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シネマ365日

2016年5月20日

特集「ケイト・ブランシェット」⑤ 
ヘヴン(2003年 社会派映画)

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監督 トム・ティクヴァ

出演 ケイト・ブランシェット/ジョバンニ・リビシ

 

シネマ365日 No.1757

 半 身

特集「ケイト・ブランシェット」

ヒロイン、フィリッパがケイト・ブランシェット。彼女を愛する刑務官フィリッポがジョバンニ・リビシ。紛らわしいですが、同じ名前の男性形と女性形です。本作の意味するところは、もともと一つのだった体が半分ずつに分かれ、お互いの分身を探し求めて巡り合った、ということでしょうか。まぎらわしい名前なので文中は俳優名とします。二人の出会いはテロ殺人犯と刑務所の通訳。ケイトはイタリアのトリノで英語の教師をしているが、夫がオーバードースで死ぬ、黒幕は夫の大学時代の友人であり、今は大企業の社長だ。当然高額納税者で警察にも顔が聞き、何人も内通者を抱えている。彼の組織が蔓延させるドラッグのため、ケイトの生徒は体がボロボロ、首を吊って死んだ。企業と社長を調べてくれと何度も直訴するが警察は無視。ついに自分で爆弾を仕掛けるが、犠牲になったのは無実の父と幼い娘二人、掃除のおばさんの4人だった。尋問に英語で対応するケイトに、刑務官のジョバンニが通訳となる▼ジョバンニはケイトの指摘でうろたえる上司の態度から、警察内の暗部と腐敗を直感する。彼はケイト救出計画を周到に準備する。ケイトは自分が脱走するのは助かりたいためでなく、麻薬供給源の会社と社長を抹殺することだとジョバンニに打ち明け、ジョバンニはニセ電話で社長を警察の本部長室に呼び出す。部屋で待っていたケイトはサイレンサーで顔面を吹き飛ばす。ここまでが前段、後段は二人の逃避行です。ジョバンニの父親も警官だった。父は息子の判断を信じるが、国内の幹線道路はすべて封鎖、どこにいてもいつかは発見される。それでも息子はケイトと一緒に行くという。「彼女を愛している」父は頷き「あなたは?」とケイトに訊く。ケイトはためらいのある沈黙。やがて短く「イエス」とだけ答える。ケイトは「無実の人を4人殺し、ひとりを射殺した。わたしは終わりを待っているの。あなたを愛している。でもわたしは良識や正義、生きることを信じることをやめたの」…そんなケイトにジョバンニは彼女の心を満たす愛を与えた、それによってケイトの中に深い贖罪の意識が生まれます。残された時間は少ないが、ケイトは思い残すことはないほどの充足と、救いに満たされる。それが「イエス」が発せられるまでの沈黙だったと思えます▼シルエットだけですが、夕焼けの空をバックに、大きな木の下で二人がフルヌードになるシーンがあります。ケイトとジョバンニは逃避行のために頭をスキンヘッドにする。電気剃刀でジョリジョリ剃っていく箇所は壮観です。過去にこれと同じことをやったのはデミ・ムーア。1997年「G.Iジェーン」でした。ちょっと逸れますが、ハリウッドのスキンヘッドといえば、まずシガニー・ウィーバーが「エイリアン3」(1992)」で。ナタリー・ポートマンが「Vフォー・ヴェンデッタ」(2006)で、シャーリーズ・セロンが「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」(2015)で、すっぱり頭を剃っています。ケイトはスキンヘッドが好きで役に関係なく時々やっています。名前を挙げた女優の共通項は、みなさん頭の形がいいこと。シャーリーズ・セロンなんか顔は小さいわ、頭は小さいわ、頭の形はまん丸だわ、で一休さんみたいでした▼本作はクシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺稿脚本を、ティクヴァ監督が仕上げました。トリコロール三部作もそうでしたが、むしろ「愛に関する短いフィルム」の、内面世界のあぶり出しに圧倒された。本作にあるトスカナの自然には、映像でなければ語れない、清冽な叙情に言葉を奪われます。主人公二人の愛の世界が呼応する外部は、こうでなければいけないという監督の主張でしょう。ラストに、ヘリコプターが限りなく上昇していく。ここは冒頭のシーンと呼応します。ジョバンニはヘリの操縦をシミュレーションで指導されている。ヘリは上昇する高さに限界がある、と教官は教えます。このままいけば墜落なのにヘリは小さくなり、空の一点からとうとう姿を消す。あとは操縦不能による墜落あるのみ。そして「ヘヴン」というタイトルとエンディングです。二人はとうとう「天上」に行っちゃったのね。いや〜うまく操縦して国境を越え、不時着して逃避行を完結させ、幸福に暮らすのさ、なんて俗世的な解釈が入る余地がありそうにない、そんな清澄な感性に、天上説を取らざるをえないですわ。

 

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