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特集「ベストコレクション」

2016年5月8日

特集「風光る五月のベストコレクション」⑧ 
フェア・ゲーム(2011年 事実に基づく映画)

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監督 ダグ・マリーン

出演 ナオミ・ワッツ/ショーン・ペン

 

シネマ365日 No.1745

カモ(鴨) 

特集「風光る五月のベストコレクション」

CIA元職員のヴァレリー・プレイム(ナオミ・ワッツ)と、夫のジョー・ウィルソン(ショーン・ペン)の回顧録を元にした映画化です。日本でも連日報道されていた「イラクの大量破壊兵器」。はたしてどこに隠されているのか。その事実がわからないうちから、日本では(というか、わたしのすぐ身近では)「あんなものあるはずがない」「ブッシュの言いがかり」「イチャモンつけてまた戦争するつもり」などと言いたい放題いっていたのですが、今から考えると一般市民の感覚って、わりと健全なのだと思います。映画では、イラク担当のヴァレリーや、ニジェールで外交官をしていたジョーは、あらゆる情報を付き合わせた結果、どう考えてもイラン政府に「大量破壊兵器など作る経済的余裕はない」と結論に至ります。CIA上層部もヴァレリーの報告を政府に提出、ところが大統領は一般教書演説でイラクが大量破壊兵器を製造するためのウラニウムの使用に言及し、軍事行動を起こしたのです▼だれが考えても想像できます。イラクが破壊兵器を作っていないとブッシュ政権は都合が悪かった。9.11以降アメリカは国家の威信をかけ、テロに対する報復攻撃を仕掛けていました。同時に「強い正しいアメリカ」をアピールし、国民の支持を高めなければなりませんでした。フセイン独裁のイラクをテロ国家として標的とし、葬ることは、アメリカの正義と実力を見せつけるのに格好の材料だった。核兵器を作るために必要な濃縮ウランの売買など、イラク攻撃の口実にすぎず、ヴァレリーやジョーの調査でもなんの証拠もありません。対イラク戦争に持っていくために仕組まれた「大量破壊兵器」の存在を、ジョーは「わたしがアフリカで見つけられなかったもの」と題して新聞に。署名入り記事を発表します。アフリカで、というのは彼が調査に当たったニジェールでの事実です。その記事は「大量破壊兵器はブッシュ政権の虚偽」であることを真っ向から主張しました。これに対し「ジョーのいうことなど信用してはいけない」と世間に印象付けるために、ジョーの妻がCIA職員であること、ジョーは妻から仕事をもらってアフリカに調査に行った、などというガセネタで流れを変えようとします▼証券会社勤務という表の顔から、CIAの優秀な工作員という裏の顔を明るみに出されたヴァレリーはCIAを解雇、18年間のキャリアは終わりました。継続中の諜報活動も自動的に打ち切られた。彼女が情報収集のため、各国で築いてきた人脈と信頼関係は、CIAというバックを失い、支持も支援もなくし、ヴァレリーを信じて協力に当たってきた関係者は殺されます。ヴァレリー自身の生活にも、脅迫状や無言電話、嫌がらせや脅しが日常化されてきました。ジョーは徹底抗戦の構えでした。マスコミに登場し、講演し、火に油を注ぐような夫の行動に、ヴァレリーはついていけなくなります。とうとう実家に戻り、自分たちの結婚はもうダメかも、と父親に弱音を吐くのでした▼テーマの大きさに反比例して、映画はとても地味です。ナオミ・ワッツやショーン・ペンがそもそも騒々しいキャラではありません。しかし国家に裏切られた夫婦、そして夫と同調できなくなった妻、妻を信頼できなくなった夫というふうに、すべてが負のスパイラルに流れ込んでいかざるをえない過程を、抑制の効いたタッチで見ているうち、だんだん「人ごとじゃない」気がしてきます。国は異なるし、事情も違うし、一般日本人であるわたしが、イラク大量破壊兵器について何を知っているか、せいぜい新聞・テレビのマスコミ報道によるものだ、でも今回アメリカ政府がとった武器は、まさにそのフツーの報道、新聞の下欄に乗せた小さなベタ記事が導火線であり起爆剤なのです。簡単に握り潰される真実、無視される情報、ねじ曲げられる正義、それによって信頼関係を失い、愛を見失い、結果的に協力者を裏切ることになり、命さえ奪われてしまう、こんなことが意図的に操作される。国だ、政府だといったところでどこまでいい加減なのだろう。そう思ったって決して間違いじゃない、どころか、そういう目は持たなければいけないと思うのです▼ジョーと味わった苦渋の戦いの後、ヴァレリーは立ち直りますが、砲撃シーンも核弾頭もなかったのに、この映画の重苦しさには参りました。フェア・ゲームとは「かも」のこと。鴨がネギしょってやってくる、のカモですね。ここでは「格好の標的」「おいしい相手」。ブッシュ政権にとっての「カモ」だったのが、ヴァレリーであり、ジョーでした。国民とは、かくも簡単に末梢され、踏み潰されるかもしれない存在なのです。

 

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