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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2016年5月25日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力3」② 
デッドゾーン(1987年 サスペンス映画)

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監督 デヴィッド・クローネンバーグ

出演 クリストファー・オーケン

 

シネマ365日 No.1762

意外なクローネンバーグ 

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力3」

車の事故で重傷を負ったジョニー(クリストファー・オーケン)は、5年間の昏睡から気がついたとき、未来を予知する能力と備えていた…超能力、変身、妄想は初期のデヴィッド・クローネンバーグのメーンテーマのようでした。脳が爆発するような過激な超能力もあれば、ハエに変身し、同時に人間離れした能力を急速に備えるとか、地球上の生物とは懸け離れた形象の生き物がぞろぞろ出現するとか、それらは登場人物の現実でもあり、仮想でもあったが、おしなべてスクリーンに登場したときは、ド派手とはいわないが、ある意味かなり華麗だった。色彩や音楽は抑制されているのに、監督の想像力とインテリジェンスが縦横に入り組み、ありえない世界だとわかっているのに、引き込まれるのが楽しかった。彼の映画は、テーマは突飛かもしれないが、決して陰気な映画ではないと思う▼そういう作品群に比べると、本作はかなりトーンが違います。自分のオリジナルで作ってきたクローネンバーグが、初めて原作つきの映画を撮ったというのと、その原作者がスティーブン・キングということも、この映画に独特の趣と、あえていえば、サスペンスであり、ホラーであるにちがいないという先入観を与えるかもしれません。5年間の空白から目覚めたジョニーは、最愛の女性サラが、他の男性と結婚したことを知らされる。サラもまたジョニーを愛していた、いやいや、ジョニーよりもっと積極的でした。ジョニーはサラに、結婚しようとプロポーズして帰宅する夜に惨事は起きたのです。ジョニーは男らしく悲しみに耐えますが、なかなか心のショックは癒えません。辛い思い出を振り払うように、両親の家を出て一人住いをする。主治医が時折、訪ねてくるだけで、ジョニーは家庭教師をしながら細々と生活を維持します。クリストファー・ウォーケンが内省的な青年を好演します。彼はこのとき40歳。すでに「ディア・ハンター」でアカデミー助演男優賞を受賞し、シリアスなものからラブコメ、青春物など幅広くこなし、俳優としての地位を確立していました▼彼の予知能力とは、相手の体に触れるとその人物の未来が見えることです。それがマスコミにしれ追い回されたりしますが、彼はワイドショー的なもてはやされ方に見向きもせず、自分の超能力を呪うように、ひっそりと暮らしています。彼の生徒は町の有力者の息子ですが、心を閉ざし友だちが作れず、学校で浮き上がっていた。ジョニーは解きほぐすように子供の話し相手になり、男の子は明るく心を開くようになります。ある日、その子の手を握ったジョニーは、湖の氷が溶け、スケートに行った生徒たちが溺死する映像が浮かんだ。中止するように父親に頼み、息子もジョニーの進言を受け入れ欠席したところ、案の定その時期に割れるはずのない氷が破れ、生徒2名が事故死しました▼ジョニーは主治医に、過去にヒトラーが歴史上で行った同じ事をすると予知した場合、あなたならどうするかと質問する。主治医は「殺す」。サラが結婚した相手は議員であり、彼は将来大統領選にも打って出ようという野心家でした。選挙演説で握手したとき、ジョニーは彼が大統領になり、核戦争のボタンを押すことを予見します。ジョニーは暗殺すると決めるのです。演説会場に潜んだジョニーは、演壇に立った候補者に発砲しますが、狙いはそれた。候補者は防弾のため、赤ん坊を盾にするというえげつないやつで、それをバッチリ写真に撮られたのが運のつき。ジョニーは被弾し虫の息の下で、候補者の卑劣な品性が暴かれ、スキャンダルまみれで自殺、そんなビジョンが見えた。サラは瀕死のジョニーに「愛している」と告白。ジョニーは満足げに息をひきとるのです。サスペンスとかホラーにはほど遠いラブロマンスです。世のため、人のため、自分の能力が活かせるのだ、この力を持っていることは、人類の未来をも変えられるのだと悟ってからジョニーは社会に働きかけるようになる。サラと再会したとき、少年に学科を教えるとき、クリストファー・ウォーケンの見せる、一点の曇りもない笑顔が素敵。彼は子供の頃からダンスや歌を学び、子役としてテレビなどに出ていました。たとえ「擦れて」いたとしても不思議はないのですが、全然違いました。クローネンバーグの映画にしてはあっさりした淡彩画のようですが、それを軽いものにしなかったのは、ウォーケンの雪解け水のような澄んだ微笑みだったのかも。ちょっと褒めすぎですね(笑)

 

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