いビルまで行き、ダスタシュートで落とせ。朝晩熱を計って38度なければなにもしなくていい」そう言って帰る。「ありがとう」ガビツアが礼を言ってもオティリアの表情は硬い。2ヶ月のはずが4ヶ月ですって? 「ウソつくなら前もって言って! それになぜわたしのことを姉だと言ったのよ。あなたのばかな考えにはウンザリだわ」「あなたも安ければ男の医者でもいいと同意したわ」「安いところで受けるべきだと言ったのよ。男でもかまわないとは言っていないわ。なぜ電話で予約したの。自分で行くべきでしょうが」オティリアはガビツアが男に頼んだことにこだわっている。ガビツアに安静を保つようにいい、1時間で帰るからと約束して誕生パーティに出かける▼パーティで気もそぞろなオティリアに、アディが理由をきくと「ガビツアの中絶の手伝いをした」と打ち明ける。「わたしが妊娠したらどうする」というオティリアの問に男は「(妊娠)しないよ」「どうして。ありうることよ。木曜日は危険日だったのに、あなたはおかまいなしだった」「君が慎重にすべきだよ」避妊は女任せである。オティリアは「妊娠したらガビツアに助けてもらうわ」…どう聞いていても男にオティリアの関心は薄いでしょ。助けを頼むのがガビツアだという点が心もとないが。オティリアは電話を借りホテルにかけるが出ない。胸騒ぎがする。アディが「結婚しよう」「ポテトを作る人生なんてイヤ」アディは熱く「いっしょに暮らそう」「さわらないで」「ケンカはやめてふたりでキャンプに行こう」「ひとりでいたいの。電話かして」会話が噛み合わない。男をふりきってオティリアはホテルに。部屋にガビツアがいない。激しい痛みをともなうこともあると堕胎医は言っていた。気が気でないオティリアがバスルームのドアを開くと、血まみれのタオルに胎児が包まれている。動転したが気を持ち直し、指示通りオティリアはそれを棄てに行く。適当な場所が見つからない。野良犬がうろうろしている。暗い川が流れ夜は更けていく。警官に職務質問されたら即逮捕である。町の隅から隅まで歩きまわりオティリアは疲労困憊、とあるビルでやっと胎児を手放す。よろめく足でホテルに戻ると「お連れ様をレストランで見かけました」と従業員が言う。レストラン? オティリアが入っていくと、きれいに平らげた皿を前にガビツアがチンと座っている「ここでなにをしているの? 電話したのよ。どうして出なかったの」オティリアの声はもはやかすれている「お腹がペコペコになったの」「…」精も根も尽き果てオティリアはものも言えない。ガビツアは「これからどうするの?」などと聞く。自分で考えたらどうだと怒る気力もなく「今日あったことは二度と聞かないで」とだけオティリアは答える▼当時のルーマニアのチャウシェスク政権は国の人口をふやすため中絶を禁止しました。離婚にも大きな制約を設け、一部の例外を除いて禁止。人口は増加に転じたものの育児放棄によって孤児が増える新たな問題をかかえました。孤児院に収容された子どもたちは充分な栄養を与えられず病気がちとなり、子供を死なせた場合はその施設の職員の給与が減らされるため、治療のため無理に大人の血液を輸血し、エイズに感染する子供が激増、のちのちまで深刻なルーマニアの社会問題となったのです。1989年いわゆるルーマニア革命によりチャウシェスクは権力の座をおわれ処刑されました。こういう背景を考えると、オティリアの行動が、大げさでなく命がけだったことがわかると思います。色っぽいシーンは皆無です。暗い映画ですがヒロインの冷静な勇気と胆力とともに、ガビツアのノーテンキさが、圧政下の青春の、一点の光明のように見えたのは不思議です。

 

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