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特集「新宿2丁目を連れて歩きたいボーイフレンド」

2016年4月26日

特集「新宿2丁目を連れて歩きたいBF3」③
ソン・ガンホ|殺人の追憶(2003年 事実に基づく映画)

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監督 ボン・ジュノ

出演 ソン・ガンホ/キム・サンギョン

 

シネマ365日 No.1733

男のツラ構え 

ソン・ガンホ|殺人の追憶(2003年 事実に基づく映画)

善良な小市民の長屋のおじさんだろうと、チンケなワルだろうと、冷酷非道の犯罪者だろうと、片田舎の叩き上げの刑事だろうと、この役者が出てきたらコテコテの男臭さが暑苦しくなるほどふんぷんとする、そんな骨太の存在がソン・ヨンホだろう。彼の存在感を一言で言えば「どすん!」である。そこに居るだけで「どすん」と応えるのだ。吊り上がった細い目。引き結んだ口。太い猪首。眉はむしろスンナリした三日月型なのに、その下にある鋭い目をみると、激情型であることがすぐわかる。短い髪は何度も散髪に行く暇はないから、刈るときに思い切り短く刈っておくというふうな頭である。声は普通。意外かもしれないが「普通」だ。この「普通」は、本作のラストに用いられる「普通」という言葉の意味。つまり人間の肉体に備わる唯一手でつかめない本人性、声というあまりに敏感な徴(しるし)で手がかりをつかませたりしない、そんな繊細な感性の男が正体を隠すために装った「普通」なのだ▼1986年10月ソウルから南に50キロ、華城(ファソン)という農村の用水路の中に、手足をしばられ、頭部にガードルをかぶせられた若い女性の死体が発見された。強姦され腐敗が進んでいた。その数日後同様の手口の強姦連続殺人が起こる。この後1999年までの13年間に10人の女性が殺害された。30万人の警官が動員され3000名の容疑者が取り調べを受けたが犯人を特定できなかった。事件は同一犯による単独犯行とされた。映画は捜査本部が置かれた現地警察の叩き上げのパク刑事(ソン・ガンホ)と、ソウルから来たエリートのソ刑事(キム・サンギョン)が、捜査方法の違いでぶつかりあいながら、犯人逮捕に全知全能を絞る。捜査陣が情報を手がかりに、犯人を追い詰めたかと思うとスルリと逃げられる、今度こそと意気込むとこれまたちがう、あと一歩で間に合わなかった、ついにつかまえたがホンボシではなかった、のらりくらりと警察の手をすりぬけ、あざ笑うようにつぎの殺人が起こる。そんな追跡のプロセスをボン・ジュノ監督は執拗に追っていく。刑事の執念というよりこれは、監督の、自らの映画作法としての信念であり執念であろう▼事件には共通項があった。犯行は雨の日に行われる。毛髪・陰毛などのてがかりを一切残さない。被害者の所持品(ガードルやブラジャー)を犯行に使う。被害者は赤い服をきていることが多い。犯人は農道などに隠れ遅い時刻に帰宅する女性を狙う。口を手で塞ぎナイフなどで脅し道から離れた藪などに引きずり込む。パンティやガードルを口に押し込み声をたてられないようにする。被害者の陰部に皮を剥いた桃の小片を、別の被害者は所持品のスプーン、ボールペンなどがつめ込まれていた。なにをされても目をつむって、犯人の顔を見なかったために殺害を免れた女性は「わたしの口をふさいだ手は、柔らかい女のような手だった」と証言した。捜査本部は田舎の警察の、暗い汚い、掘っ立て小屋みたいな部屋である。パク刑事は容疑者を自白に追い込むためには拷問も辞さない。相棒の刑事はケリをいれて容疑者をいためつける。こんな取り調べがまかり通っていることに、動転していてはこの映画についていけないと教えるのが、ソン・ガンホのクマのような顔と体型である▼追い込んでもしょっぴいても、真犯人にたどりつかないいらだちが刑事たちを疲労困憊させる。捜査本部でつかみあいの乱闘を始めた刑事に、婦警が叫ぶ。「かかっているわ、この曲よ」。彼女は殺人のあった夜に必ず「憂鬱な手紙」のリクエストがあったことをつかんだのだ。それが流れている。殺人は今夜起こるのだ。刑事たちはラジオ局によせられたハガキで工場に勤務する青年ヒョンギュを割り出す。彼はおとなしい青年でその手は柔らかかった。ヒョンギュを犯人だと確信したが証拠がない。現場に残された精液とヒョンギュのそれが一致すれば犯人と確定できる。DNA鑑定をアメリカに依頼するあいだ、ヒョンギュを釈放、監視を続ける。ちょっとした隙にヒョンギュは部屋を出てバスに乗ってしまった。そのとき雨が。つぎの犠牲者はソ刑事に貴重な情報を与えた女子学生だった。ソ刑事は憤怒にのたうつ。DNAの鑑定は「一致せず」だった。怒りに震えるソ刑事はヒョンギュを殴り倒し拳銃をつきつけ、自白を強制する。止めたのはパク刑事だった。「もうやめよう。おれにはわからん」そしてヒョンギュに「お前、ちゃんとメシ食っているか。もう帰れ。どこへでも行け」無力感にうちのめされた結末である▼パク刑事は「犯人の陰毛が現場に一本も残っていないのはどう考えても不自然だ。犯人は無毛症だ。つんつるてん」だと結論し身銭をきって銭湯に張りこみ、朝から晩まで湯船につかり男の下半身を注視する。つぎは高い料金を払いよくあたる占い師のもとにいくがみな空振り。しまいに恋人から「人間のする仕事じゃないわ。刑事、やめたら?」と言われる。こんなエピソードを挟むところが監督の手練手管だろう。ソン・ガンホの顔貌そのものが芸ですね。

 

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