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特集「最高の悪役」

2016年6月24日

特集「最高の悪役」㉔ ゲイリー・オールドマン 
レオン(1994年 アクション映画)

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監督 リュック・ベッソン

出演 ジャン・レノ/ナタリー・ポートマン/ゲイリー・オールドマン

 

シネマ365日 No.1792

スタンの本懐

特集「最高の悪役」

力量のある役者でないと悪役は演じられないと思う。光と闇、天国と地獄、善と悪という二分法によれば、世界の半分を占めるのが悪の存在です。光に対する闇の世界の住人、魔王とか、悪魔とか、閻魔とか、サタンとかいわれて、黒い暗い、闇の世界に棲息する。だから一口に悪人とか、悪役とかいっても、悪そのものが重たい存在であるから、その重量に引き合う役者の貫目というのが必要なのよ。スキルの軽い役者がやると、ふわふわ浮いて、映画自体が失敗になってしまう。善玉なら毒気のない、人好きのする役者でも間に合うかもしれないけど、悪玉はそうはいかないのだ。何しろ天界の、宇宙の半分の、悪という世界を一身に凝固凍結させるのだから、悪を演じる役者に要求されるリテラシーは主役級に匹敵する、重くてしっかりしたものでないと、映画のバランスが悪くなってしまうのだ▼本作のゲイリー・オールドマンは、ニューヨーク麻薬取締局の刑事スタンだ。刑事でありながら麻薬密売組織を裏で牛耳る冷酷な男。殺し屋のレオン(ジャン・レノ)に、殺しの仕事を発注していたトニーは、スタンの暗殺の指示を受けて動いていたのだ。だからいちばんの黒幕はスタンだということになる。マフィア同士のトラブルや、ヤクをくすねたりする運び屋や、警察にたれこむようなヤバイ連中や、目障りな新興勢力なんかを、殺してしまうわけだ。彼には部下が数人いる。スタンは少し神経がおかしい。部下もそれがわかっていて、何か一つ気に入らないことがあるととめどなく逆上し、4歳の子供まで射殺する。まともな捜査に支障をきたすから、スタンが切れそうな素振りを察した同僚は、いち早く「スタンを向こうへやっていろ」と部下に目配せするくらいだ。スタンは興奮してくると必ず薬に頼る。カプセルを水なしで服用する。すぎ嚥下せず「カクッ」と音を立てて奥歯でカプセルを噛み破り、髪を振り立てて天を仰ぎ、目を一点に据えて喉仏を上下させるのだ▼クラシック音楽が趣味で、突入の前に「ベートヴェンは最高だが序曲の後は退屈になった。モーツアルトは軽すぎる。ブラームスは重厚でいい」と、今にも銃撃戦が始まるときに、拳銃片手に講釈を垂れる。もはやスタンはイッテいるのである。その状態で撃ちまくるのだから歯止めがない。「やめろ、スタン、死体に撃ってどうする」と部下が止めるまで撃ちまくるのだ。レオンと孤児のマチルダ(ナタリー・ポートマン)の、牧歌的とさえいえる愛情あふれる暮らしが一方にあり、もう一方には狂気のスタンである。確かにレオンは殺し屋だし、マチルダは復讐のためスタンを殺そうとして、レオンから殺しのテクニックを習っている。マチルダは、早熟だから18歳とサバを読んでいるが、実は12歳だ。虐待する父親と継母に育てられ、大人で優しくしてくれたのはレオンだけだった。レオンが本物の男だと子供なりにわかっている。だから「賭けに負けたら私と生涯、一緒にいるのよ」などと、早々と愛の告白をし、「女性にとって性生活は最初が大事なの。だから誰と経験するかは大切なことなの」大真面目にレオンを口説くのだ▼最初に悪役には劇の重さを支えるバランスが必要だと書いたが、レオンとマチルダという、あまりにもドラマチックな主役に拮抗できる、悪役の貫目のほどは計り知れない。ゲイリー・オールドマンはスタンのキャラを戯画的なまでに誇張し、ヒステリーの発作を起こし、わめき、ドラッグでいく、エゴと冷血の塊に練り上げた。スタンがスクリーンにチラッと姿を現しただけで、観客に嫌悪を感じさせるまでに造詣している。ましてスタンは口いっぱい歯茎を見せて喚き、白目を剥き出し、喉仏まで見えそうに吠えるのだ。ゲイリー・オールドマンは、自分の演技におけるエキセントリックの着地点は、醜悪というものが放つ、エネルギッシュなオーラ以外のなにもないと規定したのではないか。レオンを殺すことは、スタンにとって仕事でも役目でもない。世間の片隅でひっそりと充足し、愛され、大切にされ、それが12歳の少女であれ、生涯を共にするたったひとりのレオン、そこまで思われることが幸福以外の何だろう。そう、スタンは幸福が妬ましい、歯切りするほど嫌悪せずにおれない、幸福の対極にある悪の代表なのだ。それをゲイリー・オールドマンは演じている。悪役ではなく、悪の結晶を。虫の息のレオンが、スタンの手を握り「贈り物だ、マチルダから」。レオンは仕事を、男の約束を果たしたのだ。続く壮絶な自爆シーンに、涙とともに、でも心のどこかで「ザマ見ろ、スタン」叫んだファンはおられなかっただろうか。スタンよ、本懐であろう。

 

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