女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss
  • ブックマーク

シネマ365日

2016年5月16日

特集「ケイト・ブランシェット」① 
エリザベス(1999年 伝記映画)

Pocket
LINEで送る

監督 シェカール・カプール

出演 ケイト・ブランシェット/ジェフリー・ラッシュ/ジョセフ・ファインズ

 

シネマ365日 No.1753

属国にはならぬ! 

特集「ケイト・ブランシェット」

「陛下が譲り受けた国は衰滅の危機にあります。フランス、スペインの脅威にさらされ、兵力・財力は破産状態、海軍は崩壊寸前、陸軍は消滅、軍需品も尽きました。国中のどの砦も砲弾一発で陥落します」これが25歳で即位したエリザベス1世にレクチャーした、重臣ウィリアム・セシル卿の現状報告です。どっちを向いても助からない状況で、エリザベスはトップに着任したわけね。でもね、結論を先に言うとエリザベスという女性は前代未聞の、運の強い人なのよ。母女王のアン・ブーリンは父王ヘンリー8世によって首を斬られ、エリザベスは一時にせよ、庶子となった、これは即位後もエリザベスの王位の正当性をめぐるトラブルの元凶になります。父に母を殺され、庶子に格下げされ、腹違いの姉にロンドン塔に幽閉され処刑を待つ日々。命拾いするためカトリックを装うなど、エリザベスの10代は地雷原を歩くようなものでした。普通なら神経はズタズタ、気の弱い女性なら自殺していたって不思議じゃない。でもこの運命の女王は、人生最悪の時代に陰謀と策略のなんたるかを学び、人を見る目を養い、熾烈な政争を戦い抜くヨーロッパ最強の女性として、君主の能力を蓄えていました▼若きエリザベスに影響を与えた男性4人がいます。愛人ダドリー卿(ジョセフ・ファインズ)。エリザベスの教育係、重臣セシル卿。大陸から戻ったばかりで、エリザベスに生涯の忠誠を尽くすウォルシンガム卿(ジェフリー・ラッシュ)、そしてエリザベス追い落としの先鋒であり、最大のライバルであるノーフォーク公。統治の経験どころか、強力な実家を持たない新米女王を、陪臣たちはハナから舐めている。忠臣たちは一刻も早く力のある国の世嗣とエリザベスを結婚させたい。彼女が王位を磐石にするには男児を生み、英国の王位後継者を作ることである。しかしエリザベスはウンと言わないばかりか、陪臣たちの意見を鼻であしらい、やり込めてしまうのだ▼着任早々、スコットランドとの戦争があった。エリザベスは戦争嫌いだ。国でも家でもどんな組織でも、安定なくして繁栄なし。彼女が英国を真の強国に押し上げ、世界史に名を残す名君として君臨したのは、あらゆる策略と忍耐で戦争を回避したからです。しかしこの新米女王時代は、今すぐ出陣を、とけしかける陪臣らに「まず情報収集を」と提案して一蹴される。渋々出兵させ大敗を被り、国庫は赤字の上塗りである。彼女は父王の肖像画の前で泣き伏す。自分の弱さに悔し泣きするのだ。敗因など語るも愚か「あいつらの意見を聞いたからだ。父上が臣下に判断を仰いだことなどあったか」。国を強くする国策として上がってくるのは相も変わらず結婚です。エリザベスは「結婚しか提案はないのか、わたしの忍耐にも限度がある」とブチ切れる。宮廷ではヒソヒソと「王位を追われるのは時間の問題」「あの女の失脚を見届けよう」「女王は脆い、軍隊も後ろ盾もない女に何ができる」。スペイン王との縁談を持ってきたセシル卿にエリザベスは言う。「あなたの助言に従うと、わが国はフランスかスペインの属国となります。これからは自分の意志に従います」「女のあなたに(結婚以外に)何ができます」「わたしは父王の娘です。男の心を持った女です。何も恐れません」▼反対勢力は、エリザベスが妾腹の異端の女王であることを、退位を迫る理由に挙げていた。そのバックには英国国教会を認めないカトリックの勢力がある。暗殺者が放たれ、エリザベスは襲撃される。ウォルシンガムの周知な諜報活動により、女王に謀反を企む一派のリストが明らかになった。「サセックス、ガーディナー、アルンデル、ノーフォーク、そしてロバート卿も」イギリスの由緒ある領主であり貴族たちであり、愛人の名だった。ウォルシンガムにエリザベスは静かにいう。「すべて終わらせる」。目には目を。暗殺には暗殺を。彼らはトイレで、ベッドで、風呂場で息の根を止められた。ひとり「殺してくれ」と嘆願するロバート卿に「生かしておくわ。自分への戒めのために。彼を見て危険は隣にあると思い知るために」▼「敵は片付けた。この後は?」とエリザベス。人の意見など聞かないというが、ウォルシンガムは別なのです。次作「エリザベス ゴールデンエイジ」でもわかりますが、女王は彼に「この老いぼれ」とか「下がれ、足腰たたぬ年寄り」とか、口いっぱい悪態をつきながら彼の意見だけはきく。ウォルシンガムは「人は自分より偉大なものを崇拝します。神聖なものにこの世で触れたいのです」「わたしにそうなれと。心を動かさぬ女に」「それが絶対君主です」しょうがない。ウォルシンガムのいうことである。エリザベスは「聖処女マリアは人の心を動かした。人は彼女に命をも捧げた」「彼女に代わる女性はおりませぬ」エリザベスは(わかった、それでいこう)と決め、たちまち実行する。侍女は泣きながら女王の髪を切り、ベリーショートに。エリザベスは「処女になった」とつぶやき、面(おもて)を白塗りに、立派なカツラ(これがまた物々しい)をつけ玉座に鎮座し宣言する。「私は結婚します。英国と」…という映画なのです。エリザベスという女性は、下世話にいう「似ても焼いても食えぬ」というか、闇の部分を他人に覗かせない冷徹なリアリストですが、ケイトの女王はやや淡白で、きれいすぎたかな(笑)▼「キャロル」でテレーズを演じたルーニー・マーラは、ミア・ワシコウスカ降板による登板でした。声がかかったとき随分迷ったといいます。何しろケイト・ブランシェットの「エリザベス」を見て、ルーニーは「女優になることを決め、ケイトの映画は全部見た」くらい、リスペクトの対象でした。共演に畏怖もあったが思い切って受けた、そんなことをインタビューで答えていました。人ひとりの人生を決めた映画、というのもあっていいですね。

 

Pocket
LINEで送る