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特集「最高の悪役」

2016年6月1日

特集「最高の悪役」① ケイト・ブランシェット1 
シンデレラ(2015年 ファンタジー映画)

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監督 ケネス・ブラナー

出演 ケイト・ブランシェット/リリー・ジェームズ/ヘレナ・ボナム・カーター

 

シネマ365日 No.1769

女イアゴー 

特集「最高の悪役」

ケイト・ブランシェットは、シンデレラの継母トレメイン夫人が、意地悪な母親になった原因をこう解釈している「純粋に邪悪な人なんてだれ一人いない。だれにでもそうなる動機や誘引があると思います」で、その動機は何かと言うと「この女性は自分の人生をもう一度やり直そうとしていたときに、彼女の新しい夫が娘シンデレラに注ぐ深い愛情に激しく嫉妬してしまった」これを模範解答というのね。シンデレラ(リリー・ジェームズ)は妙齢の令嬢よ。放っておいても1、2年のうちに結婚して、めでたく家を出て行ってくれるのよ。そんな女の子に、夫と死別し娘二人を抱え再婚によって今後の人生をやっていく熟年女性が、いちいち嫉妬して大騒動起こしてどうするのよ、アホらしい、毒にも薬にもならぬ可愛らしいまでの解釈、ブランシェットらしくないわ。そう思ったけど、やっぱりこの悪役はいざスクリーンで見ると、みごとに立ち直っているのです(笑)▼じゃ原因は何か? 原因なんかない、彼女は元々意地悪で根っから悪党で、悪を振る舞うのが好きなのよ。しかも頭がよくて透き通るように現実が見える。実の娘二人が揃って、シンデレラの足元にも及ばないことを知っている。シンデレラは小さいけれど領国の継承者だ。夫の急死は最大のチャンス、シンデレラを閉じ込め、アホだけど実の娘たちを、どこかの領主の嫁に押し込んでしまおう。これだけなら親バカで済むが、トレメイン夫人の真の目的は違う。女王の実母という地位を利用し女官長になり、義理の息子を手なずけ、宮廷はもちろん、国を支配する権力を手中にすることだ。本人が台詞でいっていることだから間違いないでしょ。継母という立場にある複雑性は、女優たちにとってかなり想像力を刺激する役らしい。シガニー・ウィーバーは「スノーホワイト」で、愛そうとする努力にもかかわらず、反抗的な継子を憎むようになる孤独な母親を、シャーリーズ・セロンは同じく「スノーホワイト」で、謀略と殺戮の権化を演じ、どっちも、いかにもシガニーらしい、シャーリーズらしい継母だった。もう一つの共通項は、どっちも娘よりきれいだったことだ▼我らがケイトはどう演じたか。彼女は洗練された趣味と鋭い感性の女性。無類の派手好きで毎晩客を招いて笑に興じ、夫が死ぬと「お母様でなく、奥様と呼びなさい。あなたの部屋は風通しのいい屋根裏がいいわ。喧嘩も聞こえないし裁縫道具があれば退屈もしない」しゃあしゃあと、こういうときの底意地の悪い表情は、ケイトの趣味ではないかと思えるほど、天下一品です。実の娘たちは家事能力無能、芸術の才能もゼロ。未来の女王ならせめてある程度のたしなみは…とはいえ、娘の歌を聴いて母親は思わず叫んでしまう。「もうおやめ!」。夫人はコスト削減のため使用人たちを解雇した。家事一切はシンデレラがすることに。「悲しみを忘れるには働くのがいちばんよ」まったく、夫人のやさしさには涙がでる。夫人は舞踏会で娘たちに王子のハートを射止めさせようと画策。シンデレラも母親の残してくれたドレスを着て出席しようとするが、鬼の夫人は袖をちぎってボロボロにし、舞踏会に行かせない。どうせお前は一生薄汚い使用人だと捨て台詞を吐く。夫人は真っ赤なルージュで呵々大笑。ジョーズも裸足で逃げる大口を、ケイトはぱっくり開けるのである▼シンデレラの実の母が教えてくれた、人生の試練を乗り切るために秘訣とは「やさしさと勇気を持つこと」。でもさすがのシンデレラも夫人の悪の腕力に「もうダメ。お母さま。勇気を持つと誓ったけど、何も信じられない」相手があの継母じゃねえ、かわいそうに…ところがここで魔法使い、フェアリー・ゴッドマザー登場。扮するのはヘレナ・ボナム・カーターです。いいぞ、ヘレナ待ちかねたぞ。ネズミの白馬、ガチョウの御者、トカゲの従者、カボチャの馬車、裾を引く青いドレスでシンデレラは舞踏会に。そこではクレメンタイン夫人が虎視眈々と娘を売り込むチャンスを狙っている。ケイトが思い切りバカっぽく演じています。「ぼやぼやしていないで王子の気をひくのよ!」扇で娘たちの頭をバシバシひっぱたく。これ、限られた相手に見せるケイトの癖ですね。「エリザベス ゴールデンエイジ」でも、お気に入りの侍女ベスを、冗談を言いながら扇で軽く叩いている。自分の子供たちにも同じことをしていそうです▼夫人は、娘たちが王子に見向きもされなかった現実を怜悧に受け入れ、シンデレラにささやく「愛はタダじゃない。王子と結婚するなら愛を返してちょうだい。親のない使用人が名乗り出たって誰も信じない。わたしのような立派な後見人がいれば話は別だけど。結婚後はわたしを女官長にしてもらうわ。ふたりの娘は有力者に嫁がせ、わたしはあの若造を操るの。あなたのような小娘が、えらそうに王国を支配するつもり? わたしに任せれば悪いようにはしない」ケイトはどこか哀切感をにじませ、ある種惚れ惚れするようなセリフを吐きます。もうお気づきでしょうが、ケネス・ブラナー監督はここで「女イアゴー」を登場させたのです。オセロを破滅に追いやった、というよりシェイクスピアが造型した稀代の悪党。ケイトにしても、女優冥利に尽きる悪役だったのではないでしょうか。

 

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