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特集「最高の悪役」

2016年6月15日

特集「最高の悪役」⑮ ベティ・デイビス 
追憶の女(1942年 恋愛映画)

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監督 ジョン・ヒューストン

出演 ベティ・デイビス/オリヴィア・ハヴィランド

 

シネマ365日 No.1783

お前にだけは言われたくない 

特集「最高の悪役」

追憶の女」は既出ですが、ベティ・デイビスのよさがスカッと書けていなかったので再度登場。オリヴィア・ハヴィランドが姉ロイ、デイビスが妹スタンリーです。性格は真逆です。奔放で蠱惑的なエゴイストのスタンリーに、家庭的で優しく良識に富むロイ。妹は姉の夫ピーターと駆け落ちする。スタンリーは家中の厄介者だ。父親は人がいいばかりに会社を実兄に乗っ取られ、宛てがい扶持で生活を維持している。やり手の伯父は悍馬のような姪スタンリーがお気に入りだ。小遣いはたっぷり、スピード違反はもみけしてやる、弁護士の婚約者クレイグは女房の尻に敷かれると、スタンリーの肩ばかり持つ。しかしもう一人の姪の夫と駆け落ちとなると甘いことは言っておれない。もうあいつにはビタ一文金はやらん。姉は傷つき、弁護士のクレイグは廃業一歩手前のヨレヨレ状態だ。スタンリーとは、人の人生を引っ掻き回すことをなんとも思わぬ厄病神なのである▼駆け落ちはしたものの、スタンリーは浪費続き、外科医の夫は匙を投げ自殺、実家に帰ってきてみれば、姉がクレイグと結婚すると聞いて「ダメな男になったわね」—どういうこと。姉と結婚するのはダメ男の証明か。ケチョンケチョンである。姉は子供の頃から妹思いだ。でも聡明な女性だから、スタンリーの本性に目を眩まされることはない。ピーターが自殺したと聞いた途端、「スタンリーのせいよ」と叫んだ。その妹が遺体を見つめ動揺していると聞き、ロイはとるのもとりあえず、駆け落ち先だったボルチモアに行く。弱みを見せない妹だが、姉には「ロイ。一緒にいて。なぜこうなったのかわからない。わたしのせいで死んだのよ」その通りなのに「過ぎたことよ」と姉はスタンリーを抱き「わたしの話を聞くのよ。自分に向かってこう繰り返すの。わたしは元気になって前に進む、じき何もかもうまくいく…そしてぐっすり眠るの」なんていいお姉さん。おかげで妹は体力を回復した、悪女の気力まで元気になった…▼この懲りない妹は、今度はクレイグに、元婚約者にして現在姉の夫を誘惑の手を伸ばす。さすがにクレイグは「君は僕から逃げたじゃないか」そう言われ、相手にされないとわかって父親に泣きつく。「どうした、スタンリー」「自分が惨めなのに人の幸せを見るのは耐えられない。他の人が愛し合うのを見せつけられるなんて、どこかに逃げ出したい」「人生からは逃げられんぞ。昔は幸せかどうかなど考えなかった。もっと大切なものがあった」「どんな?」「義務を果たすとか、責任を持って生きるとかだ」それこそスタンリーには馬の耳に念仏であろう。彼女はクレイグの事務所に走り自信満々「認めたらどう? わたしを忘れられないと。7時、サウスサイド・ターバンで待つわ」。ベティ・デイビスの、あの大きな目で睨みつけながらこんな切口上を言われると、どんな気のいい男でも女の正気を疑うと思う▼デイビスのすごいところは、同情の余地なしの女を見事に作り上げてみせたことだ。スタンリーをなんと呼ぼうと、悲劇の女でも魔性の女でも、冷酷な女でも狡猾な女でもいいが、そんな女でもひょっとしたら、かもす場合があるかもしれない同情だけは、この女には一片の余地もない、そんな鉄板に仕上げたことだ。デイビスは水を得た魚のように演じている。デイビスはスタンリーのような女が好きだった。狂気とすれすれで生きる、待ったなしの女が、自分に最も近い「わが隣人」であることがわかっていたのだ▼スタンリーは無実の青年に罪をなすりつけようと画策する。彼は黒人だ。当時だれも彼や彼の家族の言い分に耳を貸そうとしなかった。クレイグさえ「彼の弁護はどのみち無理だ」と逃げ腰になった。ロイは「スタンリーは自分の幸せのためならなんでもする子よ。無実の若者に罪を被せるくらい、やるのよ。なぜ彼を弁護しないの。スタンリーだからかばうの? ロイ、彼女への気持ちは終わっていなかったのね。わたしはただの看護師、発作が治まるまで頭を撫でていてあげただけなのよ」ロイにここまでいわれ、クレイグもいざ裁判へ腹をくくる。四面楚歌となったスタンリーは伯父さんの屋敷に駆け込む。「聞いて、伯父さん、大変なことになったの。わたし、このままじゃ刑務所行きよ。助かるようにしてちょうだい」伯父さんはかすれた虚ろな声で「あと半年だそうだ」「何のこと?」「医者がいった。わたしは余命半年だそうだ」業を煮やしたスタンリーは屋敷を飛び出しパトカーに追われ、崖から転落、事故死する。スタンリーを死なせる以外、収めようのないエンドですが、彼女が伯父さんに投げつける最後のセリフがこれ「半年ですって。もう充分生きたでしょ。わたしはまだ若いのよ。自分のことしか頭にない人だわ」…お前にだけは言われたくない。

 

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