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特集「最高の悪役」

2016年6月19日

特集「最高の悪役」⑲ラレイン・デイ 
危険な女(1946年 犯罪映画)

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監督 ジョン・ブラームス

出演 ラレイン・デイ/ロバート・ミッチャム

 

シネマ365日 No.1787

蓼食う虫も 

特集「最高の悪役」

ラレイン・デイと言っても十中八九、知らない方がほとんどだろう。彼女がこの映画に出演したのは26歳、公開が1946年であり、主演のラレイン・デイもロバート・ミッチャムもすでに鬼籍に入った。ミッチャムは女に傷ついた青年画家を、ラレイン・デイは3人の男を破滅させる悪役を演じたが、これがまた美しい。ヒッチコックの「海外特派員」に出演しているのを見てもわかるが、間違いなくヒッチ好みの美人で(金髪ではないけれど)、イングリッド・バーグマンを小柄にしたような秀麗な眉目である。そんな彼女が男の運命をコロコロと狂わせていく。騙された男が「あの女はひどいやつだ、気をつけろ、関わったら身の破滅だぞ」と警告するのにもかかわらず、誰も本気にしない。忠告に耳を貸さないどころか、天使のような女にケチをつける、いかれた男として、精神病扱いされてしまう▼筋書きは三重回想になっているがひとつもややこしくなく、わかりやすい。冒頭は結婚式当日の会場で、新郎ジョンは見知らぬ紳士の訪問を告げられる。彼はニューヨークの精神科医ブレアで、5年間、今まさにジョンの妻になろうとしているナンシー(ラレイン・デイ)の夫だったというのだ。スリリングかつミステリアスで好調な出足。ブレアは自分もまたある日、ノーマン(ロバート・ミッチャム)という若い画家が来院し、いきなり「あの女と結婚するのは厄災だ」と言われた、話せば長い、とブレアはノーマンの語ったナンシーの所業を、最新の夫になるジョンに教えるのだ。フロリダでナンシーに出会ったブレアはたちまち虜になり結婚。ブレアのオフィスにある日予約なしにやってきた男がノーマンだった。新婚の妻のことを「危険な女」だと言われた夫は、男を追い返そうとするが好奇心もあって話を聞いた。画家は3年前、自分の絵画教室に入ったナンシーに心を奪われ、結婚したのだ▼画家も精神科医も、ナンシーとの結婚が破綻に至ったのは、彼女に盗癖があることを知ったからだ。パーティー会場で主催者の妻の腕輪がなくなった、ネックレスがなくなった、という事件が必ず起こる。最初はわからなかったが、それらの品々がナンシーのバッグにあるのを見て、画家は「正気か、なんで盗みなんかするのだ」と問い詰めると「欲しいからよ」「欲しかったら盗んでもいいのか」厳しく理由を聞くと、子供の頃の辛い出来事を打ち明けた。父親が死に、母親は家政婦となって住み込みで働いた。豪邸にはナンシーと同い年の少女がいて仲がよかった、少女の誕生パーティーに「ナンシーも出席させて」と彼女は母親に頼むが「使用人の子はダメ」と拒否。「ごめんね、でもケーキもプレゼントも持ってきてあげる」と少女らしい思いやりで、彼女は切り分けたケーキと、宝石の付いたロケットをナンシーにくれた。「もう世界中の何もいらない」とナンシーは喜んだ。だが母親は高価なダイヤが付いたロケットをナンシーが盗んだと決めつけ、娘の言い分もナンシーの申しひらきも聞く耳持たない。ナンシーは「正直に言えば許してあげる」と責められ「わたしがやったのです」と偽ってしまう。ナンシーの母親は女主人が娘に着せた濡れ衣に耐えられずナンシーを連れて辞去した▼そういう過去であるから裕福な暮らしではなかったであろう。しかし類い稀な美貌のため男たちが放っておかなかった。彼女は罪悪感を一向に感じず、宝石を見れば盗んでしまうようになった。包み隠さず話すと、ノーマンは「君の行為は自分に罪を着せた女主人への報復だ。繰り返してはいけない」と諭し、盗んだ腕輪は送り主不明で所有者に郵送した。しばらくは平穏な日が続いた。ところが次にナンシーが関わったのは殺人事件の容疑者だった。男にも女にもこういう人、トラブルがつきまとう人っていますけどね。しかしナンシーの場合、自分は一つも痛痒を感じないし、うろたえるのは周囲にいる男、つまり良心的な男たちばかりで、ノーマンは自殺してしまうのである。さすがにこの事件の後は後味が悪く、ブレアはロンドンに居を移し開業する。折しも激しさを増す戦火の下、貴族の領地に招かれたブレアとナンシーは田舎の広大な土地でしばし憩いを得るが、領主の趣味が宝石のコレクション。妻のクセが出ないうちにブレアは早々に引き上げるが…ロンドンで空襲を受けたブレアは、医院の焼け跡に散らばっている宝石に気づく。駆け寄ってきたナンシーに「これはなんだ」と聞くと、答えは「たったそれだけ。もっとなかった?」▼この映画、割とよくできていると思うのよね。手際のいい筋運びだし、ラレイン・デイのカマトト悪女もコテコテしていなくてスマートだし。ただね、ナンシーの過去が明らかになり、彼女の盗癖は子供のとき無実の罪を着せられたトラウマである、それがわかっても男たちがオタオタしているのは、まるで振り回されたいがためみたいなのよね。当時そういう依存症の治療ができたのかどうかわからないのだけど、さっさと手を打てばよさそうなものじゃない。女が次々宝石を盗んで、ばれても落ち着いているのは、男の出方がわかっているからよ。で、どう切り抜けるのかといえば、いざとなれば失神するか、絶叫して卒倒するかだったから、それで男たちが「彼女の心は10歳の子供のままなのだ」なんて恬としているのは、どう考えても騙されすぎよ。特にこれから夫になるジョンなんか、トラブル女だとわかっても引きずっていきたいみたいだから、蓼食う虫もすき好きってこのことね。

 

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