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特集「ベストコレクション」

2016年5月6日

特集「風光る五月のベストコレクション」⑥ 
白い沈黙(2015年 サスペンス映画)

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監督 アトム・エゴヤン

出演 ライアン・レイノルズ/ロザリオ・ドーソン

 

シネマ365日 No.1743

カタルシスのなさが辛い

特集「風光る五月のベストコレクション」

イマイチよくわからん映画だわ。いくつかの疑問がすぐ浮上する。誘拐された少女キャスは9歳だった。8年後だから今17歳(アレクシア・ファスト)だ。ミカという人品卑しからぬおじさんが実は誘拐犯で、キャスを監禁しているのだ。ミカは身代金を請求するわけでもなく、キャスを閉じ込めていた。で、キャスはのちに8年ぶりに再会した父親マシュー(ライアン・レイノルズ)にこう言うのだって。一度だけ合わしてくれるって約束なの。この再会はわたしのためのもの。あの人たちは何でもしてくれるの。わたしは宝物なの。これは夢よ。もう二度と会えないの」「待ってくれ。ママも待っている。うちへ帰るのだ」「トリック(細工)は要らない、は変よ。ギミック(小細工)が正しいの」「何を言っている、何のことだ」「スケート靴を色違いにするのも無関係。才能で目立てばいいの」「何のことだ、何を言いたいのだ。待ってくれ」。雪景色の車の陰からミカが現れ、麻酔銃でパパは眠らされ、キャスとミカは雪煙の向こうに消えていく▼確かにあたり一面雪で覆われた白い景色は森閑としてミステリアスだ。しかしこの少女はいきなり誘拐され、両親と引き離され、どれだけ大事にされたとしても所詮実の親でもなんでもないおじさんや(多分おばさんもいる)他人の中で、逃げる気はしなかったのだろうか。監禁されているのは別室の秘密の部屋みたいだったが綺麗でセンスがよく広い。キャスが誘拐されてから夫婦の間に亀裂が生じ、結局は別居である。捜査に当たるダンロップ刑事(ロザリオ・ドーソン)も、この8年間、キャス誘拐事件を追い続けてきた。父親マシューは仕事がうまくいかず、借金があり、警察から「娘を売ったのではないか」と疑われ、以来警察に憎しみをたぎらせている。母親のティナは、家政婦として働いている。ある日、仕事先の部屋を掃除していると、キャスが使っていたヘアブラシと、キャスがフィギュア・スケートでもらったトロフィーが置いてあった。何かのメッセージに違いない。キャスは生きている▼キャスと再会した日も、マシューが雪道に置かれたモミの苗が、まるで行く先を教えているように、道のある方向を向いて倒れていたからだ。マシューが木の示す方へ行ってみると、そこにもモミの木が、道標のように立ち、次のモミの木に誘導している。そしてついにマシューは、道の行く手に、成長した娘の姿を見つける。でも言っちゃなんだけど、全然感動なかったわね。キャスが幻みたいに、不意に現れるのよ。なにこれ、お父さんが見ている幻影じゃないかと思ったら、抱き合っているでしょ。キャスは途中のセリフでミカに「もうわたしに用はないでしょ、大きくなったのだから」と言うのね。ミカっていう男は小児性愛の変態だってわけか? キャスは性的暴行を受けていたの? じゃないでしょう。宝物みたいに扱われていると言っているのだから▼はっきりさせてくれよ。ダンロップ刑事の上司らしい警官が「子供を誘拐され、苦しむ親を見て喜んでいるのだ。こいつは愉快犯だ。組織的な会員制かもしれない」と見解を述べる。察するに、可愛らしい少女のキャスを囮にしてネット上に乗せ、引っかかってきた訪問者を拉致誘拐する犯罪グループがいるってこと? ミカは組織の末端か中枢か、それ以外にどんな連中がいるのか、一人だけ共犯らしい女が登場しチャリティ・パーティーに出席したダンロップ刑事のワインに薬を入れて拉致する。刑事は廃車を改造した檻に閉じ込められ、ミカが射殺されたのち救出される。そうそう、ティナが見た娘の所持品は、キャスが「ママに会いたい」というので、ミカが母親の勤務先に隠しカメラを設置し、そこで仕事する母親をキャスに見せていたのだ▼こうして書きながらも、つかみどころのない映画だったとつくづく思う。父親と再会したときのキャスの、暗号のような言葉は、誘拐される直前、マシューとキャスが車の中で交わした会話だったけど、発見されたのち、大した意味があったとも思えない。見逃したのかしら。何れにしても映画の愉しさというか、踰越からは程遠いのだ。わたしたちの社会で、拉致誘拐は現実にある。監禁もある。誘拐された少女が何年かぶりに保護された事実も知っている。この映画は、そういう犯罪を許してはいけないというキャンペーンだというのなら話は別だ。それならそれでもっと怒りに満ちた作り方が必要でしょう。ミカみたいな気色の悪い男を、ベンベンといつまでもスクリーンの上にせよ付き合わせておいて、わたしたちはまるで、彼みたいなやつを理解しなければいけないのか。マシューは野蛮かもしれないけど、賛成だわ、一刻も早く刑務所にぶち込むべきだわ。といっても犯罪の背景やら張本人やら、組織云々の手がかりなど、ひとつも与えられないから、感情や思考の着地点に困ったわ。カタルシスなし。沈黙。

 

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