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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年2月14日

特集 LGBTー映画にみるゲイ176 
向かいの窓(2004年 ゲイ映画)

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監督 フェルザン・オズペテク

出演 ジョヴァンナ・メッツオジョルノ/マッシモ・ジロッティ

 

シネマ365日 No.1661

思い出は私の身体の一部 

ヒロイン、ジョヴァンナ(ジョヴァンナ・メッツオジョルノ)が、ナチのユダヤ人狩りを生き延びたゲイの男性、シモーヌ(マッシモ・ジロッティ)と出会い、人生を生き直そうと決意する。骨組みは「Vフォー・ヴェンデッタ」と同じです。「ヴェンデッタ」ではヒロイン、ナタリー・ポートマンが監禁室で偶然手にした、見知らぬゲイの女性ヴァレリーの手記に励まされ、一度きりの人精一杯生き抜こうと決める。この映画のジョヴァンナは、菓子店を持つことが夢だが「子供がふたり、甲斐性のない夫をかかえて、この年で見習い」になる勇気がでない。ある日、一時的な記憶喪失に陥ったシモーヌという老人を夫が助けた。ジョヴァンナは文句たらたら、余計な荷物をしょいこんだ、早く警察に連れていってと夫にけしかけるが、人の好い夫は「気の毒だ。どうしても追い出すなら君が警察に届けろ」とジョヴァンナに押し付ける。一泊させたジョヴァンナはアルバイトで菓子店に納めるケーキを作っている。台所で粉を練っていると、シモーヌが「ケーキをつくるときはタバコをひかえたほうがいい」なに言い出すの、この爺さま、といぶかるジョヴァンナに「塩素を確かめもせず水道の水を使うのはよくない」「詳しいのね」「水は透き通って味がよくアルカリ度の低いものを」一言、一言がポイントをついているので、ジョヴァンナは老人が薄気味悪くなる▼夫婦関係は最悪だった。リストラにあって夜勤の職についた夫とはすれ違い。ジョヴァンナは鶏肉工場の経理。ジョヴァンナの突っ慳貪なものいいと態度に、夫は「リストラされたのはおれのせいじゃない」「たいした稼ぎもないくせに」「だれのおかげでこの家に住んでいる」「わたしはあなたみたいな人とは違うわ」「じゃおれはなんだ。ゴロツキか。君はサイテーな女だ」。すさんだ家庭生活でジョヴァンナの楽しみは密かに向かいの窓の若いイケメンの男性を見ることだ。ケーキを納品しに、店にきたジョヴァンナは向かいの窓の男、ロレンツオと出会う。どぎまぎ話しているうちに、車で待たせていたシモーヌがいなくなる。ふたりであたりを探しまわり、やっとみつけるが、シモーヌがさっき「ぼくをみて、おかしなことを言ったのです。だれかとまちがえているみたいでした」とロレンツオ。その言葉とは「一生。君を愛する。隠れて愛を育むのだ。だれもぼくたちの愛を許してくれまい。ぼくはこの愛を一生貫きたい」シモーヌの青年時代に悲恋があったのだとふたりは察した▼ジョヴァンナはロレンツオもまた、窓から自分をみていたことを知る。「朝8時、君は子供たちを学校に送り出す。夜は台所を片付けタバコを吸う。そのタバコを蛇口の水で消す。君についてこれくらいのことは知っている」ジョヴァンナは感動する。一挙に距離は縮まるが、ジョヴァンナはなぜかいっぽうで、謎のシモーヌが気になるのだ。彼の腕に彫られた番号を見て、彼が収容所を経験したことをジョヴァンナは知る。シモーヌはジョヴァンナに「ダンスは好きかね」と尋ね、ためらうジョヴァンナに手をさしのべる。ジョヴァンナと踊るシモーヌの遠い目に、もうひとりのシモーヌ、若き日の自分が浮かぶ。