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シネマ365日

2016年4月1日

特集「短くて充実した映画」① 
真昼の決闘(1952年 西部劇映画)

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監督 フレッド・ジンネマン

出演 ゲーリー・クーパー/グレース・ケリー

 

シネマ365日 No.1708

あんたとは格がちがうの 

特集「短くて充実した映画」

長尺もいいが、毎日映画を見て書くとなると、くたびれている夜は短くてしかも見応えのある映画をと、勝手な要求をしたくなります。つまらなさに辟易して早送りした、どのシーンよりもエンドマークに感動した、そんな映画の2本や3本、誰しも経験がおありにちがいない。ではどんな映画がある? まず浮かんだのが本作。ゲーリー・クーパーはいずれ「特集」のために、と残しておいたのですが、もういい、書いちゃおう、そう思っただけでわくわくする、中身のぎっしりつまった映画です。わかった、わかった、で、なにがそんなにいいのだ、そう聞かれたら、こう考えてみました。ゲーリー・クーパー、フレッド・ジンネマン、グレース・ケリー、この3人のなかでだれについていちばんおしゃべりしたい? はい。今回はこの人、フレッド・ジンネマン監督です▼ウィーン大学在学中に映画に関心を持った彼は(もともと音楽家志望でした)、フランスに行き、22歳のとき渡米、本格的に映画の勉強を始めますが業界は甘くなかった。助手や下働きをして「山河遥かなり」でアカデミー監督賞の候補になったのが渡米後18年。撮りたくない作品は断ってばかりいたジンネマンは、MGMから停職処分を受けたこともあります。でもビザ発行を待っている間に、収容所に送られホロコーストの犠牲になった両親を持つ彼は、ハリウッドが持ち込む、センチメンタルな映画にどうしても我慢できませんでした。「山河」の不入りから4年、信念を曲げず、商業的にもヒットした映画にとうとう彼は成功します。それが「真昼の決闘」でした。配役もよかった。ゲーリー・クーパーとグレース・ケリーとなれば当時俳優に求められる最高レベルだった。ジンネマンは45歳、クーパーは51歳、映画のイロハを知り尽くした監督と役者といってもよかった▼フレッド・ジンネマンは女性を主人公にして「尼僧物語」「ジュリア」の名作を撮っています。尼僧ではできないことがある、として還俗するヒロイン、ナチズムに立ち向かい命を落とすヒロインと彼女を愛する女友だち、自我と信念を貫くために生き方を変えようとしない、損得で動かない。男や女にかかわらず、そんな人間をジンネマンは愛しました。劇中ジンネマンの「男の肖像」を語るセリフがあります。保安官のウィル(ゲーリー・クーパー)は結婚式をあげ、この日を最後に退職、妻エミイ(グレース・ケリー)と町を出て行く日だった。昔ウィルにムショ送りされたガンマン一家が復讐に来る。みなはウィルに逃げるよう進め、ウィルもいったんは町を出るが引き返す。いっしょに戦う仲間を集めるがだれも手を貸さない。酒場の飲んだくれたちは、今まで厳しく町を取り締まってきたウィルの窮地を「ざまみろ」と、せせら笑っている。酒場の女ヘレンは、ウィルが好きだった。ヘレンに恋慕する男がいた。彼はウィルに協力を断った男だ。いまでもウィルを愛しているヘレンに聞く。あんなジジイのどこがいいのか。この町で女が夜ひとりでも歩けるようになったのはウィルが来てからだ、とヘレンは答える。「確かにあんたは、若くて立派な体をしていて力もある、女にもてるだろう、でもウィルとあんたは男の格がちがうの」ジンネマンが、死ぬまで描きつづけたのがこの人間の「格」でした▼酒場の女ヘレンを演じたケティ・フラドはゴールデン・グローブ賞の助演女優賞を取っています。いやいや、それをいうなら、アカデミー主演男優賞のゲーリー・クーパーを先に言わねば(笑)。劇中の経過時間が上映時間とほぼ同じ85分であること、クリント・イーストウッドが「ダーティー・ハリー」のラストで、刑事のバッジを棄てるシーン、あるいは「シャンハイ・ヌーン」は、本作の原題「ハイヌーン」へのオマージュであることなど、「真昼の決闘」がのちの映画作りに与えた影響は大きい。ハワード・ホークスは町の人々に協力を求めた主人公に、素人に力を貸してもらうという発想が気に食わんとか、最後に女房に助けられるなんて、とか言っていましたが、人の映画にどうのこうの、口をはさまなかった(ように見えた)ホークスの発言がもし事実なら、なみなみならぬ関心を本作に持っていたのでは。保安官とガンマンふたり、つまりプロだけでならずものに対決する「リオ・ブラボー」は、そもそも本作のアンチ・テーゼでした。男の稚気愛すべし、ハワード・ホークス(笑)

 

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