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特集「最高の悪役」

2016年6月18日

特集「最高の悪役」⑱ ダリル・ハンナ 
キル・ビル vol.2(2004年 アクション映画)

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監督 クエンティン・タランティーノ

出演 ユマ・サーマン/ダリル・ハンナ

 

シネマ365日 No.1786

美しく残虐なワル 

特集「最高の悪役」

もちろんユマ・サーマンもいいが、ダリル・ハンナという、「r」と「l」の発音がリズミカルに続く名前の、この女優の演じる悪役、エル・ドライバーは強烈だった。毒殺と騙し打ちを得意とする女殺し屋、ユマ・サーマンも180センチの長身だが、それに伍する身長、金髪、無機質な美貌は既に「ブレードランナー」のレプリカントで注目されていた。「キル・ビル」では看護師の白衣に合わせた白いアイパッチに、「赤十字」の赤い十字を入れるなど、一目で記憶させるスタイリッシュな存在を示した。本作では黒のスーツである。ビシッと決まって一分の隙もない。エル・ドライバーは、ダリル・ハンナの女優歴における最高の悪役だった。黒のスーツに合わせ、当然アイパッチは黒である。ダリルはこの時44歳。ふてぶてしくもシャープな眼光は、肉食獣の獰猛な光を湛えている▼クールな殺し屋は、しびれるような知的なセリフを決めてくれる。性悪でアバズレで、極めつきのビッチであるエルから目が離せない、それほどカッコいいワルだ。セリフを拾ってみよう。本作はビルを殺す復讐映画である。暗殺団の一員でピカイチの女殺し屋だったユマ・サーマンが、殺し屋組織から抜け、ボスのキルにリンチを受け、4年間の意識不明から覚醒し、婚約者や友だちを皆殺しにしたビルと、その配下の殺し屋に順番に復讐していく、本作で殺される予定はビルの弟バドとエルと、ビル本人だ。バドは襲撃に来たベアトリス(ユマ・サーマン)を返り討ちにして彼女が持っていた日本刀を横取りする。エルが100万ドルで買い取ることにし、キャッシュの入ったカバンを持って、テキサスの砂漠の中の、バドのコンテナに来る。現金の札束に手を突っ込んだバドは、エルが潜ませておいた猛毒のブラックマンバに顔を襲われる。冷ややかにバドを見下ろしながら、隻眼の女殺し屋は小さな手帳を広げ、読み上げるのだ▼「ブラックマンバに足首や親指を噛まれると4時間で絶命する。顔や胴体の場合は20分。一噛みでおびただしい量の毒を発する。おびただしいという言葉が好きよ。滅多に使わない言葉ね。あなたが死の苦しみを味わうあいだ、さっきの質問に答えてあげる。ベアトリスが死んでどう思うっているかって質問ね。悔しいわ。わたしが出会ったなかでも最高の殺し屋が、死んだってことが。しかもあんたのようなアル中野郎の手にかかって。もったいない死だわ」。ここでいう「おびただしい」に当たる単語は「gargantuan」だ。ラブレーの「ガルガンチュア物語」の主人公の名前であり、同時に「巨大な、莫大な」という意味がある。エルが100万ドルの現金をカバンに詰めなおし、コンテナを出ようとしたとたん、風のようなベアトリスの襲撃を受ける。ベアトリスとエルには同族嫌悪とも言える憎悪感があり、カンフーの秘術を尽くすコンテナの中のアクションは、女優アクションの最高レベルだ。ユマ・サーマンもダリル・ハンナも整った綺麗な型でこなし、半端ないトレーニングだったと思わせる。どっちも細身の長身という、見栄えするスタイルがバチッと決まっているから得だ▼エルの陰気な残虐性は師匠パイ・メイ殺害に最もよく現れる。パイ・メイは武術の達人であると同時に、弟子であっても気に入らなければ殺してしまう短気な性格。エルもかつて弟子入りしたが、師匠に向かって「クソジジイ」と呼び、片目をくりぬかれた。それを根に持ち、魚に毒を盛って殺した。パイ・メイに向かい「クソジジイの言葉などゴミよ」と言ったらしい。「そうよ、わたしは師匠を殺した、あんたも殺すわ」ベアトリスは「性悪女。あんたに将来はないわ」。決戦の末、エルは残ったもう一つの目をベアトリスにくりぬかれる。それを踏み潰し、汁の出るところまで映すのだから、マンガ的リアルさである。エルは「目が、目が。ちくしょう、わたしの目を返せ」と言いながらコンテナの中を七転八倒する。そのそばにブラックマンバがシュウシュウと舌を出しながら、とぐろを巻いたりほどいたりしているから、遠からずエルも猛毒で死ぬだろう。徹頭徹尾残虐で、反省も後悔も、まして憐憫のかけらもなく滅びていく美しいエルという悪役がいなければ、この映画は成り立たなかった。そう断言できる。

 

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