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特集「ベストコレクション」

2016年3月2日

特集「春の麗らのベストコレクション」② 
マリリン&モナ(2012年 ヒューマン映画)

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監督 ラシッド・ブシャール

出演 シエナ・ミラー/ゴルシフテ・ファラハニ

 

シネマ365日 No.1678

場末のダンサーでいい 

女性のひとり立ちを見つめる、静かでしみじみしたいい映画です。監督がラシッド・ブシャール。彼のプロデュースによる「ユマニテ」「フランドル」は、いずれもカンヌ国際映画祭のグランプリ、「カミユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇」はベルリン国際映画祭の出品作です。監督した映画では「デイズ・オブ・グローリー」がアカデミー外国語映画賞にノミネート。いずれもみな話題作ですが、出演する俳優は素人が多く、テーマと内容で勝負する作風です。なかでも本作は主婦が主人公で、ひときわひっそりしていますが、主演の女優ふたりはなかなかビッグです。マリリンにシエナ・ミラー。クリント・イーストウッドがサラッと登場させたから目立ちませんでしたけど、「アメリカン・スナイパー」で主人公の奥さんを演じました。モナを演じたゴルシフテ・ファラハニはイランの女優。「ワールド・オブ・ライズ」でレオナルド・ディカプリオと共演、翌年「彼女が消えた浜辺」の主演です▼トリビアですが、ブラピのプロデュースする映画にシエナ・ミラーが出演することで、アンジーが撮影現場である北アイルランドに、ブラピが行くことを禁止したと、まことしやかに伝わりました。なんでも二言目に、ブラピがシエナの名前を口にだすことにアンジーが業を煮やしたと。どうでいいけど、シエナってわりと注目度のある女優さんだといいたかっただけ。さて本題です。マリリンはダンサーをめざす30前の主婦。夫は失業中。無収入コンプレックスですっかりひねくれ、「その年でダンサーをめざすとは立派だな」と妻を冷笑し、彼女の給料日には家で待ち受け、金を奪ってバーにでかけるヒモであり、ゴロツキである。おまけにコストカットのため解雇されたマリリンが、家に帰ると、せっせと浮気の最中なのだ。モナのほうの家庭事情も負けていない。姑は早く子供を産めとせかし、夫は母親のいいなり、それでもモナにはやさしいから我慢してきたが、ある日「他の女となら子供ができる」とがなりたてる姑の雑言にショックを受け、姑がいつも飲むクスリの配分をまちがえたら翌朝死んでいた。モナとマリリンは同じ町内にいる顔見知りだ。モナの夫がやっている雑貨店で買い物するマリリンは、しょっちゅう姑の口汚い文句を浴びているモナに同情し、「わたしの義母ならとっくに殺しているわ」▼姑の急死に、モナは取り乱し前後の見境なく家を出る。長距離バス停にいたら、車で走り抜けたのがマリリンだ。彼女は浮気の夫を見捨て、サンタフェであるベリーダンスのオーディションを受けると決めた。ふたりのロードムービーが始まる。マリリンのダンスの先生が、サンタフェに向かう途中の店でダンサーの需要があればメールで教えてくれた。マリリンはモナと組んで、出演した店で好評を得る。順調にギャラも稼いでいたが、地元の新聞の指名手配一覧にモナの名があった。姑の死を不審死として警察が捜査していたのだ。マリリンは「なぜ本当のことを言わなかったの。警察に自首すべきだわ。私を巻き込むことがわかっていないのね。指名手配犯の逃走を助けていることになるのよ、面倒はお断り」そういってモナを置き去りにする。シカゴからニューメキシコのサンタフェだ。2000キロはあるだろう。アラブから米国に来て身寄りもなく、嫁ぎ先の店から、ろくに遠出もしたことのないモナを思うと放っておけず、マリリンは引き返す。モナはいっしょにダンスの練習をしながら、マリリンのオーディション合格を励ます。結婚して子供がほしいというマリリン。自分は不妊だと嘆くモナ。でも「相手を変えたらできるかもよ」「刑務所で産むのだわ」…マリリンだって前途洋々ではないが、それよりもっと先の見えないモナを、マリリンはやさしく抱きしめる▼アラブ人への偏見ってすごいのね。キャンプしてダンスの練習をしているマリリンに、アラブ風の音楽がやかましいと文句をつけた家族連れのおばさんに、マリリンは「クソ女」と言い返す。おばさんはダンナに告げ口し、ダンナと息子がやってきてマリリンを叩きのめす。男二人でそれはないだろ、と思うが、ヘッチャラでそんなことをするのだ。肩を折ったマリリンは踊れなくなる。オーディションは明日だ▼翌日、サンタフェのオーディション会場に来た車がある。降りたオリエンタル風の美女は「マリリン」と名乗る。モナがマリリンと同じ黒髪のウィッグをつけて踊るのだ。マリリンのダンスにもっと目立つ要素をいれたらと、モナはアドバイスしていたが、取り入れる時間がなかった。モナの踊りはしなやかでエロチックで、ヒョウのように身軽に、ヘビのように滑らかにすべるように踊った。審査員の目は釘付け。マリリンの手当をしてくれている地元のおじさんに(彼が自分の車で会場まで送ってくれた)、モナは合格証を預け「マリリンにさよならも伝えて」。サンタフェの砂漠の乾いた風が渡る鉄路が、一本道のように延びている駅に来た。列車を待つ。プラットフォームの端に現れた影が近づく。「ひとこともいわないで行くの?」とマリリン。シカゴに戻り「警察にわけを話し、離婚してやり直すわ」とモナ。「わたしもいっしょに行くわ」マリリンは合格証をポイッ。ふたりで乗る列車が近づいてきた…▼おおげさな自立宣言や夢のようなサクセスはありませんが、それどころか、なんだ、家をでてまた戻るのか、と思うかもしれませんが、自分探しなどする甘い日常は、彼女らにはなかった。食べるために働き、愛とともに出発した結婚は、実りでも幸福でもなく、裏切りと失望をもたらしただけだった。あともどりできない年になって希求する。しがない場末のダンサーでもいい、ひとりでも生きていける手応えと居場所があれば。たったそれだけのことだ…自分自身であることを求める女たちのせつなさが、静けさと光とともに伝わってきます。

 

 

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