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特集「最高の悪役」

2016年6月23日

特集「最高の悪役」㉓ ルトガー・ハウアー 
ヒッチャー(1986年 スリラー映画)

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監督 ロバート・ハーモン

出演 ルトガー・ハウアー/クリスチャン・トーマス・ハウエル/ジェニファー・ジェイソン・リー

 

シネマ365日 No.1791

地獄へ帰りな 

特集「最高の悪役」

アルコール依存症、セックス依存症があるなら、殺人依存症もあるだろう。罪の意識もなく、意味もなく人を殺す殺人狂が、いったい何人スクリーンの主人公となってきただろう。みな強烈な印象を刻む映画だった。「ノーカントリー」「エル・トポ」「そして復讐という名の雨」「悪魔のいけにえ」しまいにミヒャエル・ハネケまで「ファニー・ゲーム」で吐き気を催す殺人者を撮っている。それらの残虐性や狂気の沙汰は、人間の本質の一部には違いないが、できればラストでは犯人をコテンパンにやっつけて、戒めをこしらえてほしい。本作ではヒロインの、親切で純情な田舎娘を演じるジェニファー・ジェイソン・リーが、狂ったルトガー・ハウアーに胴体を引き裂かれるという、凄まじい設定があり、しかも全く必要とは思えない残酷なシーンだった。ここまで殺人狂をつけあがらせてどうする気だろうと思っていたら、ボコボコにやられ、やっと死んでくれてホッとした。でもその死に方に、どこか「ブレードランナー」の雨にうたれながら事切れる、アンドロイドの終末に似た哀愁が漂っていた。ニーチェは「善悪の彼岸」で書いている。深淵を長く覗くと「深淵もまた等しくお前を見返す」…究極の悪が備える虚無に、うっかり魅入られたくはないね▼ジム(クリスチャン・トーマス・ハウエル)が土砂降りの雨の中に幻のように立っていたヒッチハイカー、ジョン(ルトガー・ハウアー)を車に乗せてやったことから悪夢は始まる。ハナから図々しい男で、ジムが名前を聞くとろくに答えず、再度聞くと邪険に「いまいう」。木で鼻をくくったような返事だ。しかも飛出しナイフを突きつけ「僕は死にたいと言え」。のっけから、いかれたパワー全開のこのスピード感。理屈もヘチマもございません。ジムはひたすら恐怖におののき、隙を見てヒッチャーを車から叩き出す。やっと夜が明け、車は一本道をまっしぐら。言い忘れたがジムは長距離陸送のためサンディエゴまで砂漠を走っている最中だ。コヨーテすら現れない砂漠という設定が不気味ではないか。家族連れのワゴン車が追い越していく。人恋しさに手を振ったりしたジムは、後部座席の女の子と一緒に、あいつが、ヒッチャーが、しっかり座っているのを目撃した。ジムは親切な青年だ。大声で車を接近させ「そいつは危険だ、下ろせ、下ろせ」とわめくが運転席の若い夫婦は笑顔で答えるだけで意味が通じない。しばらくして前方に停車したワゴン車の中では全員が惨殺されていた▼ヒジムは執拗にヒッチャーにつけねらわれる。ジムはいつの間にか沿道の殺人事件の犯人としてパトカーに追われる身になっていた。保安官に捉えられ勾留されたジムは、うたた寝して目が覚めた。オフィスがバカに静かだ。警察犬が廊下を横切り、こわごわ後を覗くと何か舐めている。ジムは警官も保安官も、オフィスの全員が射殺されている凄惨な光景を目にする。あの狂気のヒッチャーの仕業だが、なぜ自分だけ生かしておいたのか。これは最後までわからない。なぶり殺しにするためわざわざ生かしておいたとしか思えないが、「お前は頭のいいやつだ」と褒めているところを見ると、ジムが気にいったのかもしれない。ジムは、覗いてもいない深淵に見返されたらしいのだ。ヒッッチャーの殺人行路は延々と続く。ダイナーのウィトレスのナッシュ(ジェニファー・ジェイソン・リー)は、神添えを食い、結局はジムに協力して警察の包囲網から二人で脱出する。ここに至ってジムは家族連れの殺し、保安官の射殺、警察オフィスでの皆殺し、大量殺人の犯人になっている。ただ一人、ジムがパトカーの無線で話した警部補だけが事情を聞こうとしてくれたが、彼もヒッチャーに殺される。極め付けはナッシュの惨殺である▼ヒッチャーは拳銃でヘリコプターを墜落させ、ガソリンスタンドを炎上させる。彼の、年齢、出生地、運転免許、前科も含めデータは一切なし。すべてにわたって手がかりのない存在なのだ。人間社会不適応のアンドロイドみたいなものである。車をぶつけても銃で撃っても死なない。生まれながらの殺人者がジムをつけ狙ったのは、繰り返す殺人に膿んできたとしか考えられない。そろそろお気に入りのジムに、殺して欲しくなったのだ。地獄へ帰りな。君にとってはそれがいちばんの幸せ。

 

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