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特集「男前」

2016年4月15日

特集「男前3」② リーリー・ソビエスキー 
アイドル(2002年 社会派映画)

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監督 サマンサ・ラング

出演 リーリー・ソビエスキー

 

シネマ365日 No.1722

折れた翼 

アイドル(2002年 社会派映画)

美人で健康で、背が高く(178センチ)、出身は17世紀にさかのぼるポーランドの貴族、父親は画家、母親は脚本家、フランス語を流暢に話し(アメリカ人はなぜかフランス語に弱い)、14歳でデビューし監督にも共演者にも恵まれ、出演作多数、結婚し子供に恵まれ順風満帆なのに、なぜか物足りない。育ちがよすぎて貪欲になれないのか、順調に舞い込む仕事をわがまま言わず全部引き受けすぎるのか。エミー賞もゴールデングローブ賞も、ラズベリー賞さえ、ノミネートまできちんといくというところに、彼女の律儀な性格が表れている、そう思ってしまうのが本作の主演女優、リーリー・ソビエスキーなのだ。この映画に限っては監督のサマンサ・ラングも冴えませんでした。「女と女と井戸の中」や「ポエトリー、セックス」にあった、女のジレンマが、本作ではあっさりしすぎて、じつにたよりない映画になっています。リーリーが演じるのは女優の卵。薄汚れた下宿屋の間借り人として現れる。いつも代役専門でくさっている。同じ劇団の男(妻がいる)と関係し鳴かず飛ばずの日夜をすごす。彼というのは長すぎる顎を持った男で、リーリーとのキスシーンは、馬がかぶりついているみたいだった▼本作の副題は「欲望の饗宴」なのだけど、欲望も饗宴もありません。DVDにはときどき内容を見もしないやつが題をつけるにちがいない。思えばうら悲しい映画なのよ。サラ(リーリー・ソビエスキー)がアパートに引っ越してきた。向かいの部屋には中国人の元料理人ザオ、一階上には鉄道員、ザオと仲のいい女の子がカロリーヌ。早速アゴ男がサラの部屋にやってくるが、たちまち管理人から注意事項厳守の通達文が部屋に届く。いわく「性行為中に大声をだすのは抑えるべきだと思います。あなたの声が中庭中にひびきわたり教育上よくないとの意見が住人からあがっています」▼売れない女優サラはストレスとコンプレックスで拒食症だ。不健康な顔色に「食事はしているかね」とザオがきくと「砂糖水しかうけつけない」と答える。ザオは温かいスープと、美しく盛った中華料理を盆にのせ運んでやる。「中華料理は奇跡を起こす。死んだ人間でも目を覚ますのが中華料理だよ」。ザオは料理だけでなくサラのガウンを香料で洗濯し、アイロンをかけ、心地良く仕上げる。アパートではさっそく「あのクソアマの世話をザオさんがしている。うちにはお菓子も焼いてくれなかったのに」とか噂がたつ。ザオはアパートで尊敬を集める存在なのだ。サラはザオに「わたしと寝ようと思わないで。約束して」と言う。ザオはもちろん逆らわない。サラに欲情している鉄道員は、ある日ラム酒を持って部屋を訪れ(サラって劇団の稽古もないのでしょうか、しょっちゅう家にいます)図々しく勝手に飲みだしサラを襲うが、酒瓶で頭を殴られ、謝って退散する。妻が恐いのに不倫するアゴ男といい、この鉄道員といい、品下る男ばかり監督は集める▼サラは中華料理で奇跡を起こせるなら呪術もできるだろうと、劇団の主演女優シルヴィアに呪いをかけてくれとザオに頼む。「料理作ってくれるだけじゃイヤ。主役を失脚させてやりたい」ザオが断ると「インポ、のぞき屋」と悪口雑言。この映画で品下るのは男だけでなく女もそうなっている。ところがシルヴィアが交通事故で意識不明、回復は難しいと電話が入る。サラは自分の怨念がとんでもないことになったと悔やむ。ザオに謝罪の手紙を書きドアの下に挟む。ザオがサラと接近したことに嫉妬していたカロリーヌは、無断で手紙を読みポイ。小学生くらいだけど、末恐ろしいガキね。ザオはサラの自殺願望を知り、薬を料理に砕いてまぜ、それを持っていくとサラの部屋はからっぽ。読み古した台本が一冊置き去りにされてあった。追い打ちをかけるのがカロリーヌだ。「サラはこのアパートは最低だ、しつこい中国人がいて困っていると言っていた」と作り話。しかも「わたしも犬を連れてパパの家に引っ越すの。もう潮時だわ」。潮時の意味がわかるのは悪事を働いた本人だけでしょうね▼だれも幸せにならない映画です。もちろんそんな映画があっていいのだけど、物足りないのはヒロインが「フツー」すぎるのよね。コンプレックスも恋愛も、男とのなれあいも、おさまるべきところにおさまる。セリフの片鱗でわかるのは、サラがオーストラリア人で、ここロンドンにいて役者をやり、ときどき国の母親と電話で話す。ろくに役もつかず自分は恋愛まで代役だと自嘲し、行き詰まって帰国する。彼女の若い年齢からいうと「傷ついた青春、傷心の帰国」ということになるのでしょうか。しかし異国でサクセスをめざす芸人としては根性のないことおびただしい。ヒロインのこういう軟弱な性格が映画を弱くしています。美しいサラに執着をつのらせ、殺すほど愛してしまう老いた料理人ザオに、かろうじてラング監督のこだわりがうかがえました。彼のほうがよっぽど主役のキャラです。サラこそがザオのアイドル、折れた翼を持ったアイドルだったのね。

 

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