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特集「ベストコレクション」

2016年5月1日

特集「風光る五月のベストコレクション」① 
アメリカン・ドリーマー 理想の代償(2015年 社会派映画)

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監督 J.C.チャンダー

出演 オスカー・アイザック/ジェシカ・チャスティン

 

シネマ365日 No.1738

いまさら騒がないで

特集「風光る五月のベストコレクション」

主人公アベル(オスカー・アイザック)には、つくづく首をひねってしまう。1981年、犯罪と暴力の都市ニューヨークのオイル業界で、サクセスした実業家がアイザックだ。彼はクリーンなビジネスを信条に、オイルカンパニーを築き上げた。自身移民であるから生き馬の目を抜く業界で、トップに立った苦労は計り知れず、彼を引きずり降ろそうとするライバルたちがひしめいている。彼の道徳観は小ゆるぎもしない。「常に正しい道を選択し、これからも選択する」のだ。アベルは事業拡大のための土地購入の頭金を、有り金はたいて投入する。直後、何者かが積荷のオイルを強奪する。彼の会社の、オイルを運ぶトラックの運転手が次々襲撃され、運転手の一人ジュリアンも入院した。アベルが病院に駆けつけると、妻のアナ(ジェシカ・チャスティン)が先に来ており、厳しい表情で見つめる。アベルは警察に訴えるというが、妻はハナから警察など信用していない▼業績好調ゆえに脱税の疑いまで掛けられる。娘の誕生パーティーに自宅に検察局が捜索に来るなど、よって集って「アベル潰し」だ。運転手は怖がってトラックに乗りたがらない。彼らに身を守る拳銃を持たせるよう、弁護士はアドバイスするが、アベルは「銃を持てば争いに巻き込まれ、会社は潰される」と拒否する。退院したジュリアンは営業職への転任を願いでたが、アベルにとってはオイルを運ぶ人材を減らすわけにはいかない。ジュリアンを説得しトラック運転を続行させる。ところが再びジュリアンは襲撃され、彼は持っていた拳銃を発砲する。橋上の発砲事件だ。逃走する襲撃者につられ、怯えたジュリアンも現場から姿を消す。警察はジュリアンの行方をアベルに聞きに来る。アベルはジュリアンの妻を訪ね「ジュリアンは私と会社に害を及ぼした。正しい行いをするなら力になる」という。つまり警察に出頭しろというのである。ジュリアンはいち早く妻にかくまわれていて、アベルの声で窓から逃げる▼アベルと妻が夜、車で帰宅途中、路上で鹿を轢く。鹿はまだ生きていた。妻は「楽にさせてあげて」。アベルはトランクから金具か何か出してきた。背後から銃声が二発。銃を持った妻が撃ち殺したのだ。銃の許可はあるのかとアベルが聞く。「まだよ」と妻。妻はギャングの娘だ。夫を愛してはいるが、後3日で金を作らねばならない時に、夫のいう「正しい選択肢」とは何のことだ。彼女の選択は常に「目には目を」である。夫婦の間に溝ができる。何が不満だと夫は怒りをぶちまける。豪華なドレスも豪邸も、欲しいものは全部与えた。「与えた?」妻は訊きかえす。アデルは妻に「ブルックリンのギャングの娘が!」「あなた、自分がバカいっているとわかっているの。あなたの成功は努力と幸運のおかげ? まさにアメリカン・ドリームね。でも成功はわたしが汚い仕事を引き受けたからよ」妻はアベルに秘密の銀行口座を教える。彼女が経理をごまかして蓄えてきた裏金だった。「わたしたちのお金よ」▼不正を許せないアベルは断固拒否するのか。いいえ。あっさり「君のあの金を使おう」な、な、なんだったの。結局これが「正しい選択」だったの。つくづく思うのだけど(この映画にはつくづく思わせられることが多い)従業員が毎日のように暴行・襲撃を受けているのにやられっぱなしなんて、どうかしている。クリーンであることは立派だと思うが、妻のやっていることのほうが、経営のリスクマネジメントとしては「正しい選択」ではないのか。彼女は夫が移民だし、自分の実家はギャングだし、警察も検察も差別の色メガネで見ていることを知っている。強くあるためには、常に非常手段を講じておかねばならない。程度の問題はあるが、手を汚さねばならないことだってある。夫は表の立場でクリーンを選択すればいいが、三日で150万ドルを作らねばならない、そんな事態が生じるのも、事業の現実なのだ。妻はいうのだ。「いまさら騒がないで」そう言や「今すぐ奥さんを社長にしなさい」なんて、ベストセラーがなかったっけ▼ジェシカ・チャスティンは真っ赤なルージュにそそる唇。柔らかくカールしてふさふさと流れ落ちる金髪、見つめる瞳はミステリアス。翻って、オスカー・アイザックは背が高いわけでもなく、気絶するようなハンサムでもない、もぐもぐと口にするセリフは「正しい道を選ぶこと」だ。これでは彼がいかに有能な俳優だったとしても、イキのよさを感じさせろと頼むほうが無理だろう。彼の男を際立たせるセリフなり、キャラなり、だれも何も、考えてやらなかったのだろうか。

 

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