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特集「美しい虚無-妄想映画の魅力」

2016年5月31日

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力3」⑧ 
バンディッツ(1997年 ヒューマン映画)

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監督 カーチャ・フォン・ガルニエ

出演 カッチャ・リーマン/ヤスミン・タバタバイ/ニコレッタ・クレビッツ/ユッタ・ホフマン

 

シネマ365日 No.1768

あかね雲たなびく空に

特集「美しい虚無=妄想映画の魅力3」

虚無や妄想というにはあまりに元気のいい4人の女囚の、脱走と逃亡劇なのですけどね、ラストの切なさ、自分たちの夢を完全燃焼させた後のはかなさ、やるだけやった、もう生きていなくていい、マリー、一緒にもういっぺんみんなでバンドやろうぜ…生き残った3人が差し出した手を、幻のマリーが握ろうとする。茜色の夕日が染める空と雲の下で、かき鳴らすロック、歓喜する聴衆たち、出航を待つ南米行きの船、あの船の甲板で演奏するのが夢だったけど、ほら、アリのはいでる隙もない包囲網をごらんよ。逃れようはないわね。脱走を繰り返したわたしたちの刑期は延長、刑務所の中でヨボヨボになり、抜け殻になって死ぬのよ。どうする、みんな? 自由とは失うものが何もないことだって、ジャニス(デプリン)が言っていた。そうしてジャニスは若死にしたのよ。バカよりマシよ。楽しい逃避行だった、今までの人生でサイコーだったわ。今頃マリーはオットーに演奏を聴かせているね。わたしもマリーのように自分で決めるわ、自分の死期を。わたしなんか、生まれ変わってもモルモットよ。バカね、あなたは大草原を駆けるヒョウよ。わたしはエマのような人になるか、ルナのような人になりたい、もっと胸が大きかったらマリーでも。そのときも4人でバンドやるのよ。よし、わかった…▼カーチャ・フォン・ガルニエ監督の感性が冴えまくっています。重箱の隅をつついて、まともな欠点を数えるのがつまらなくなる快作です。彼女らは犯罪者だ、だから裁くのは法と警察に任せそれなりの決着をつけた、映画としては彼女らの疾走に任せた、監督はそう言っているようです。映画は刑務所の中のバンド結成から始まります。ロックバンドを組んだ4人の女囚、エマ(カッチャ・リーマン)、ルナ(ヤスミン・タバタバイ)、エンジェル(ニコレッタ・クレビッツ)、マリー(ユッタ・ホフマン)が主人公だ。ドラマーが出所してしまい、バンドは目下ドラムなし。火が消えたように勢いがない。新入所してきたエマはだれとも話さず、礼拝にもいかない。シスターがわけを聞いても「神を信じていない、話をするのも嫌い」「何を頼りに生きているの?」「ガイアナの夕陽よ」「音楽家だそうね。刑務所内のバンドが警察のパーティーで演奏するのに、ドラマーを探しているの。やってみない?」▼自殺願望のあるマリーが手首を切った。ルナは「誰か、早くきて、死んじゃう」大騒ぎして危ないところを助ける。手首に包帯を巻いたマリーのベッドのそばで、ルナとエンジェルが、つまらなさそうに座っている。3人がハッと顔を上げた。「ドラムが!」走っていくとエマが叩いている。惚れ惚れするスティックさばき、躍動するビート、バスとスネア・ドラムの絶妙のコンビネーション。決まりだ。4人揃った。性格のとんがっているエマとルナはしばしばぶつかるが、肝心なところでは手を握る。4人の罪状。ピアノのマリー=夫を毒殺、刑期は後2年、自殺壁あり。ギターのルナ=第一級強盗罪。短気、反抗的、凶暴性あり。ベースのエンジェル=23歳にしては凄腕の結婚詐欺。ドラムのエマ=ジャズ演奏で米国に招かれるが、リーダーと対立し、射殺。彼女らはパーティー会場に移送の途中、絡んでくる監視役の看守にルナが切れ、手錠を外された途端殴りつけ地べたに這わせる。エマが「ルナ、鍵をこっちへ。外すのよ、みんなのを」一瞬の隙を見て4人は脱走するのだ▼彼女らのバンドの名前が「バンディッツ」(悪党)だった。逃亡中もバンディッツはクラブで演奏したり、歌ったり、演奏活動を続け、警察に包囲されると人質をとって逃げた。ルナが送ったデモテープが電波に乗り、「バンディッツ」は一躍「時の人」となった。彼女らの助命嘆願さえ殺到した。しかし「バンディッツ」に脱走を許し、煮え湯を飲んだシュワルツ警部は逮捕に執念を燃やす。逃亡の途中マリーが死んだ。「死が始まるとき、死は終わる。死体には虫が寄ってくるから火葬にして」そうマリーは言い残していた。3人は約束通り、車ごと燃やしてマリーを弔う。橋の両側を警察に塞がれ絶体絶命。3人は川に飛び込んだが、エマだけが遅れ逮捕。シュワルツは交換条件を出す。あとの二人の行き先を教えれば刑は軽くする、拒めばあの二人は生きて出国できない。朝までにクズらを助けるかどうか決めろ。エマは船の甲板でドラムを叩いている幻を見た。あと36時間で船は出航する。そのころ川から這い上がったルナとエンジェルは「エマは独房だろうけど、警備が厳重で近づけない。武装警官だらけだからね」。ルナとエンジェルは大胆不敵な救出作戦に出る。シュワルツを人質にとり、警官に変装したルナが、シュワルツの相棒に銃を突きつけて一緒に独房を訪れ、エマを脱獄させたのだ。いよいよ出航まで数時間。楽器を調達した3人は、ボロのビルディングの屋上に姿を現した。ドラムが、ギターが、ベースがある。このシーンで演奏される、ロックナンバーの曲も歌詞も胸をうちます。バンディッツのサウンドを聞きつけ、ビルの下は聴衆で埋まった。同時に押し寄せる武装警官。ビルから飛び降りた3人を群衆は手の波で受け止め、地上に降ろす。3人は船に向かって波止場を走る。止まらなければ発砲すると叫ぶシュワルツの制止も聞かない。「マリーが待っている!」タラップにたどり着いた3人は、警官隊を振り返り拳銃を投げ捨てた。その一瞬前に「撃て」狙撃命令は出されていた。切なくてやるせない、そして忘れられない「ラストシーン・ベスト10」ランク入り。カーチャ・リーマンがいいですね33歳でした。知的でクールな細面。「脱走なんかしなきゃよかった、エマのせいよ、わたしもうすぐ出所だったのに」と嘆くエンジェルにコインを投げ「手違いがありました、今から戻りますと電話しな」。彼女の最新作は、ドイツ映画界を代表する女性監督にして盟友、マルガレーテ・フォン・トロッタと組んだ「ザ・ミスプレイスド・ワールド」(2016年7月日本公開)です。

 

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