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特集「男前」

2016年4月16日

特集「男前3」③ ミシェル・ウィリアムズ 
テイク・ディス・ワルツ(2012年 恋愛映画)

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監督 サラ・ポーリー

出演 ミシェル・ウィリアムズ/セス・ローゲン/サラ・シルバーマン

 

シネマ365日 No.1723

ビター味 ハーレクイーン

テイク・ディス・ワルツ(2012年 恋愛映画)

ヒロイン、マーゴ(ミシャエル・ウィリアムズ)を取り巻くおばちゃんたちに、監督は人生の真実をばらさせています。理知的なサラ・ポーリー監督が裏ワザでみせる「やり手ババ」な手口、おもしろいですね。この映画、ヒロインの立場に比重が置かれすぎて「ビター味のハーレクイーン」みたいになったうらみがあるのだけど、監督がいくつか挿入するつぎのシーンに(そうだ、そうだ、これこそ現実だ、人生だ)と観客(特に女性)は正気に返ります。そのひとつ。スポーツジムのプールからあがった女たちがシャワーを使っている。マーゴもいる。7,8人の年齢不問の女たちが入れ替わり、たちかわり素っ裸で体を洗っている。全員アンダーヘア丸出しである。子供にたっぷり授乳した豊かな垂乳根(たらちね)、重々しくも荘厳な三段腹、タプタプした二の腕、アフリカ象のような脚(どすこい!)。すねのムダ毛を剃りながらひとりが言う「うちの亭主はきれいにしたってどうせ気づかないわ」「ほかに男はいないの?」「すべてを犠牲にして新しいものに手をだす意味、ある?」「でも新しいものに惹かれるわよね」「最初だけよ」「そーね。新しいものもいつか古くなるわ」なんとこの堂々たる哲学▼でもマーゴはまだまだその域に達せない。なにしろ28歳。結婚5年である。チキンのレシピ作家である夫のルー。やさしくユーモラスな夫と温かい家庭。マーゴはフリーライター、子供こそいないが夫婦仲は円満だ。ただちょっとマーゴは空虚感をかかえている。旅先で知り合った気になる青年ダニエルが、偶然向かいに引っ越してきた。ふたりはぐんぐん接近し、喫茶店で向かい合ったまま「教えて。あなたの愛し方を」なんてマーゴが聞き、ダニエルがそれに答え、妄想セックスに及ぶ。こんな調子である「最初は君の頭の先にキス。それからまぶたへ。ぼくの唇の先で君のまぶたがかすかにふるえる。ゆっくり時間をかけ君の唇に触れたい。でも人妻だから唇はだめ。かわりに首に唇をすべらせ、キスを浴びせ、左の肩のあざをじっくり味わう。そして君の匂いを胸いっぱい吸い込む」「どんな匂い?」「君らしい匂い。甘い香りのなかにファックの匂い」…あっそ▼でも二人は謹厳で内心は悶えながらも一線を超えない。マーゴは言うのだ「デートの約束をして」「いつでもいいよ」「30年後でもいい? ケープ・ブレトン島のルイスバーグの灯台で。わたしは58歳。あなたは?」「59歳だ」「2040年8月5日午後2時、あなたにキスするわ。もし夫に忠実でいれば30年後の1回のキスは許されると思うの」…泣かせます。でも男は切なさに耐えられず、荷物をまとめて引っ越す。マーゴに宛てた灯台の絵葉書に「2040年8月5日午後2時」とだけ書いて。マーゴはもうたまらない。ダニエルの車を見送る妻の、ただならぬ様子を窓から見ていた夫はすべてを察する。マーゴは男のあとを追い、いっしょに生活を始める。そのうちはじめは刺激的だったセックスも、別の男や女をまじえた3Pになり、非日常をもたらしたときめきの恋の衣装は、日常のありふれた普段着に変わっていく▼そんなとき義姉(夫の姉ジェリー)が失踪したときいたマーゴは久しぶりで夫を訪ねる。彼はレシピ作家として新刊を出版し売れていた。ジェリー(サラ・シルバーマン)はマーゴの親友でもあった。アルコール依存症を再発し、車で突っ込んできたジェリーは「失踪? 娘にヒヨコを買いにいっただけよ」とダンボールに入った数羽のひな鳥を見せ、マーゴに食ってかかる「わたしはアルコール依存症よ。あなた、ずいぶん思い切ったわね。いい気分でしょうね。信じられない。恥さらしはわたしだけ? バカな真似したわね。人生っていうのはどこか物足りないのが当たり前なの。抵抗するなんてバカみたい」マーゴはジェリーの力強い現実の肯定にたじたじとなる。成功した夫はいまやまぶしいような存在だ。うつむくマーゴに「謝るなよ、君は自分の心に従っただけだ。戻るなんていまさら意味ない。僕たちは大丈夫だ」君がいなくたって大丈夫。マーゴは恋の果てに待っていた過酷な現実に直面する▼監督は人生の空虚感とどう向き合うのかを、この映画は語っていると自作を解説していたけど、だからこう向き合えばいいという答えはだしていなかったわね。現実的な説明を省いたことが、映画の雰囲気を詩的にしているという利点はあるのだけどね。でも「まちがった方法で虚しさを満たそうとしたマーゴ」とまで監督は指摘しているのだから、ついでにマーゴが「まちがわなかった方法」も示しておけばよかったじゃないの。大きなお世話かもしれないけどそれは「感謝」よ。旦那へ感謝、家族に感謝、仕事と友情に感謝、追いまくられるほど打ち込むものがあったら、物足りなさを感じている暇はないわ。アフリカ象のおばちゃんたちと、アルコール依存症のお姉さん、熱に浮かれた妻を縛り付けていい結果にならないと、やさしく送り出した旦那がホントの大人だわ。

 

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