ある日シモーヌが家から消えた。ジョヴァンナはシモーヌの上着のポケットにある古い手紙に気がつき、行方の手がかりになるものがないかと思って開いた。手紙はこうだ。「愛するシモーネ。君と別れてから赤は赤でなく空も青さを失った。木々の緑は失せ、ふたりの思い出だけが色鮮やかに残る。君をまちわび、あきらめた日々。ひそかな文通。現実を正視しない人々の間で交わした眼差し。ぼくたちは彼らの恥でしかなく、残酷な仕打ちと憎悪の対象だった。君に許しを乞う勇気がなかったぼくは、もう窓からのぞくことさえできない。まだ名も知らぬころから、君はその窓辺で夢見ていた。木は木であり、空は青だと言える世の中になることを」。ジョヴァンナはダヴィデとある手紙の差出人を訪ねていく。そこにいた住人こそシモーヌだった▼シモーヌことダヴィデの世話をする長年のメイドは、ダヴィデがローマのユダヤ人狩りのとき、多くのユダヤ人を救ったこと、ローマの街で知らぬ人のいない菓子レストラン「ダヴィデ」は彼の店であること、彼は体が弱っており、何があってもおかしくない症状であることなどをジョヴァンナに教えた。彼はナチの一斉手入れがあることを知ったとき、シモーヌを後回しにして他の人を救った。「あの晩わたしが救ったのは、わたしをあざわらった人たち、わたしとシモーヌの愛を拒絶した人たちだった。彼らを救うためにシモーヌを失ってしまった。先にシモーヌのところに行かなかったのは、彼らに、わたしが彼らの仲間だと認めさせるためだった」。ダヴィデはジョヴァンナに言う。「君はまだ人生を変える力がある。無為に生きるのではなくよりよい世界に生きるのだ。求め続けるのだ。夢見るだけではだめだ」▼向かいのロレンツオが栄転で引っ越すことになった。ジョヴァンナは思い切って彼の部屋を訪ねる。ロレンツオは「今きてくれとはいわない。いつまでも待つ」と情熱を告白する。ふと窓に気がついた。自分はいつもこの窓を見ていたのだ。自分の部屋が見えた。そこには子供たちが、夫がいた。そしてはかなげでむなしげな、自分の顔が映った。ジョヴァンナはロレンツオと別れ自分の家にもどる。ジョヴァンナは仕事をやめ、菓子店の見習いからやり直すと決めた。ダヴィデに手紙を書くジョヴァンナの独白で映画は終わる。「親愛なるダヴィデ。娘は今でもシモーヌのことを尋ねるわ。いつか本当のことを話してあげたい。きのう仕事先で初めてケーキを焼いたの。チーフは黙って日曜日のケーキリストに加えたわ。夫は昼間勤務になり、宝くじに当たったように有頂天よ。彼にはそれ以上求められないわね。わたしの記憶のなかでロレンツオは薄れてゆき、声も忘れてしまいそう。ダヴィデ、わたしはあなたの言葉や視線を求めている。わたしの仕草のなかにふとあなたの影を感じ、あなたの言葉を話している。去ってゆく人はみな何かを残してゆくのね。記憶のなせるわざかしら。それならわたしはためらわない。独りではないのだから」。一人ではないのだから、がどういう意味かわからないけど、要はダヴィデと彼のお菓子でジョヴァンナは再出発したのね。エンディングに流れる歌がいいわ。「あふれくる涙は記憶のしずく/消すことのできない時の流れの中/あなたは何度となくわたしの姿を求め/からっぽの部屋をのぞく/はかりしれず、つかみようもない/あなたの思い出はわたしの体の一部/離れられないふたり/同じもろい存在/いつのまにこれほど遠くへきたの」。ジョヴァンナの手紙といい、ダヴィデのそれといい、この映画、セリフをふくめ、とても言葉がきれいなのです。それだけでも見る価値があるわ。いい映画でした。

 

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