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特集「最高の悪役」

2016年6月6日

特集「最高の悪役」⑥ ベアトリス・ダル 
屋敷女(2008年 ホラー映画)

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監督 アレクサンドル・バスティロ/ジュリアン・モーリー

出演 ベアトリス・ダル/アリソン・パラディ

 

シネマ365日 No.1774

せつなきダル 

特集「最高の悪役」

フランス映画の「ホラーの伝統」って確かにあるよね。かなりレベルが高いと思うのだけど。「ポゼッション」ではイザベル・アジャーニがカンヌ国際映画祭女優賞、「顔のない眼」はエディット・コスブという元祖妖精女優と、主題曲を担当したモーリス・ジャールを。「ハンニバル・ライジング」のギャスパー・ウリエルは、若きハンニバルの天才に美貌を与えた。「変人村」はヴァンサン・カッセルと妻モニカ・ヴェルッチの狂想曲、「ハイテンション」はホラーの貴公子アレクサンドル・アジャを世に出した。「変人村」はともかく他のホラー作品に共通するのは、曰く言い難いやるせなさだった。血しぶきは上がるし、あたりは血の海、斬り刻むシーンもあるし残酷も血みどろもあるのだけど、それだけに終わらず、情念の切なさや物悲しい色調がにじむ、それがヨーロッパの、特にフランスのホラーだったと思う▼「屋敷女」も例にもれない。映画は強引なまでのイントロで始まる。大破した車に妊婦サラ(アリソン・パラディ)が、血まみれになって失神状態。タラタラと血が滴りおち、サラがかろうじて息をしているのがわかる。彼女は大きなお腹に手を当て、隣の夫は既に息を引き取っていた。4ヶ月後、サラは今日明日にも出産が迫っていた。予定日はクリスマスで、救急車は出動しない。母親も愛人も心配して一晩一緒に過ごそうとするがサラは追い返す。ピンポン。女の声がドア越しに「電話を貸してほしい」という。断るが引き下がらないばかりか「サラ、ドアを開けて」自分の名前を知っている。「あなた、だれなの」「開けたらわかるわ」サラは警察を呼ぶ。パトロール中の3人の警官が家に来て、くまなく調べたがだれも見つからなかった▼女はサラの知らないうちに家に侵入します。サラがベッドに入るのを待って姿を現したのは黒装束の女(ベアトリス・ダル)。なぜか場違いな黒いロングドレスを着ています。女の正体はもちろん名前も明かされません。仕方がないからダルと呼びます。ダルは消毒液で大きな裁ち鋏を手に、サラのお腹を剥き出しにし、お臍に鋏をグリグリ、サラの顔面を鋏で切りつける。飛び起きたサラはベッドの上で鋏を振りかざす黒装束の女を発見。バスルームに逃げ込み鍵を閉め籠城する。「開けなさい!」と女は大声をあげ、ドアを蹴る。そこへサラの身を案じた愛人の上司が来る。女はサラの母親だと名乗り、酒など進めて話し相手になる。そこへ本物の母親が来る。「娘はどこに」と聞くものだから上司はダルに「君はだれだ」。ダル慌て上司を鋏でグサグサに。顔、股間、胸、上司はたちまちぐったり。サラは母親が来たことを知らず、ノックしたのはダルだと思い、ドアが開くなり30センチくらいある長い針で、母親の喉を横からブッスリ貫く▼警官が来て異常はないか尋ねる。家人を装ったダルは体良く追い返す。二階のバスルームに閉じ込められたサラが立てる音を警官が聞きとがめると、安物の洗濯機が回っているのだとごまかす。そして家の中は再びサラとダルの二人だけ。ダルは持久戦に持ち込み、床に座ってタバコなどふかす。女の正体は明かされない。目的も定かでない。サラを殺す? そうでもないのだ。女がやっと口を利く。「欲しいのはたったひとつ」。つまり赤ん坊であるとわかる。サラは徹底抗戦を決意する。攻防戦は熾烈を極める。サラが女の舌に噛み付く、女はサラを顔面キック、サラは自分のお腹に針を当て、お前に渡すくらいなら、子供もろとも死んでやる。女が怯んだ隙にサラは女の顔に何やら吹き付け、火だるまにする▼警官が戻ってきて現場を見て驚倒、パトカーに残っている同僚に「女を逮捕する」と無線を入れるが銃で頭の半分を飛ばされる。観客は意味不明のままダルのド迫力に引き摺り回される。パトカーにいた警官も急を察して、拘留した青年を連れて家の中に入る。顔を焼かれた女は部屋の隅に潜み死にかけていそうに見える。ここで初めてサラと女との間に会話らしい会話が交わされる。女はサラ夫婦が衝突した相手の車に乗っていた女性で、同じく妊婦だったが子供は死んでしまった。長年渇望していた子供を失い、女が考えついたことは、サラの子を奪うことだ。女に哀れを覚えたサラは止めを刺さなかった。ふと気がつくと部屋の隅に男が立っている。警官が一緒に連れて入った拘留者だが、目をやられ完全に正気を失っていた。彼はサラの腹を蹴飛ばし、サラは破水、襲いかかる男を射殺したのはダルだった。陣痛の始まったサラの子宮口を調べ、衣類を鋏で切り開き、露出した腹部に鋏を入れる。ええ〜。鋏で帝王切開ですって。ここまで映像にするか。女は赤ん坊を取り出すと腕にくるみ、椅子に腰掛けてやさしげに微笑む。彼女の顔は焼けただれ髪は焦げ、様相は無残ですが、姿振る舞いは母なる像そのもの。かわいそうなのはサラです。多量の出血とともに力尽きます▼結局、この映画何を言いたかったのだろう。車がもう一台スクリーンに映されて、初めて(あ、被害者はもう一人いた)と観客は気づくわけ。ダルの登場とともに家全体に妖気が立ち込めます。結局は赤ん坊をめぐる母性の衝突でした。筋論でいえば成り立つはずがないのですが、それを無視するのがホラーの常道だと言われればそれまで。共演のアリソン・パラディはヴァネッサ・パラディの妹(ジョニデの義妹)です。

 

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