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特集「神も仏もない映画」

2016年3月29日

特集 「神も仏もない映画2」⑥ 
女王フアナ(2004年 社会派映画)

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監督 ビセンテ・アランダ

出演 ピラール・ロペス・デ・アジャラ/ダニエレ・リオッティ

 

シネマ365日 No.1705

なんて男運の悪い

大航海時代にイザベラ女王とフェルナンド王の娘として生まれる。これだけでもうフアナ(ピラール・ロペス・デ・アジャラ)は、フツーの結婚と平安な人生に縁のない女性だと決まったようなものね。イザベラはもちろん、コロンブスに資金提供したスペインの女王。当時のスペインはアラブ支配から独立し、東部のアラゴンと西部のカスティーニャがイザベラとフェルナンドの結婚によってスペイン王国となったという背景があります。洋の東西を問わず、結婚は一国の命運がかかる重大な政策でした。フアナが嫁いだフランドルのフェリペ(ダニエレ・リオッティ)は、美麗公と呼ばれたほどの類まれなイケメン。花嫁は16歳。花婿は18歳。当然のことながら夫婦の実家、スペイン王家とハプスブルク帝国の政治がからんできます▼フアナはハンサムな夫に夢中。6人の子をなします。彼女がのちに狂女と呼ばれるのは、男兄弟や姉が亡くなり、フアナがスペイン女王を継承したことによると思われる。フェリペやフアナの父にすれば、王国は自分のものと思っていたでしょうが、イザベラ女王の遺言によってフアナのところへいった。フランドルからスペインに移住したフアナとフェリペは、国民から熱狂的に迎えられますが内部では、フアナを押すスペイン派とフェリペを擁するハプスブルク派が独占支配を狙っていました。フェリペの突然死は毒殺といわれます。28歳でした。フアナは浮気ばかりしていた夫に気の休まるヒマがありませんでしたが、愛し続けていましたから打撃は大きかった。フェリペはとても誠実な夫とはいえず、妻への愛はとっくに冷め、フアナの熱愛に辟易しています。ベッドに誘うフアナにもうヤケクソである。フアナは夫の遺骸を、イザベラ女王の隣に埋葬するという口実のもとに、棺を馬車にのせ、葬列をしたがえ数年にわたってスペインを放浪するのだ▼フアナが夫を熱愛していたのは事実ですが、母イザベラのような政治感覚はなかったですね。国民たちは親愛を込めてフアナのことを「狂女」とよびましたが、これは半分ニックネームのようなものでした。しかし「狂女」と評判をたてられた葬列の彷徨は敵側にうってつけの攻撃の材料となりました。父王はフアナを幽閉します。彼女は28歳。以後47年間にわたって閉じ込められるのですからひどい。思えば父親といい、夫といい、彼女をとりまく男たちは、フアナに付随した権力がほしかっただけで、肉親の愛も男の愛もなかった。にもかかわらず、父親はともかく、夫に対してフアナは最後まで狂乱のような愛を捧げる。プラド美術館に残る「狂女フアナ」はフランシスコ・プラディーリャの作品です。中野京子氏の卓抜な絵解き「ハプスブルク家12の物語」がありますから、なにも付け加えることはないのですが、壮麗な棺のそばに佇むフアナとはちがい、取り巻く従臣や侍女はくたびれきってうんざりしている。空は低く灰色の雲が垂れ込め、喪服のフアナが放心状態でうなだれている。このあと幽閉されるのですが、同じような経験をしてもエリザベス1世はその後歴史の桧舞台に完全復活。押しも押されず世界史の大スターとなります▼しかしながら、フアナとはあわれなだけの女性だったか。大衆の評価とは正直でかつ不思議きわまる。ローマ帝国でも実質、帝国を築き上げたアウグストスやティベリウスの功績は、歴史の授業で知るくらいで、映画や芝居の主人公となるのは、暗殺されたカエサルであり暴君ネロであり、奇行と浪費のカリグラだったりすることが多い。だからというわけではないが、王女フアナはもともとヒロインの素質をもっていたのだ。女がなにかを主張すれば黙殺かバカにされる時代といっても、そう的外れでないときに、一途に夫を狂恋する女王は、侍女たちのうち覚めた女だと「それくらいにしておけば? あんな男」と言いたかったかもしれない。半世紀を幽閉されて動じなかったということからも、並々ならぬ精神力であったろう。それを支えたのはなにか。フェリペの記憶だけか。なぜフアナはそれを書き残すか、語り残さなかったのだろう。ばっさりと斬って棄てた沈黙に、ブラックホールのような巨大なものを感じさせる。

 

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