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特集「最高の悪役」

2016年6月2日

特集「最高の悪役」② ケイト・ブランシェット2 
インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国(2008年 アクション映画)

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監督 スティーヴン・スピルバーグ

出演 ハリソン・フォード/ケイト・ブランシェット

 

シネマ365日 No.1770

スパルコよ、もう一度 

特集「最高の悪役」

本作とまったく関係なのですが、アレック・ギネスという俳優がいました。2000年に没したイギリスの俳優です。「戦場にかける橋」や「アラビアのロレンス」といえば思い出す方もおられるでしょう。もっと古い映画になると「マダムと泥棒」があります。彼は変装の名人といわれました。どんな役でもするっと皮をかぶるように、脱ぐように、外観からなりきってしまう。といって派手なメイクや衣装をまとうわけでもない。せいぜい役に伴う、ごく普通の衣装やメイクである。トム・クルーズのイーサン・ハントの魅力の一つは、彼が変装の名人であるからだと断言してもいい。トムの時代になるとゴムの皮膚とか喉に埋め込んだ超小型コンピューターによる変声とかを駆使しますが、ともあれ、変身技術とは俳優の究極のスキルだと思いますし、しかも神業の変装となると、技術だけにとどまらぬ、人格そのものを換骨奪胎するに等しい脅威のレベルではないでしょうか▼本作でケイト・ブランシェットは大好きな変装・変身に、機嫌よく取り組んでいます。しかも悪役である。彼女が演じるロシアの軍人、イリーナ・スパルコ大佐を、ハリソン・フォードの恋人役にという案があったらしいのですが、ブランシェットはそれを断り悪役に回った。彼女が登場したとき(おおお…)笑ったらいいのか、嘆いたらいいのか(笑いましたけどね)。真っ黒なボブカットに軍服、腰に剣を帯び脛がすっぽり隠れるほどの長靴。まあ脚が長いから似合いますけどね。彼女独特のキツネ目はいやましに鋭く、肉の薄い顎を余計とがらして、一直線に大股歩行する。声だけは変わりません。特に可愛いらしくもせず(当然でしょうが)、特に物々しくもせず。イリーナ・スパルコの自己紹介によると「レーニン勲章を3度。社会主義労働英雄の称号も受けた。誰よりも早く物事を予知する力が」あり、スターリンの秘蔵っ子にして科学者。超常現象の軍事利用を考え、世界各地で古代の遺物を収集している▼彼女はクリスタル・スカル(水晶でできたカブトのような大きな遺物)が、冷戦中のアメリカに対し、役に立つ武器になると考えた、スターリンが夢見た超能力戦争の切り札ですね。ジョージ・ルーカスによれば「ロシア人はマインド・コントロールやESP(超感覚的知覚)について大規模な研究を進め、あらゆる知能訓練が行われ、秘密兵器開発の可能性が模索された、というロシアの大研究の話を使った」といいます。具体的にどう使うのというと、劇中スパルコの説明によれば「各国の指導者にわたしたちの思想を刷り込むことができる、しかも刷り込まれながら洗脳に気がつかないところが素晴らしい」。こういうセリフを聞いて「?」と一瞬でも疑うとこの映画は前を向いて進みません。それでなくともブランシェットがキュッと腰にベルトを引き締めた灰色の軍服で現れると、超一級の魔術師か詐欺師の登場のような、幻惑的な雰囲気になります。このムードなるものを発散することこそが、人の目をくらませる変装の極意でしょう▼スパルコはまた超人的な体力の持ち主にちがいない。インディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)に走るジープから突き落とされても、かすり傷一つ負わずジョーンズを追跡する。まるでジョーズ人間女子版みたいな能力である。心霊術とは生物が発する精神力というか、オーラというか、目に見えぬ波長というか、それが繋がっていると考えるから、マインド・コントロールが可能だという結論に達するのだろうが、スパルコ自身が誰かをマインド・コントリールしたという発現は、この映画の中ではないようである。でもとにかく彼女は運命論しゃであるから、宇宙からの物体であるクリスタル・スカルに、彼女の謎をとく答えがあると信じている。彼女の求めるものとは「自分はなぜここにいるのか、自分の役割とは何か」。そんなもの、というとスパルコに怒られそうだが、考えてわかるものなら、地球人みな賢くなって戦争なんかしやしませんよ▼でもスパルコはそういう怠惰でいい加減な妥協を許さない。彼女はすべての知識を与えよと、宇宙方きた異次元の訪問者に要求した、すると遺跡に円陣を組んで並んでいた13の骸骨が一体にまとまり、目が光り、スパルコに知識を与え始めた。別次元につながるゲートが開き、異次元人は地球人の頭脳では収拾が付かぬスケールの知識をスパルコに投入した者だから、とうとう彼女の頭脳は白熱し、目から閃光を発し、今や頭上に正体を現した円盤に吸収されるのである。スパルコって、一途なのよね。彼女には多分冗談ひとつ通じないのだわ。だってジョーンズも彼の妻も子供も友だちも、異常事態に命からがら脱出を試みるのに、スパルコだけがお立ち台みたいなところに立って「知識を与えよ、すべてを与えよ」と絶叫するのよ。切ないばかりのスパルコの「一生懸命」。このドラマティックなキャラを、どうしてスピンオフにしないのかしら。

 

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