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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2016年5月28日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力3」⑤ 
Dr.Tと女たち(2000年 コメディ映画)

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監督 ロバート・アルトマン

出演 リチャード・ギア/ヘレン・ハント/ファラ・フォーセット/ローラ・ダーン

 

シネマ365日 No.1765

女たちの反逆

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力3」

ロバート・アルトマンは映画つくりとは「砂の城」だと言っている。自身の制作会社とオフィスも「サンド・キャッスル」と名づけたくらいだからよほど気にいっているのだろう。人生にハッピーエンドはない、という気にさせられるのがこの人の映画だから(なるほど)とも思う。アルトマンに言わせると「映画館を出るときに特別ななにかを経験したと確信できる映画、映画が自分にとってまったく新しいものになる経験」が映画なのだという(アルトマン自伝「わが映画、わが人生」)。彼の映画すべてに共通する移ろいゆくはかなさ、あきれかえる無秩序。劇中のポパイがいう「おいらはおいらで、だから、おいらなんだ」というアンバランスのバランス。ばかばかしさにあふれながら「人生こういうのもアリなのだ」と妙に納得してしまう諦観。女の描き方はクソミソに近い。そのくせ、奇妙な砂漠の共同生活に至る「三人の女」には、飾り気のない女の連帯とやさしさがただよう。ついでにいえば「今宵フィッツジェラルド劇場で」は、女はとうとう死神になって現れる。アルトマンの女嫌いもここまできたかと思った▼本作も例にもれない。リチャード・ギアはダラスで成功の頂点にいる産婦人科医、ドクターTことトラビス。診療所は女性患者が門前市をなす繁盛ぶりだ。T先生の懇切丁寧な対応と確かな医療技術を、エキセントリックなまでに信奉する患者が集まる。公私ともT先生を取り巻くのは女・女・女なのだ。いずれの女たちもみなアルトマン印ともいうイカレタ刻印が捺される。T先生の妻ケイト(ファラ・フォーセット)は物質的・精神的・家庭的・経済的になに不自由ないため、恵まれすぎた結果幼児に退行するヘスティア・コンプレックスと診断される。彼女はショッピング・モールで全裸になり、噴水で嬉々として水浴びし警察に連れて行かれた。ケイトの妹ペギー(ローラ・ダーン)は幼い娘ふたりを連れて戻ってきた。T先生にも娘がふたり。結婚する姉娘デイデイの式を中止するよう、妹のコニーが言ってきた。なんとなれば姉はゲイで、相手マリリンとはすでに深い仲である。そこへ入院中のケイトが離婚したいと言ってきた。どっちをみても女のトラブルに囲まれたT先生はゴルフ・クラブのアシスタント・プロのブリーに出会い、急速に惹かれ親密な関係を結ぶ▼デイデイの結婚式は不吉な嵐の予兆がのうちに進んだ。パパとともに入場した花嫁は、新郎ではなく介添人のマリリンと熱いキスをかわし、手に手をとって会場から走り去るのだ。パパは娘の背に「幸せにな」と声をかける。暴風雨となり全員屋内に避難。パパひとり「新婚ほやほや」と書いた車にとびのり、めざすはブリーの家。ビショ濡れでやってきたT先生は「ぼくといっしょに逃げよう」と叫ぶ。ブリーは「ノー」。うなだれて再び雨風のなかに出て行くT先生をブリーはやるせなげに見送るが、劇中たったひとり冷静な女性がブリーだ。アルトマンは女に振り回されるT先生をけっこうエゴイストに描く。神経を病んだ妻をさっさと入院させ、娘と妹が「母を、姉をひきとって家で看病したい」というのに、専門医の対応が必要だとして受け入れず、ちゃっかり自分はブリーと関係を持つ。T先生は女たちになにも苦労をさせず、一切の面倒をみているつもりだが、T先生は親切でやさしくはあるがひとつも熱のない男で、自分たちの本質を理解してもいないし愛してもいないことを女たちは本能的に察している。この映画は腹の底で不満をくすぶらせていた女たちの反逆なのだ。いちばんよくそれがわかっているのはビリーで、T先生がなんといおうとその気にはならない。アルトマンはブリーをバイセクシュアルと位置づけている。T先生は帰途竜巻に巻き込まれ大空高く舞い上がり、気がついたのは見たこともないメキシコの僻村、しかも女がお産しているのだ。T先生は貧しい家に入り赤ん坊を取り上げる。男の子だと歓喜する。アルトマンの自作の解説によると「竜巻は象徴さ。ドクターは彼の人生にかかわる女たちにとって台風のようなものだったから。人生を誤って歩んできた(女が手に負えなかった)彼が男児をとりあげた。彼にだって手におえるなにかがあるってことだろう。この出産のシーンでわたしは映画にしっかりとした中身を、ガッツを与えた」のだけど、だれも、少なくとも女はそうは受け取らないと思うよ。赤ん坊の男児に巡りあって感激するなんて、T先生の女恐怖症・理解不能症はかなり重症よ。ヌカ喜びにならなきゃいいけど。

 

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