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シネマ365日

2016年4月5日

特集「短くて充実した映画」⑤ 
暗殺者の家(1934年 サスペンス映画)

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監督 アルフレッド・ヒッチコック

出演 ピーター・ローレ

 

シネマ365日 No.1712

ふたりの出世作

特集「短くて充実した映画」

ヒッチコック初期の名作だ、名作だというけど実を言えば習作です。後年「知りすぎていた男」として、自分の作品の中で唯一リメイクしたところを見たら、本作の仕上げには、かなりの不満があったにちがいない。ただ、この頃からすでにヒッチ好みの作り方がよく出ています。彼の乗り物好きや、映画に名所旧跡を取り入れるところなんかね。「北北西に進路を取れ」のラッシュモア(大統領の顔が岸壁に彫ってある名所)、「泥棒成金」ではリヴィエラの高級リゾート街、「レベッカ」ではモンテカルロのカジノ。乗り物では「見知らぬ乗客」「バルカン超特急」「救命艇」などキリがない。列車の中、ボートの上という限定空間が好きなのね。ヒッチは本作までに数本のサスペンスをとっていますが、後年「サスペンスの神様」という「我が道」を見出したのは、本作からだというのが定評です。ということは監督ヒッチの記念碑的作品であるわけね。75分という短い尺でまとめたのは、今では考えられないような神業です▼ピーター・ローレがヌルッと現れます。この人が出演すると、他にどんなに書くことがあろうとなかろうと、まずあの顔を言わねば収まらないという、焦燥にかられるからふしぎ。とくな役者だと思うわ。たとえば「おやすみさないを言いたくて」の、ジュリエット・ビノシュが「物語る顔」だと本欄で書いたけど、ピーター・ローレだってその典型ですね。カエルみたいな目をクルッと巡らすと、たちまち、こいつまた悪事を思いついたな、と感じさせる。彼が部屋に入ってきただけで、さすがのボギーが食われてしまったのが「マルタの鷹」でした。背が低くどう見てもハンサムとはいえない、どころか見ればみるほど薄気味悪い風体なのだけど、絶対忘れられない人です▼映画はサンモリッツという観光名所から始まります。ロンドンのローレンス夫妻が娘のペティを連れてスキーに来ている。あっという間にホテルのホールで殺人が起こる。テキパキしています。夫妻の友人が射殺されたのだ。友人は死ぬ直前、ローレンスに伝言する。言われた通りローレンスは髭剃り(歯ブラシだったかも)の柄に隠してあった紙片を見つける。一方ヨーロッパではアボット(ピーター・ローレ)という男を首領とする暗殺団が、各国要人を消していた。ローレンスが入手した紙には次の暗殺決行の日時が書いてある。これを当局の手に渡させるまいと、アボットはローレンスの娘を誘拐した。警察に教えたら娘の命はないというわけ▼夫妻はアボットの指示に従う。警察がなんと言おうと、国際間の重大事項より我が娘の命のほうが大事だと、母親はきっぱり。これまたヒッチの大好きな気の強い女性です。後年の「知りすぎていた男」では、ジェームズ・スチュワートとドリス・デイが演じました。ドリス・デイが歌う「ケセラセラ」が、ドラマより有名になりましたけど。本作を見ていると、ヒッチはつくづく運動嫌いだったのだと思いました。彼の映画でアクション・シーンはほとんどありません。「北北西」でアクションといえば、ケーリー・グラントの「走り」くらいだったし。ヒッチの奥さんアルマは小柄でシャキシャキして、水泳なんかしていたけど、ヒッチが付き合った形跡はないと思う。ディレクターズ・チェアにどっかと腰掛けて動かないのがヒッチでした。だからこの映画でもアクションの場面となると(1930年代だから仕方ないといえばそうですが)極端に動きが幼くなります。もともと内省的な彼の本領はイマジネーションにありました。そうそう、本作でも交響曲のシンバルが暗殺者の発砲の合図です。多分ヒッチはここが気にいらなかったに違いない。だって後年の同じシーンは、段違いのグレードですから。ローレは舞台人でした。ユダヤ人だった彼はナチスの台頭で、ドイツからパリ、ロンドンに活動の場を移しました。ロンドンで本作に出演し、ハリウッドに知られるようになった。彼が個性的な脇役・悪役として名を成したのは、本作の悪役によります。

 

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