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シネマ365日

2016年5月18日

特集「ケイト・ブランシェット」③ 
エリザベス ゴールデン・エイジ(下)(2007年 伝記映画)

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監督 シェカール・カプール

出演 ケイト・ブランシェット/ジェフリー・ラッシュ/アビー・コーニッシュ/ダニエル・クレイグ

 

シネマ365日 No.1755

女性王子 

特集「ケイト・ブランシェット」

エリザベスとは複雑な女性でした。その性格の強さから考えると意外なほどですが、彼女の統治は父(ヘンリー8世)や弟(エドワード6世)や姉(メアリー1世)に比べ穏健です。肉親の政争と陰謀、裏切りと暗殺の渦中で物心ついたのですから、無理もない。「わたしは見る。そして語らない」は彼女のモットーの一つと伝えられますが、いかにも隠忍自重してきた苦労人であることを思わせます。外交においてもそれは顕著でした。決して尻尾をつかまれる発言や行動はしない。狡猾であり、慎重だった。政治だけでなく男に対してもそうだった(彼女の場合、政治も男も一緒のようなものですが)侍女のベスが「エリザベスが珍しく興味を持った男性」にローリー卿をあげているのは、彼が新大陸アメリカ帰りの新知識と情報を持っていたからであり、国庫の財政を富ませるためにエリザベスは手段を選びませんでした▼極力戦争を回避したのも「戦争は思いがけない結果を引き起こす」だけでなく、巨額の出費と人材の損失を伴い、経済は疲弊し、立て直す時間とコストを考えれば、戦争はしないことが(孫子もそういっていますが)最上の国家経営手段でした。事実スコットランド出兵で大敗北を喫した後、英国は破産直前に落ち込んだ。スペインのフェリペ2世が「聖戦をふっかけ」と本編(上)で書きましたが、スペイン国王の立場にしたら煮えくり返っていたにちがいない。というのも、英国の稼ぎは一言で言えば海賊行為で、狙われるのはたいてい、潤沢な船荷に金銀を満載したスペイン船だったからです。彼らは略奪品を売買し(エリザベスの言葉で言えば交易でしょうが)英国の市場を潤した。その黒幕はもちろん女王で、法に触れる行為でありながら「わたしは見る、そして語らない」を地でいっています。宗教上の摩擦にしても、いちばんの支持者であるプロテスタント教会の要求と、カトリック教会との間の綱引きで微妙な均衡を保ち、長期にわたって国政を安定させました▼叡智というか、奸智というか、そのどちらをも併せ持つ、ケタはずれのスケールを考え合わせると、本作のエリザベスは品がよすぎる気がしないでもないのですが、しかしかくも力強かったであろう「女性王子」の造型は、ケイト・ブランシェットが充分に彫琢しています。エリザベスとは、知力教養そして体力に恵まれたナンバーワン女子ですが、映画は強さだけでなく、権力の座に上り詰めたエリザベスの虚無と孤独をも描きました。それを抑えておかないと、どこから見てもモンスターという、強すぎる「陛下」では絵にもシャレにもならないでしょう。例えばローリー卿に、女王はこんなことをいいます「別の世界で別の時代に会っていればわたしを愛してくれた?」「陛下、わたしはこの世界であなたを愛しています」「ひとつお願いがあるのです。わたしが長いあいだしていないこと。おイヤでなければ。そしてこのことを二度と口にせず忘れてほしいの。一度だけキスを…死んでもいい」ホントにこんな可愛らしいこといったのかしら▼無敵艦隊は全滅し、ベスは無事男児を産み、女王は生まれた子を祝福します。戦場の只中で指揮をとったウォルシンガムは、最大の国難を退け力つきます。エリザベスはウォルシンガムに「足腰たたぬ老いぼれ」と罵詈雑言を浴びせ、何かにつけ引っ込ませようとするのは、もう無理はさせたくないという思いもあったからでしょう。彼の妻も娘も「どうぞ陛下にお暇乞いを」勧めるのですが、この忠臣は口が裂けても言わないのです。かつてエリザベスの、最大のライバルだったノーフォーク公を謀反の容疑で逮捕したとき、ウォルシンガムはこういっています「英国一の権力を持ちながら、一誠を貫く勇気に欠けた男」と。彼の生涯こそ「一誠を貫く」ものだった。倒れるまでエリザベスのそばにいて、死の床で「陛下。わたしは力を尽くしました」「ゆっくりと休むがよい、フランシス。友よ」ここジ〜ンとしました。ウォルシンガムが諸外国だけでなく、自国の敵味方を問わず張り巡らした諜報網によって、エリザベスは再々暗殺の危機を免れています。彼は近代情報戦のエキスパートでもありました。襲撃者に対するウォルシンガムの拷問は苛烈を極め、生き残る術はありませんでした。まだブレイクしないダニエル・クレイグが教皇側のスパイに扮して出演し、人相の見分けがつかないほど、ボコボコにされています。つい長々書いてきましたが、ラスト、エリザベスのこのセリフで締めにします。「わたしは女王。それがわたしだ」

 

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