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特集「ベストコレクション」

2016年5月7日

特集「風光る五月のベストコレクション」⑦ 
レディ・ソルジャー(2015年 社会派映画)

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監督 ピーター・サットラー

出演 クリステン・スチュワート/ペイマン・モアディ

 

シネマ365日 No.1744

愛を込めて、ブロンディ 

特集「風光る五月のベストコレクション」

エイミー・コール一等兵(クリステン・スチュワート)が、これ以上ないというくらいの、緊張した暗い顔でキャンプに到着する。テロリストの被疑者が収容されているグアンタナモ湾キャンプだ。無機質な壁、廊下、柵。無事着いたと、パソコンに向かって母親と話す。ボーイフレンドと別れたばかりらしい。兵士ばかりだから「いい人がいるかも」という母親の言葉に、「軍人と付き合う気も夫にする気もない」と素気無い返事。コールには心を開かないところがある。男性にだけでなく、世間や、自分自身さえ疑っている。ここに未来に意味も価値も感じない女性兵士と、未来を完全に閉ざされた男がいる。彼らはどうやって生きる方向を見出すのだろう。図書配本係になったコールは、拘留者のひとり、アリに「ハリポタの最終刊はまだか、いつになったら届くのだ」と聞かれるが答えられない▼拘留者と長い会話は禁じられていた。兵士が自分のことを話すことも。アリがコールにクソ爆弾を投げつけ、コールは悪臭紛々の糞まみれになる。懲罰としてアリは「旅」に出ることになる。一週間の間、毎夜2時間ごとに房を変わる、つまりほとんど眠れないのだ。「残酷では」と批判的なコールに上司の伍長は「お前は赤十字か」。アリは拘留されて8年になる。「なぜ何年も俺たちを閉じ込める。アメリカ人こそテロリストだ」。拘留者たちは全員でハンストに入った。手を焼いた上層部に「彼らは運動がしたいらしいです」とコールは情報を与える。ひとりしか入れない、猫の額みたいな檻で拘留者たちは、サッカーボールを蹴ることを許された。「サビーナは46回トスできる、俺は18回しかできない」「できるわ」「できたとしても証人がいない」「私が証人になるわ」檻を隔てて話していたら「一等兵、来い」。厳しい伍長の声が飛び、拘留者と無駄話をした懲罰として、シャワー係を命じられる。全裸の男にシャワーを浴びせるのだ▼コールは夜勤配置を命じられた。「理由は?」と聞くと「軍隊に理由などない」が答えだ。狭い廊下を往復し、3分ごとに房の中をチェックし、拘留者が自殺していないかを監視する。監視員のひとりは「俺たちはラッキーだ。もしイラクだったら今頃爆弾を食らっていたかもしれない」というが、ここにどんな未来があるのか。コールはアリの前歴を調べた。ドイツのブレーメン出身、大学を出て通訳になった。アリはコールをブロンディ(金髪娘)と呼ぶ。夜勤の交代までの時間を、コールはアリと話すようになった。「ブロンディ、なぜこの基地に来た?」「そっちは?」「俺はアルカイダとは無縁だ。テロリストでもない」「出身はブレーメンでしょ。恥ずかしいけど、私は故郷のネブラスカを出たのはこれが初めてなの」「君はまだ若い。世間を学び始めたばかりだ」「何かを成し遂げたかったの。重要なことを」「わかるよ。もうすぐ8月だな。8月は嫌いだ。監視兵はいつも8月で交代する。またここを希望するか」「わからない」「故郷の小さな町に帰るか」「いいえ」「どこへ」「旅行するわ。ブレーメンへ」「ここで何を学んだ。俺のクソを浴びて。ハンストで自殺しようとするのを見て」アリの質問は重かった▼ある夜アリは自殺を図った。コーランに隠した小刀を半ば喉に突き刺しかけたところをコールが発見した。「あきらめないで。こんなところで死なないで。物事は変わるわ」「今の俺は生きていると言えない。俺を受け入れてくれる国などない。君にはわからない」「私はエイミー・コール。フロリダ出身よ。子供のころパパとブレーメンに行ったわ。動物園があった。サイテーだった。檻に入ったライオンはかわいそうだった。パパはこれでいいというの。故郷に戻ってもライオンは生きていけない。どうすればいいかは、ライオンに選ばせるしかないと」。コールは食器出し入れ口から手を差し伸べ、小刀を取り上げると、腕を伸ばし、顔の見えぬアリの腕と握り合った。これで正しいのか。独房で未来を奪われた生を紡ぐアリに、何を選ばせるというのか…▼8月コールは次の任地に向かった。新兵が図書を積んだカートを押して配本に回ってきた。「見せてくれ、その黄色い表紙だ」アリが手にした本は念願の「ハリポタ」最終巻「死の秘宝」だった。表紙を開けたら中扉に書いてあった。「アリへ。スネイプのことは知らないけど、あなたはいい人だと思うわ。愛を込めて。ブロンディ」コールは愛を知ったのですね。まるで世を捨てたように、なんの希望もなく兵士になったコールが、自分と同じように未来を見いだせないアリと向き合い、そこに鏡のように自分の姿を見る。どうあがいても小さな箱に密閉されたアリと比べ、自分は何を自ら棄てようとしているのか。しっかりしろ。アリは教えてくれたではないか「君は学び始めたばかりだ」と…コールの頬をとめどなく涙が流れた。クリステン・スチュワートが一作ごとに力をつけています。

 

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