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シネマ365日

2016年5月22日

特集「ケイト・ブランシェット」⑦ 
シッピング・ニュース(2002年 社会派映画)

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監督 ラッセ・ハルストレム

出演 ケビン・スペイシー/ジュリアン・ムーア/ジュディ・デンチ/ケイト・ブランシェット/キャサリン・メーニッヒ

 

シネマ365日 No.1759

多士済々の映画

特集「ケイト・ブランシェット」

ケイト・ブランシェットは3人の男の子の母親です。女の子の養子をもらったという記事を読んだから、多分娘が欲しいのでしょう。彼女の作品歴を見ると、でも一体いつ産んで、いつ子育てしていたのだろうと首をかしげます。大作「エリザベス」のときこそ一年一作だったが、二作、三作、多い年は四作と全く途切れ目がありません。同じオーストラリア出身のニコール・キッドマンや、カトリーヌ・ドヌーヴのときもそう思ったけど、これだけ仕事好きな人も珍しい。本作のあるシーンでは吹き出しました。ケイト扮するアバズレ女のペタルが、大きなお腹を抱え「妊娠線を残したら殺してやるからね」とわめきながら、産院の廊下を走るのですが、この大きなお腹は自前です。彼女は撮影の2週間後に出産しました。ゴシップネタばかり書いていると「そういうつまらないことしか書く能がないの」と怒りそうなのがケイトですから、そろそろ映画の話▼本作は監督がラッセ・ハルストレム、主演のクオイルにケビン・スペイシー、彼と結ばれるウェイヴィにジュリアン・ムーア、クオイルの叔母、アグニスにジュディ・デンチ、地元紙のオーナー、ジャックにスコット・グレン、どっちを向いても変わり者、もしくは心に傷がある者ばかり、という役柄で登場しますが、その最高がケイトだと言ってもいい。彼女は、太ももも露わなショート・パンツにラフな白シャツ、長い黒髪の先は縮れ、キツネ目はつりあがり、真っ赤なルージュの口で、追いかけてくるおじさんを罵倒し、道端に止めていたクオイルの車にいきなり乗り込むと「早く出しな!」頭ごなしに怒鳴るのだ。ぶったまげたクオイルは、事情も聞かず急発進します▼その女ペタルは「ああ、腹減った」。クオイルは夢遊病者のごとく、近くのダイナーに連れて入る。ムシャムシャとパンにかぶりつき頬張り、指を舐め、呆然と自分を眺めるクオイルに「どうなの。私と結婚したい?」ぐいとクオイルの手首をひねり、腕時計を見て「今8時5分、10時までにファックする」。律儀に実行し「よかった」と満足げ。「やると腹減るの、カロリーを使うからよ」とクリームたっぷりのマシュマロをパクパク、「あんたも」とクオイルの口にねじ込み、クリームが溢れて鼻の頭を白くする。クオイルは感極まって「愛している」。子供が生まれたが女房は男を連れ込み、家事と育児はクオイルの仕事。でも彼は不服一つ言わない。娘バニーが大きくなった。母親は娘を連れて家を出て行くという。「あんたも女をつくりなよ」クオイルは「僕は君がいい」。相手にしておれないとばかり女房は情夫の運転でバニーを乗せ出発。クオイルは娘が心配で警察に届ける。来た知らせによると、車は川に転落、バニーは奇跡的に助かったが妻と男は即死▼川から引き上げられる助手席の妻の遺体が、クオイルの網膜に焼き付いて離れない。もともと彼は子供のころ父親に川に投げ込まれ溺れそうになり「生まれる家を間違えた。どこかで本当の家族が待っている。父親から見れば、犬かきのできない僕は欠陥の塊だった」というコンプレックスに、未だにどっぷり。妻はバニーを人身売買の闇組織に売り飛ばし、6000ドルを受領していた。バニーを取り戻すためにクオイルは家を売り、彼の父は「苦労ばかりの辛い人生だった」と遺書を残して妻と心中した。そこへ父の異父妹アグネス(ジュディ・デンチ)が現れ「故郷ほどいいところはない」と、クオイル家の祖先の地ニューファンドランド島に行くといい、クオイルも一緒に行くことにする▼さあ、この島の人たちというのが値千金というか、実に個性豊かな人ばかりでして。ニューヨークの新聞社で印刷のインク係をしていたクオイルは「シッピング・ニュース」という港湾記事担当になる。忘れていたがクオイルという男は「海は苦手だ、記事なんか書けない」とできない理由ばかりあげるヘタレだ。彼の先祖はいわば海賊で、生活に行き詰まって、家に綱をつけて氷の上を引いてきたという剛腕であるのに、気概のないことおびただしい。新聞社の編集局(社長含め5人しかいないが)が変人揃いだがみな愉快だ。「お前の記事は心に響くものがない。まず見出しの練習だ。簡潔でドラマチックな見出しだ。あの雲を見ろ、なんと見出しをつける」「空が急に曇ってきた」「嵐が村に迫る、だ」「嵐が来なかったら?」「嵐が去る、だ」と特訓▼どうやらクオイルも記事を書けるようになった。村の保育所の責任者がウェイヴィ(ジュリアン・ムーア)だ。未亡人だが夫の死には秘密があった。しつこく夫のことを聞くクオイルに、ウェイヴィはやけくそで打ち明ける。「夫は死んでいない。10代の娘と駆け落ちしたわ。私が妊娠8か月のとき。サイテーの男よ」。どこまでもドジなクオイルは、肝心なときにウェイヴィを「ペタル」と呼び女をドッチラケにさせる。アグネスは12歳のとき実の兄に暴行され妊娠した。以来島を出た。今は女友達のアイリーンと暮らす。幸せそうだ。嵐でボートが遭難したと思われていた社長は、島の住民が参列した葬儀で弔辞の最中、クジラのように潮を吹いて生き返った。嵐の翌朝、バニーは祖先が引いてきた家が跡形もなく、瓦礫になっているのを発見した。クオイルの見出しはこうだった「大嵐、家を奪う。後には絶景が」▼人間のもろさ、不安定な感情の移ろいを、美しく厳しい島の自然の力とともに、どんな人間にも必ず自分を受け入れてくれる場所があることを、監督は力強く描破する。ケイトはクオイルの心を支配し続け、この映画の凄みを一身に具現した女を「女性からすれば友だちにはなれないタイプ」であるとして、悪女役が「楽しかった」そうです。2分ほどの出演ですが、3週間分の代金を、ケイトに踏み倒される子守の役でキャサリン・メーニッヒが出演しています。24歳。「Lの世界」のシェーンでブレイクする3年前です。

 

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