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特集「神も仏もない映画」

2016年3月30日

特集 「神も仏もない映画2」⑦ 
金色の嘘(2002年 文芸映画)

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監督 ジェームズ・アイヴォリー

出演 ユマ・サーマン/ニック・ノルティ/ケイト・ベッキンセール

 

シネマ365日 No.1706

幸福なはずなのに幸福感がない 

登場人物は4人、脇をいれてせいぜい6人という小ぶりな映画ですが、内容は複雑です。原作はヘンリー・ジェームズの「金の杯」。結婚式のプレゼントに贈ったあとで、見事な金の盃にヒビが入っていることがわかる。完全にみえた「金色の幸福に入っていたヒビ」の象徴ですね。人物紹介でいけば、アメリカの大富豪にして絵画収集家アダム(ニック・ノルティ)の、純情な一人娘マギー(ケイト・ベッキンセール)。母親を早くなくしたマギーは、父親の愛情に包まれ、だれよりも父を愛している。近親相姦はないですが密着度は普通ではない。マギーと結婚するイタリアの没落貴族がアメリーゴ公爵、公爵と熱烈な恋愛関係にあったシャーロット(ユマ・サーマン)はマギーの幼友達。財産はなく親もいない。公爵は金持ちのマギーと結婚するが、シャーロットは黙ってみていない。娘夫婦がイタリアの旅行中、シャーロットはアダムに近づき結婚する。元恋人同士は義母と娘婿になったわけだ▼父と娘、娘夫婦の仲睦まじい関係からシャーロットははみだしている。いわば部外者だ。彼女はこれが気にくわない。夫は娘を溺愛し、元カレはいうに及ばず。この映画でトラブルの元になるのがシャーロットである。情熱的で一途な性格ゆえ、公爵の拒絶も受け入れない。公爵は幸運の逆タマであるから、今さらシャーロットとよりをもどす気はない。でも相手の忖度などちっとも気にしないのがシャーロットという女性であって、とうとう不倫の関係を結ぶ。周囲にかける迷惑など彼女の目には入らないのだ。演じるのがユマ・サーマンである。ときどき彼女はかなりいかれた女性に扮する。本作のシャーロットはのちの、ポイズン・アイビー(「バットマン&ロビンMr.フリーズの逆襲」)の双子だと思えばわかりやすい。夫のアダムとマギーが密着しすぎて自分がはいりこめないとか、公爵と不倫の仲になったものの未来のない関係であることはわかっている。公爵もバカではなし、自分はマギーを愛していると三行半、さっさともとのさやに納まる。おさまらないのはシャーロットだ▼マギーをみていると、おなじヘンリー・ジェームズの名作「女相続人」のヒロイン、キャサリンを思い出す。父の医師は娘の恋人タウンゼントが貴族を気取っているが性本来ならず者だとわかっている。タウンゼントの姉のところに行き、娘は悪意のひとかけらもない純真な若い女だ、あなたの弟にやるわけにはいかないと告げる。ヘンリー・ジェームズにはこういう濃い父娘関係がよくある。本作のマギーも、人を傷つけまいとする気立てのいい女性だが、夫と義母の関係を知り、父親に義母とともにアメリカに帰ってくれるよう頼まねばなくなる。こうなる状況を読んでいた父は、なにくわぬふりをして「妻を連れてアメリカに戻ろう」と言い、シャーロットを娘婿から引き離す。不倫で家庭はかきまわされたが、結果的に収まったのであるが、台風の目になるシャーロットが、どこで暴風雨をよぶかわからない。そう思わせるのが、ほかならぬ、みえないところにヒビの入った「黄金の杯」なのだ。マギーと父親の友人、ファニーは傷物の杯など縁起でもない、と床に叩きつけて割ってしまう。ヘンリー・ジェームズのリアリストの目は「完璧な嘘」を冷たく捉えていて、それを体現しているのがだれあろう、シャーロットだ。公爵も公爵で、シャーロットとは熱愛の関係にもかかわらず「金がない」理由で渡りに船で、大富豪の女相続人と結婚する。どんなに甘い愛の言葉をささやいたところで、もはやマギーにさえ尻尾はにぎられたようなものでしょう。まして怜悧な親父の目をごまかせるはずもなく、それ以上に鋭い義母の魔手から逃れられるはずもなく、いつか元の木阿弥に陥る、不吉な予感に満ちている。幸福なのに幸福感のない映画ね。まあ、富豪パパの亡くなったときが、波乱の幕開けでしょうね、原作者はそこまで書いていないけど、金色のつぎに「虹色の嘘」でも作ればよかったのに。

 

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