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特集「最高の悪役」

2016年6月16日

特集「最高の悪役」⑯ モンゴメリー・クリフト 
女相続人(1949年 恋愛映画)

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監督 ウィリアム・ワイラー

出演 オリヴィア・デ・ハヴィランド/モンゴメリー・クリフト/ラルフ・リチャードソン

 

シネマ365日 No.1784

悪役、実はふたり 

特集「最高の悪役」

ミューヨーク社交界で指折りの名士にして名医、スローパー博士(ラルフ・リチャードソン)には一人娘キャサリン(オリヴィア・デ・ハヴィランド)がいる。キャサリンは心優しい柔和な少女であり、20歳になった今もその性格は一つも損なわれていない。博士は思う「わたしのキャサリンは、残念なことにケシ粒ほどの媚態も持ち合わせていない」。だからキャサリンがパーティーに招かれていると聞くと、付き添い役の妹、つまりキャサリンの叔母にあたるラヴィニアに「若い者の会話に、自分から入るようにいってやってください」そう頼む。娘は「名門の学校を出て音楽や踊りの習い事も教えた。何不自由なく伸び伸びと育てた結果、平凡で世間知らずの娘になってしまった」。博士の亡き妻は理知とユーモアと美貌の女性だった。娘が生まれた時、この母親の子ならば、と同じ名をつけた。ところが博士はつぶやく「どうなっちゃったのだろう。母親に一つも似ていない。あの子に近づく男は金が目当てだ」そう、1850年代の時期にして、博士は年収3万ドルの財産家なのだ▼ラヴィニア叔母とは、ボートに彼女を乗せたら転覆する、登山のパーティーに彼女を入れたら遭難するような女性である。キャサリンは寡黙かもしれないがアホではない、父博士のレベルが高すぎるから、そこがかわいそうなだけだ。パーティーでキャサリンに話しかけてきた青年モーリス(モンゴメリー・クリフト)の洗練された態度物腰、弁説、優雅な会話、そして輝く美貌に魅入られ、早速キャサリンと近づけようと画策する…しなくても青年は、とっくにキャサリンをターゲットにしているのだけど。ラヴィニアから報告を受けた博士は、そもそも妹が気に入っている男だということが気にいらないが、(俺の点がからすぎるのかもしれん、会ってみよう)と思い直す▼原作はヘンリー・ジェームズの最高傑作「ワシントン・スクエア」です。主たる登場人物4人の性格の書き分け、彩りのスタイリッシュなこと。始めから終わりまで、1秒の余所見もさせないウィリアム・ワイラー監督です。中でも感傷のかけらもない博士の洞察は爽快ですらあります。モーリスは立派な頭脳に稀に見る美男子であり、優秀な能力を持ち、天分もある。だがどうしても博士は好きになれない。彼のモーリス観は「紳士と呼べる男じゃない。人に取り入ることは非常にうまいが、限りなく粗野な性格だ。総じて馴れ馴れしすぎる。しかも無職とは。所詮、体のいい伊達男に過ぎん」妹からモーリスが社交界で評判の好男子であると聞くと、「そうさ。彼はあちこちに出没して職を探しているのさ。怠けながらに贅沢のできる、財産家の婿という職を。俺のキャサリンに近づいた理由は、他に何がある?」博士はモーリスが帰国後、投宿している彼の姉の家を訪問する。博士はこの女性に好感を持ち、あなたの弟が娘に求婚したが、自分はどうにも彼が気に入らない、と率直に打ち明け、娘は世間知らずで男がその気になればコロリと騙される、もし自分の想像が間違っていなければ弟さんは娘の財産が目的だ、娘はどうやら弟さんを愛しているが、今ここで別れさせて娘を泣かせるとしても、泣いて三ヶ月暮らす方が一生なくより幸せだと話し、「収入のない弟さんを、あなたが面倒見てらっしゃるのでしょう」と言い当てる。博士の真摯な、温かみのある言葉に、女性は「お嬢さんを、弟と結婚させちゃいけません!」喉まで出かけたのを抑えるが、鋭敏な博士にはその気配だけで充分だった▼モンゴメリー・クリフトが、純真なキャサリンを籠絡する、心根の卑しい男を文句なく好演する。冴え冴えした美貌が悪魔めいていやらしい。時として表情をかすめる陰影が、これじゃキャサリンでなくともイチコロかも、と思わせる。博士は、無職は恥ずかしいことではない、しかし、いわゆる献身とは一生を通じての問題であり、献身を表す物質的な努力が普通求められる、無職でそれは難しかろう、とビシビシ指摘する。モーリスは、博士の許しなくなされた結婚には、持参金も財産の分与もないと知り、深夜の駆け落ちの約束を平気ですっぽかし、キャサリンは虚しく夜を明かした。父博士亡きあと、キャサリンは充分な財産で裕福に暮らしていた。5年後おせっかいのラヴィニアが、モーリスが会いたがっていると伝えてくる。キャサリンは会うと答える。あの時、君を傷つけたかもしれないが、君を守るためにはああするしかなかった…モーリスが守るとは、どういう守り方か知らないが、キャサリンは笑みをたたえて聞き、もう一度やり直そうというモーリスにイエスの返事。モーリスは客間の椅子に脚を広げてそっくり返り「やっと家に帰れた。ここは僕の家だ、今夜結婚するのだ」とラヴィニアにいう。夜が更けていく。キャサリンは刺繍をしている。玄関の呼び鈴が鳴る。開けようとするメイドに「鍵をかけて」厳しくキャサリンが命じる。激しくドアを叩く音に眉も動かさずつぶやくのだ「彼はまた現れた。同じ嘘を並べ、さらに強欲になって。最初は財産だけ欲しがったけれど、今は愛まで欲しがっている。来るべきでない家に二度も訪れるとは。3度は許さない」。これこそ父博士が娘から聞きたかったセリフでしょうね。モーリス? ビクともしないドアに絶望して去ります。考えてみれば本作の真の悪役は父博士かもしれません。知性の塊のような現実把握がカッコよかったです。

 

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