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特集「ベストコレクション」

2016年5月14日

特集「風光る五月のベストコレクション」⑭ 
荒野の女たち(1965年 ヒューマン映画)

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監督 ジョン・フォード

出演 アン・バンクロフト/スー・リオン

 

シネマ365日 No.1751

最後の決めセリフ 

特集「風光る五月のベストコレクション」

半世紀以上前のこの映画の新しさは、「エイリアン」のエレン・リプリーに先立つ10年以上前に、いずれスクリーンのヒロインはヒーローに転換する、それを予言していたことね。ジョン・フォードは男の映画の傑作をあまた世に出していますが、「駅馬車」にせよ「リオ・グランデの砦」にせよ、「捜索者」にせよ、女優の比重は重いです。クリント・イーストウッドは「許されざる者」で、亡き妻との別れのシーンを「黄色いリボン」へのオマージュとしていました。本作はジョン・フォードの遺作です。彼は映画人生の最後に、こんな「男前」を撮ったのね。映画は終始テンポよく進みます。88分の尺はエキスの塊です。時代は1935年、中国とモンゴルの国境にある、キリスト教伝道所に、女医カートライト医師(アン・バンクロフト)が赴任します▼近辺は馬賊が出没し、村を襲撃し略奪、強姦、破壊、皆殺しをやる無法者地帯。ところが伝道所は、男は神父見習いの初老のおじさんだけ。彼の妻は身重。あとは所長はじめ全員(と言っても7人だけど。原題は「7人の女たち」)女子である。厳格な所長のもとで、彼女らは慎ましく伝道に励んでいました。妊婦の妻はだいぶ自分勝手な女で、この体で医者がいないとどうしてくれる、とわめきちらしているところへ、やっとお医者さまが到着したわけ。カートライトはタバコを吸い、酒を飲み、祈りも捧げず、所長の訓戒も馬の耳に念仏。自分が身を捧げているのは神ではなく医療にだとうそぶく。そんなリアリストの女医に、いちばん若い修道女エマ(スー・リオン)が話を聞きたがる。所長は面白くない。ジョン・フォードは露骨に描いていませんが、所長はエマに通常ならざる愛情を抱いています。下着だけのエマを見てドギマギするとかね。でも監督の本題はそっちの方向ではありませんのでパス。所長はエマの関心を女医からそらせようとするが、そら若い女の子なのだから、見聞きしたいこと、いっぱいありますよ。女医は飲み込みの早いエマに、医療の助手なども覚えさせ、自分の経験も語る。医者になるため必死で努力したが、女に出世は望めない、最低の病院で苦労し、人並みに恋をしたが相手は子持ちで妻の元へ帰った、でも誰かのために、誰かといっしょに泣いたり笑ったりするのが人生だ、伝道所の外に真の世界がある、できれば早くここから出たほうがいい…▼ある夜イギリス隣保館が馬賊に襲われ炎上した。避難民が伝道所を頼ってきた。彼らの中にコレラ患者がいて、感染により死者が相次いだ。昼夜を分かたぬカートライトの処置で感染はストップしたが、伝道所の治安維持を受け持っていた中国部隊が馬賊に追われ移動、伝道所は孤立した。ここで女子戦闘隊が馬賊を迎え撃つとするのは「マッドマックス女子版」ね。ジョン・フォードはそうじゃないの。徹底的にリアルなのよ。女ばかりで勝てるはずはない。おまけに妊婦は産気づき、夫は殺された。妻は「誰が私を養うの」と腹ただしげに口走る女だ。馬賊の首領カーンは手当たり次第伝道所の建物を打ち壊し、食べ物を奪い、女たちを納屋に押し込めた。所長は神が守ってくれるというが、壁の前に引きずり出され、銃殺される村民たちを見てだれも神を信じない。神はどこに行った。修道女の一人が言う「ドクター、真の悪がわかったわ」▼エマに手を出そうとしたカーンの横面を張ったドクターに、カーンは苦笑い。ある条件を提示する。ドクターは使いに「承知したと伝えて」。やがてお産のためのお湯、医療機器の入ったドクターのカバン、薬、まともな食事が納屋に運び込まれた。所長は納屋が暑いとか、寒いとか、今に神罰が下るとか、髪を振り乱して言い散らしている。修道女の一人が叫ぶ。「あなた、少しはドクターに感謝できないの!」。ドクターが女たちの様子を見に納屋に来たときエマが言った。「私たちを逃がすようにカーンに頼んで」ドクターは虚を突かれる。まだこの上…次に自分が切れる札はなんだ…。やがて荷馬車に乗って女たちは伝道所を後にすることになった。「あなた、まさか」女たちはドクターの犠牲がわかった。荷馬車を見送る彼女は馬賊の首領の女を表す、きらびやかな装束をまとっていたのだ。ラストはジョン・フォードの一撃です。カーンの部屋に戻ったドクターは、艶やかな微笑で酒をすすめ、二つの杯に毒を注ぎ、カーンとともに飲み干すと杯を床に叩きつけ「あばよ!」。

So long, buster.

これが、ジョン・フォードが映画人生に残した最後の決めセリフでした。

 

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