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特集「ベストコレクション」

2016年3月8日

特集「春の麗らのベストコレクション」⑧ 
アリスのままで(上)(2015年 社会派映画)

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監督 リチャード・グラツアー/ワッシュ・ウェストモアランド

出演 ジュリアン・ムーア/クリステン・スチュワート

 

シネマ365日 No.1684

瞬間を生きています 

他人事じゃないわ。ズッシリきたわ。アリスが家族性認知症で遺伝的なものだと医師に告げられ、長女が遺伝子を受け継いだと知って「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝るのね。アリスだって父親からの遺伝じゃないの。謝ることないだろ。理屈ではそう思っても、あれが母親の実感なのよ。子供になにかあると全部自分が悪いと思っちゃうのね。アリスが可哀想で胸がつまったわ。このあたりから完全に、ジュリアン・ムーアに籠絡されるわよ。掛け値なしのすごい女優ね。アルツハイマーとは忘れるのではない、記憶が抜け落ちるのだ、とアリス(ジュリアン・ムーア)が言うの。リアルね。思い出そうとしても思い出せない、そういうレベルじゃないの。思い出すモトが脳から消滅していくのよ。その分量がだんだん増えていく。自分の人生を捧げてきたことがなにもかも消えていくのだ▼覚悟を決めたアリスはパソコンに吹き込む。「アリス、わたしはあなたよ。あなたがこれらの質問に答えられなくなったら、つぎの段階に進むべきときよ。寝室にランプの乗った棚があるの。いちばん上のひきだしに、錠剤の入った瓶がある。水で全部飲んでと書いてあるわ。必ず全部飲むのよ。そして横になって眠る。つぎの質問にひとつでも答えられなくなったら、蝶というフォルダーを開くこと」質問とは「わたしの名前は?」「住んでいるところは?」「誕生日は?」「長女の名前は?」「次女は、夫は、長男は?」などが続く▼東海岸の荒涼とした、大きな波の打ち寄せる海岸をアリスが散歩している。キャンパスで迷い、講義中、単語が出てこなくなって、大学をやめた。コロンビア大学の言語学の教授という要職にあった。家の中でトイレの場所を忘れた。長女は弁護士だ。子供が産まれまもなく仕事に復帰する。夫は医学部の教授で遠隔地の大学に栄転の話があり、引っ越そうという。でもアリスは住み慣れた東海岸を離れたくない。どうせ忘れるのだからどこへいっても同じだと家族は思うのだろうか。次女のリディア(クリステン・スチュアート)は演劇志望だ。ロスからニューヨークに戻ってきて、自分が母親と暮らすという。「あなたを信じているけど、人生はたいへんなの。わたしがわたしでいられる間に応援させて」「ずるいママ。今の状態を利用している」「当たり前よ、母親だもの」「どんな気持ち?」「調子の悪い日は自分がだれかわからなくなる。いい日は普通の人と同じようにすごせる」▼認知症患者の集いで、闘病中のアリスが報告することになった。前半のクライマックスである。「わたしが人生で貯えたすべてが、努力して得たすべてが、はぎとられていきます。地獄です。病気はもっと悪くなります。以前と変わってしまった人間をどう扱うか、まわりの人は戸惑うでしょう。おかしな行動と言葉のせいで、人のわたしたちを見る目が変わり、わたしたち自身も自分を見る目が変わります。奇妙で、無能力で、こっけいな存在になってしまう。病気なら進行するけれど、治療もできるかもしれない。最大の願いは子供たちがこのような状態に陥らないことです。わたしは生きています。愛する人がいて、やってみたいことがある。物忘れする自分に腹がたつけれど、歓びと幸福に満ちた瞬間が今もある。わたしが苦しんでいると思わないでください。苦しんでいません。闘っているのです。世界の一部であろうとして、かつてそうだった自分であろうとして、だから瞬間を生きています。瞬間を生きること。それがわたしのできるすべて。自分を責めないで。なくす技が上達しても自分を責めないで。でも今のこの記憶は保ちたい。失われるのはわかっています。それは明日かもしれない。でも今は、ここで話していることは大きな意味を持つのです。かつてわたしが言語学に情熱を燃やしたように。このかけがえのない機会をありがとう」

 

 

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