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特集 LGBTー映画にみるゲイ

2016年2月22日

特集 LGBTー映画にみるゲイ184 
キャロル(上)(2016年 ゲイ映画)

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監督 トッド・ヘインズ

出演 ケイト・ブランシェット/ルーニー・マーラ

 

シネマ365日 No.1669

天から落ちた私の天使 

トッド・ヘインズ監督は、パトリシア・ハイスミス(原作者)が、いちばん力を入れ、これを言うために全編を書いてきたと言える文章を、バッサリ、惜しげもなく削っていますね(笑)。ナレーションにもモノローグにもしていない。その削除した部分を演技で体現したのがケイト・ブランシェットであり、ルーニー・マーラという二人の女優です。ラストシーンの数分を見たら分かりますが、一言のセリフもなく、かすかにブランシェットの唇に、あるかないかの微笑がうかぶ。ルーニーが演じるヒロイン、テレーズは19歳かそのあたりの年齢で、服装や体格など、少女に近いくらいですが、清々しいほどストイックです。時代は1952年ですから、ゲイの関係はおぞましいものでしかなかった。テレーズにしても自分のセクシュアリティに迷いはあったと考えるのが自然ですが、キャロルがいっしょに旅行に出ようと誘ったとき、「いきます」と一言で答える。顔は嬉しそうでしたけどね▼テレーズはもともと無口で、語るより見つめる愛の女性です。彼女のこの性格は映画が進行するにつれて顕著になり、キャロルと初めての情交のときも、甘い言葉がありません。キャロルとはブランシェットが6、7年も前からこの役に目をつけていたくらい気合が入っていて、つまり硬派なブランシェットにぴったりの役でして、もちろんテレーズより年上であり、結婚して娘もおり、女性との関係も経験ずみであるキャロルは、ひたむきに自分を見つめているテレーズの気持ちは充分わかっていて、二人で旅などしたらその先どうなるか、見当はついていました。キャロルは離婚の係争中です。夫のハージは、妻がテレーズを自宅に連れてきたことに神経をとがらせるのは、過去に女友だちと深い関係にあったことを知っているからです。男の自分が、夫たる自分が徹底的に阻害されたと思っている。女友だちというのがアビーで、キャロルとは10歳のときからの幼馴染ですが、ひょんな行きがかりから一夜を共にし、数ヶ月ほどの間ですが、キャロルが言うには「愛というしかない関係」にあった。今はどっちも友情の鞘に収まり、アビーに対するキャロルの信頼は厚い。友情には腐れ縁が少なからずあるものですが、キャロルもそうで、アビーに対して子供の頃の「女の子」の部分を隠さず、寄りかかっています▼そうそう、彼女らの情交に甘い言葉がなかったと書いていたのだった。二人は旅先のホテルで大晦日を迎えました。「大晦日はいつも一人だった。夫はパーティーや付き合いで家にいたことがなかった」とキャロル。「新年はいつも一人で迎えた。でも今年はちがう」とテレーズ。笑顔なし、微笑なし、どっちもまるで怒っているみたいに、ニコリともしない風変わりな愛の告白でした。でもすべて終わった後、キャロルはテレーズに優しく言います「天から落ちてきた私の天使」…とても綺麗なラブシーンでしてね「あの映画のどこがよかった?」「結局ラブシーンでした」「いっぺん女とやりたいわ」なんて、大真面目に喋っていた二人連れもいたくらい(笑)。それまで終始控え目だったテレーズが、旅行に出てから大胆になります。一泊目のホテルのロビーで「2部屋」とキャロルが言うと「一部屋のスイートがいいと思います。割安だというなら」と初めて横から口を出す。キャロルが明かりを消そうとすると「つけたままにしてください。あなたがよく見えるように」主張するようになっています。愛は強い、いやいや、この世で何がいちばん人を強くさせるかというと相思相愛ですね。キャロルの愛を確かめた今、テレーズは、幼いながらキャロルを守ろうと「私が助けます」しっかり所信表明するではありませんか。ううむ、健気ですわ▼キャロルに未練がある夫は、娘を人質にして、別れるなら単独親権とする、娘には会わせてやらぬと恫喝します。弁護士は言いにくそうに、キャロルの過去の女性関係が夫を有利にしている、と指摘しました。しかし頑として意思を曲げない妻に「今度はあの店員か」と夫は侮蔑する(テレーズはデパートの玩具売り場でキャロルの注文を担当した)。「彼女は関係ない。それにあなたと破局したときは、アビーとも終わっていた」とキャロルは反駁しますが、夫にすれば妻のゲイはいちばん糾弾しやすい的だから、探偵を雇ってキャロルとテレーズの車の後をつけ、ホテルでの告白を録音させ攻撃の的を絞ります。夫婦の亀裂の本当の原因は、キャロルの理解者であるアビーが適切に言い当てていました。「愛している? キャロルの何を愛しているの。あなたは社交界のお飾りとしてしか彼女が必要でなかった。子供が生まれたら満足。彼女は上流家庭の対面を保つだけの妻だったのよ」女としてでもなく、人間としてでもなく。

 

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