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特集「ベストコレクション」

2016年5月10日

特集「風光る五月のベストコレクション」⑩ 
しあわせへのまわり道(2015年 家族映画)

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監督 イザベル・コイシェ

出演 パトリシア・クラークソン/ベン・キングスレー

 

シネマ365日 No.1747

コイシュ監督のウィンク 

特集「風光る五月のベストコレクション」

イザベル・コイシェ監督は、ベン・キングスレー、パトリシア・クラークソン主演で過去に「エレジー」を撮っています。中年の大学教授キングスレーがペネロペ・クルスと恋に落ち、しかも彼には愛人パトリシア・クラークソンがいるという、贅沢な配役でした。コイシェ監督の映画には、珍しくもなくおいしくもないのだけど、ポリポリかじり出すとやめられない炒り豆みたいなところがあって、最たる作品は「ナイト・トーキョー・デイ」でした。菊地凛子が殺し屋になるというので見たのですが、殺しもせず殺されもせず、お仕事を途中でほっぽり出す殺し屋なんて初めてでした。殺し屋を日常レベルで描いたのが失敗だったと、今ならわかりますけど当時は意味不明の映画でした。コイシェ監督にしてみたら、ゴルゴ13みたいな殺し屋には絶対したくなかったのでしょう。ドラマティックは敵だ、とでも監督は言いたいのではないか、いやいや、日常の中にドラマを見出せず何を映画にするのか、そういう不動のような視点が監督にはあるにちがいない、と思います▼だからというわけでもありませんが、本作の焦点を、徹底的に家庭内の揉め事に絞ったことを吉とします。ヒロイン、ウェンディ(パトリシア・クラークソン)は、ある日夫から唐突に離婚を言い渡される。彼女は人気の文芸批評家である。離婚の理由は、妻は家で本ばかり読んで、夫と会話らしい会話もなく、家庭内離婚同然だった。夫が浮気しても何の不思議がある、と開き直られたのだ。ウェンディは「一体私のどこが悪かったの、言って、改めるわ」と泣き叫ぶが後の祭り。久しぶりに家に帰ってきた娘と夕食をとりながらゆっくり話そうとしたら「ごめん、ママ、今日はパパと約束があるの」。くそう、どいつもこいつも、いつからわたしにこんなにつれない、ウェンディは妹が紹介してくれたヨガする実業家とセックスもするが、いつまでたっても果てない「ヨガ力」の絶倫に恐れをなしてバイバイ▼娘の大学は僻地にあって、今までは夫の運転でどこにでも行っていたが、これからはそうはいかない。免許を取ることに。昨日乗ったタクシーの運転手が忘れ物を届けに来てくれた。彼ダルワーン(ベン・キングスレー)は亡命したインド人で運転の教官でもあった。思い切って習うことに。ターバンを巻き、ふさふさと髭を蓄えたダルワーンはアラブ人と間違えられ、いたるところで侮蔑的な言葉を投げつけられる。ターバンと髭を取ればいい仕事にも就けるが、それでは自分を見失う、とダルワーンは頑固に言うのだ。動じないダルワーンにウェンディは興味を引かれる。彼はインドの大学の元教授、シク派ゆえ弾圧を受け刑務所に。政治的亡命を選び、故郷には妹と母親がいる。妹は独身の兄のため花嫁を選んで飛行機に乗せた、今夜迎えに行く…「えっ。顔も見ないで結婚するの!」「見合い結婚に批判的だな。シク教徒は本人より家族が理解している。だから正しい相手を選べる」と、恬淡と言う▼ダルワーンの教え方はウェンディにとって人生訓そのものだ。「君の生活でなにがあろうと、運転中は路上に集中するのだ。悪いことは一瞬で起こる。それで人生を失う」まるで自分のことのようだ。夫に棄てられ、ウェンディは一時狂ったように泣き叫んでいた。永遠に夫婦は一緒だなどと、何を根拠にそう信じたのか。振り返れば「夫より本を愛していた」自分に気づき、夫が女を作って出て行くのも無理ないと思う。ダルワーンの教習を受けていると、ウェンディは不思議と気持ちが落ち着いた。ダルワーンもしかし新婚の妻と問題を抱えていた。英語のわからない妻は引きこもりになった。妻が作った夕食に、ダルワーンはバターを使いすぎだとか、牛乳を買ってこいとか注文をつける。英語が喋れないと妻が言ったら、誰とも話をしないから当たり前だと叱る。ある夜妻は「あなたは仕事に出かけて1日留守、帰ってきたら文句ばかり。どうしろというの。こんなもの」と、ダルワーンがプレゼントしたワーズワースの詩集を投げ捨てる▼妻はある日生理用ナプキンを買いに思い切ってスーパーに行って、話せないからインドから持ってきたサンプルを見せたら、おばさんの店員は「読めないわ」と突き返した。助けてくれた女性がいた。「あんた、みたらわかるでしょ。この店にナプキンはないの!」。初めて友達ができて妻は明るくなった。笑っている妻を見て、ダルワーンもいたわりが足りなかったと反省する。運転の教習を通してウェンディは強くなった。人生のつまずきを冷静に受け入れ、他人を認め、忍耐しトライすることを学ぶ。無事免許を取得したウェンディは、ダルワーンに別れるときが来た。お互いに好意以上の感情はあっても、それはそれでまたいつか別の話。今は、ウェンディは赤い小さな車を運転し、娘の学ぶ農場へ行く、ダルワーンは夜の勤務をやめ妻と過ごすことに決めた。「どうだ、嬉しいか」「嬉しい」。こんな日常があって、やっぱり人生は素敵でしょ…と、監督がウィンクしている。

 

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