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特集「最高の悪役」

2016年6月10日

特集「最高の悪役」⑩ アラン・ドロン 
太陽がいっぱい(1960年 犯罪映画)

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監督 ルネ・クレマン

出演 アラン・ドロン/モーリス・ロネ/マリー・ラフォレ

 

シネマ365日 No.1778

犯罪体質 

特集「最高の悪役」

犯罪と恋愛は似たところがあります。どっちもイカレタことを正気だと思ってやっていることです。原作はパトリシア・ハイスミス。くどくどとわかりきったことを書くようですが、この映画の新しい切り口を見つけろと言われても頭を抱えるしかなくて、仕方なく「リプリー」も見て、原作にもあたり、どれが、だれが、いちばん我らが「最高の悪役」にふさわしいか、つらつら考えて原作者からアプローチすることにしました。そこでふと恋愛と犯罪は似ているな、と思ったわけ。同じ原作者の「キャロル」を読んだ後だったから、余計そう思ったのかもしれません。ヒロインの一人、テレーズなんか、寝ても醒めてもキャロルのことばかり考えていまして、キャロルがいま何をしているだろう、キャロルも自分と同じように感じているだろうか、電話しようかとか、してくれないだろうかとか、キャロルのことなら何でも知りたいとか、これ、金庫破りする強盗が、金庫の情報なら何でも知りたい、と思うのに似ています。決して努力してやっているのではない▼リプリーもそう。変な言い方だけど大した苦労もなく、彼は犯罪を犯します。まるであらかじめ脳にプログラミングしてあったことを、テキストにしてやっているにすぎない、特に失敗の心配もしているふうに見えないし、良心がとがめているわけでもない。サインを偽造する練習など情熱的でさえある。ハイスミスのリプリーには、そういう「犯罪体質」ともいうべき、犯罪への浸潤性があると思えるのです。リプリーは貧しい青年だからお金は欲しかったでしょうが、そもそも殺人に至ったきっかけは、フィリップが鼻持ちならぬ遊蕩息子であり、どう見ても力量としては格下の男が、何で自分にエラソーに指図しているのか、バカな逆転構造が腹ただしい、リプリーはそんな気位の高い男性であり、このキャラは以後のリプリー・シリーズでも一貫されています。ハイスミスの主人公は、犯罪者だろうと人妻だろうとデパートの店員だろうと、知性的で誇り高く、持って生まれた体質に逆らおうとなど、しません▼犯罪体質というキーワードから「リプリー」と「太陽がいっぱい」の登場人物を見比べると、やっぱり最高はアラン・ドロンにとどめをさすのです。当初、キャスティングはトム・リプリーがモーリス・ロネで、アラン・ドロンはフィリップでした。「死刑台のエレベーター」で演技派として高い評価を得ていたモーリス・ロネと、ただの二枚目と軽く見られていたアラン・ドロンではまったく扱いが違った。それを一目で逆転させたのは監督のルネ・クレマンでした。アラン・ドロンという、ろくに名前も聞いたことのなかった男の起用に、クレマンは乗り気でなかったのに、ガラッと主役にしてしまったのは、アラン・ドロンがフェロモンのように芳香させている犯罪体質を、クレマンが嗅ぎ取ったとしか思えない▼映画化された当初、原作と全然違ってしまったといわれましたが、そんなことないです。あの部分、この部分がたとえどう違っていたとしても、カタムツリの粘液のように滲みださせている犯罪者の匂いをごく自然に、違和感なく発していたのは、だれよりもアラン・ドロンだったと今でも見直して思います。そして美しい。「リプリー」のマット・デイモンにしても、ジュード・ロウにしても、美しさという点では多少の好みの差異はさておくとして、異議はありません。トム・リプレーの映画化では、当時望める最高のキャスティングだったと思います。ただ、彼らには妖しさがないのです。マット・デイモンは貧しく孤独で(残念なことに)誠実な青年のほうが似合う。ジュード・ロウは美貌であるものの硬質で鋭角すぎる。妖しさとは異性であれ、同性であれ、惹きつけずにはおかない「蜜」のようなものを隠し、鞘から抜けばたちまち人を魅入らせる「妖刀村正」のようなものだとも思います(笑)。アラン・ドロンの犯罪体質が発酵させる、美貌と毒のような蜜の組み合わせは、まさに1960年代映画界の奇跡だった。打たれ強かったことも最高の悪役にふさわしい。刑務所に入ってもおかしくないスキャンダルに、しばしば見舞われながら不死鳥のように銀幕を凌駕しました。ドラッグと酒に溺れることはなかった。たとえアラン・ドロンの、特にファンでなくとも、彼の演じた犯罪者が、おしなべてストイックだったと気づく方は少なくないはずです。

 

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