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シネマ365日

2016年4月4日

特集「短くて充実した映画」④ 
コマンドー(1986年 アクション映画)

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監督 マーク・L・レスター

出演 アーノルド・シュワルツネッガー

 

シネマ365日 No.1711

シュワの記憶

特集「短くて充実した映画」

人はだれでも、何も考えたくないときがある。何かから、上手く体を交わしたいときがある。嫌なことから逃げていると、しぶしぶ自覚するのもいいが、できればもう少し上手にごまかしたい。そんなときこそ、アクション映画よりいい逃避先があるだろうか。あえて断言するが本作は名作だ。ラブコールをシュワちゃんに。シュワちゃんが、ドイツ語なまりがひどいから、極力セリフの少ないサイボーグを演じた「ターミネーター」の悪役から、正義の味方になって戻ってきた。本作には「戻ってくるぜ」とか溶鉱炉の死闘とか、「ターミネーター」のギャグがいたるところにある。主人公ジョン・メトリックス(アーノルド・シュワルツネッガー)は、コマンドー部隊の優秀な隊長だった。でも妻がお産で命を落とし、娘を育てるために若くして退役、今は大自然の森の中で木こりをやって暮らす。娘ジェニーは11歳。完全なパパっ子で、父親は娘を目に入れても痛くないほど可愛がっている。日常的な情景の中に、ミステリアスなムードの漂うオープニングがなかなかいい。大型ゴミ収集車が、朝未だきの市街をゴトゴトと低音で近づいてくる。いつもと収集日と違うとぼやきながら、寝ぼけ眼でゴミ袋を持って走ってきた、パジャマ姿の中年男性は一瞬にして撃ち殺され、車はゴトゴトと急ぐふうもなく去る▼シュワちゃんは腕から登場する。最初何が映っているのかわからない。カメラが引いて、それが山のような筋肉の塊であり、肩であり、男の上半身であり、担いでいるのが大木の丸太だとわかる。ビルドアップされた肉体は人間離れしている。彼はこのたくましく、美しい肉体を駆使してアクション・ヒーローとなった。強いばかりではない。娘を愛し、正義を愛し、慎ましい市民の平和を愛し、群れることのない男の中の男を演じた。男の子も女の子も、子供の頃の憧れは「気は優しくて力持ち」だった。それがハイテクを駆使するヒーローになったり、武闘に長けたヒロインになったり、腕力の代わりに頭脳戦であったりはするが、古今のかっこ良さの原点が「気は優しくて力もち」にあることは変わらない。シュワちゃんのファンに案外女性が多いのも「優しくなければ生きて行く資格がない」男の典型に、女性は躊躇なく一票を投じるからだ▼離陸する旅客機から沼地に飛び降りるまでの一連のシークェンスは、今見ても素晴らしくキビキビして、緊張感にあふれている。シュワちゃんの図体が大きいせいか、何をしても悠揚迫らなく見えるのは得だ。飛行機が滑走路から車輪を浮かす。人間離れした肉体と先に書いたが、形状的な肉体だけではない。彼は敵の基地に潜入するのに、「忍び込む」というあたりをはばかる行動をとらないのだ。二重、三重に門扉に巻きついた太い鎖は引きちぎる、追跡中の男を電話ブース(まだケータイはなかった時代)に見つけたら、ブースごと持ち上げて叩きつける。大の男の片足を持って吊り下げる。軍放出品販売所の壁をトラクターで破って押入り、バズーカ砲を含む、ありとあらゆる武器を調達する。シュワちゃんが武器をボートに積んで、敵の島に上陸する時は海パン一丁だ。ミケランジェロのアポロでさえ、裸足で逃げる肉体美である。このシーンの武器の装着がまたいい。数種類のナイフ、手榴弾、何丁かの拳銃、軽機関銃、重機関銃とそれらの弾薬、爆破装置、バズーカ砲は軽々と片手に。全身これ武器と化した完全武装で敵陣に乗り込み、大挙して襲いかかる敵を、たった一人で殲滅するのだ▼弱者を代表するこういう言い方を許してほしい。胸がすくのだ。この映画を見るまでわだかまっていたトラブルの後始末、無能なくせに威張るノータリンの上司、権力のなさを、学歴(大した学校でもないのに)をひけらかすことで補おうとする反知性的男と女。自分以外のどんな人間も認めようとしない最悪のジコチュー。普段そんな連中に囲まれていれば、どこかで気分のサビ落としが必要になる。よくやってくれた、シュワちゃん。これこそ役者冥利だろう。整合性があるかどうか知らないが、シュワルツネッガーが政治家時代、カリフォルニアの赤字が膨れ上がっていたにもかかわらず、大過なく任期を終えたのは、心のどこかで、シュワを愛した記憶のある人が多すぎたのではないかと思っている。

 

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