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特集「最高の悪役」

2016年6月11日

特集「最高の悪役」⑪ ヒース・レジャー 
ダークナイト(2008年 アクション映画)

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監督 クリストファー・ノーラン

出演 クリスチャン・ベール/ヒース・レジャー/ゲイリー・オールドマン/マギー・ギレンホール/モーガン・フリーマン/マイケル・ケイン

 

シネマ365日 No.1779

さらば、ジョーカー

特集「最高の悪役」

悪の天才ジョーカーです。苦悩し、挑戦し、勝利するヒーローは、クリストファー・ノーランの最も得手とする造型です。「インセプション」レオさまにしても、「インターステラー」のマシュー・マコノヒーにしても、強く正しく、勇気あるチャレンジャーでした。ところが「ダークナイト」のジョーカー(ヒース・レジャー)は違います。すべての正義を覆すエネルギーを放つ、黒い太陽です。正義の中に悪が胎胚することを彼は知り抜いています。悪にまみれた街ゴッサムこそ彼の魂の故郷だ。バットマン(クリステャン・ベール)は、市民を守る自警戦士かもしれない、正義の使者ハービー・デント検事(アーロン・エッカート)は、ゴッサムを照らす光の騎士かもしれない、しかしジョーカーに言わせると「バットマン、オレにまっとうな口を利くな、お前はオレと同じ化け物だ、今は必要でも、不要になったらたちまち世間の爪弾きものだ。モラルや倫理ってものは善の戯言だ。奴らは自分らの足元がおびやかされたらポイ。たちまちエゴをむき出しにする」なんとシャープな洞察であることか▼それこそ「光の騎士」クリストファー・ノーランが、こんなどす黒い男をこしらえたなんて、そこが驚きだったわ。前シリーズのジョーカーだった、ジャック・ニコルソンとは一味異なるいやらしさでしょう? 滔々たる長広舌のおしゃべりは「バットマン」シリーズの悪役の、一大特色だわ。ユマ・サーマンがポイズン・アイビーになったとき、長いセリフを一人でまくしたて、半分アドリブじゃないかと思ったくらいよ。ノーランは、役作りをたぶん、ヒース・レジャーに任せたのでしょうね。「ブロークバック・マウンテン」のヒースはほとんどセリフがなく、峻烈な大自然の中の芥子粒のような人間が、自然より過酷な差別に押しつぶされる、それを、歯を食いしばって耐えている、そんな演技でオスカー主演男優賞にノミネートされた。ロッカーの扉に貼った山の写真と、たった一枚残った形見のシャツが言葉を圧倒した▼本作は違う。言葉の洪水の中でヒースは正義と観客を翻弄しにかかる。ジョーカーというけばけばしいメーク。大きく裂けた口の傷口。「オレの信念か。死ぬような目にあったやつはイカレルのだ。この傷がどうしてできたか知っているか。親父は酒を飲んではお袋を殴った。お袋はある日包丁を持って防いだ。親父はそれが気にいらなくて目の前で笑いながら母親を殺した。それからオレに向かっていった、そのツラはなんだ、笑わせてやるぜといってナイフを口に入れ、切り裂いたのさ」こうも言っている。「女房は借金の脅しで顔にひどい傷をつけられた。こんな顔で生きていけないというのだ。おれは妻を笑わせるために、自分の口を切り裂いたのさ」。どっちか本当かわからない、どっちも嘘かもしれない、嘘でもほんとでも、なんと毒と刺激に満ちたセリフだろう。億万長者のブルース・ウェイン(バットマン)が「6800万ドル。たったそれだけの金で?」とこともなげに言うのも、「ゴッサムを救うのはハービー・デントがふさわしい、彼こそ光の騎士だ」そういって罪をかぶるのにもしびれる、でも結局は悪に落ち込んだ「光の騎士」いつも腹心のアルフレッド(マイケル・ケイン)とルーシャス(モーガン・フリーマン)に助けられ、ニューショーク市警本部長(昇格した)ゴードン(ゲイリー・オールドマン)の理解があって活動するバットマンと比べ、ジョーカーとは八つ裂きししても飽きたらぬ悪の権化なのだ。化身という存在が放つ激しさに、太刀打ちするカッコよさは、その身も化身でなければ難しい▼最高の悪役を創出したヒースは28歳で亡くなりました。薬物併用摂取による急性中毒が原因とされています。死後、「ダークナイト」の演技、つまりジョーカーによってアカデミー助演男優賞を受賞。28歳での同賞受賞は史上4番目の若さでした。

 

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