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特集「ベストコレクション」

2016年7月2日

特集「7月/真夏のベストコレクション」② 
黄金のアデーレ(下)(2015年 事実に基づく映画)

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監督 サイモン・カーティス

出演 ヘレン・ミレン/ライアン・レイノルズ/アンチュ・トラウェ

 

シネマ365日 No.1800

見出された時 

特集「7月/真夏のベストコレクション」

帰国して9か月。ランディは本屋にいる。クリムト肖像画集があった。29ドル。発行元はベルベデーレ美術館だ。ランディの目が光った。オーストリアは完全アウェーだ。アメリカで訴訟を起こすにはどうすればいい。「三つの条件を満たせばいいのさ。国際法に背く収穫・その物品が政府機関の手にある・その機関が米国内で商業活動を行っている」ランディはそうマリアに説明し、オーストリア領事館に行くと、オーストリア政府への起訴書類を提出する。手数料は165ドルだった。「提訴? もう一人子どもが産まれるときに」妻パム(ケイティ・ホームズ)は叫ぶ。夫はせっかく就職した大手弁護士事務所も辞めたのだ。さらに6カ月。提訴は最高裁に持ち込まれた。オーストリア政府と美術館は引き伸ばし作戦に出た▼マリアは82歳だ。ランディは「彼女の寿命が持つかどうか…もう一つの方法を試そう」。こうだ。「和解の方法として、絵を美術館に残す」。政府側弁護士陣は喜色を示した。「ただし、そちらが不法収奪を認めること。当然補償の問題も生じる」彼らは色をなし「自分のものに金は払えない」。ランディは最後の手段に賭けた。ウィーンで調停に持ち込むのである。「敵側の本拠で我々に有利な調停がなされるわけがない。ランディ、もういいの。わたしたち、頑張ったじゃないの、もう一度ウィーンに行くなんてゴメンよ。どうしてもあの街に行くというなら、あなたを解雇するわ」「今さら後戻りできない。僕は借金漬け、妻子に大きな犠牲を強いてあなたの絵を取り戻そうとしている、なのに今になって僕を解雇? あと一歩、あと一歩のところまで来ているのです」「彼らは絶対に絵を手放さないわ。行くならあなた一人で行って」。ウィーンに降り立ったランディの心細そうな背中(笑)。ここでもまたチェルニンが駆けつけてくれた。調停委員のうち味方と敵側はほぼ同数だ。審問になった。演壇に立ったランディに、ドアを開けて入ってきたマリアが見えた。手を取るチェルニンにマリアはいう「今度はランディのために来たのよ」。ランディのスピーチを聞こう。「我々はいま歴史のある瞬間に立ち会っています。過去が現在に是正を求めている瞬間です。この街が見た悲惨な過去、人が他の人間の人間性を奪い、虐げ、死に追いやった過去。家族全員を殺し、家財を盗み、暮らしを、彼らの最も大切なものを奪いました。ブロッホ=バウアー家も同じ目に遭遇しました。それがマリアの家族です。人間としてこの国の人々に認めていただきたい。マリアだけでなく、自分の祖国に対し、罪を犯したことを」▼マリアとランディとチェルニンはウィーンの市街を歩いた。「ほら、あの建物よ。わたしの家があったの。結婚式もそこであげたわ」マリアは回想する。両親が、姉が、叔父が、叔母が正装し、マリアと新郎は祝福の渦の中で踊った。収集した数え切れない絵画が、美術品が、壁や空間を圧している。ウィーン市内の名士が詰めかけ、宴はいつ果てるともなく続いた。だがたった1日で運命は逆転した。叔父はいち早くスイスに避難しようというのに、父はウィーンを動かなかった。この街が好きだったのだ。ユダヤ人への暴虐行為が進み、マリアと夫は脱出を決意する。父は病床だった。部屋に来た娘に、母は普段と変わらぬ声でいった。「いよいよ行くのね。マリア、ここへいらっしゃい」「パパ、わたしは行くわ」「それでいい」と父。「でも行きたくないの」「生きるのよ、マリア」と母。「お前が未来を預ける国の言葉で話そう」父は英語で語りかけた。「うちの一族がこのウィーンに来たとき貧しかった。懸命に働き、この国の人間になれるよう労を惜しまなかった。その努力の成果と子供たちが我々の誇りだ。誰も奪えない誇りだ。お前はここを去る。ひとつだけ、忘れないでくれ、マリア。愛するわたしたちのことを」「わたしたちを忘れず、幸せを取り戻すのよ」。回想に耽るマリアをランディの声が現実に戻した。「調停の結果が出たぞ」。満場が張り詰めた緊張の中で彼らは聞いた。「アデーレの肖像画と、その他のクリムトの絵は、アデーレの姪に返還します」▼マリアはかつての自分の家に入っていった。QBBのオフィスになっていた。「元のここを知っているの。見せてもらってもいいかしら」「どうぞ」受付の青年は気さくに応じた。長い廊下。分厚い風格のあるドア。中に入った。そこに見えたのは企業のオフィスではなかった。「マリア、いらっしゃい、ここへ」やさしく自分を呼ぶアデーレ(アンチュ・トラウェ)の声が聞こえた。アデーレは姉を抱き、駆け寄ってきたマリアを抱いた。妻の可愛がる幼い姉妹を見ている叔父。チェロを弾く父。母が、叔母が「黄金のアデーレ」の前に立って笑っていた。もう一つドアを開けた広間では、結婚式の舞踏会で踊る自分と夫がいた。二人を取り巻く祝宴の人々が輪になって踊っていた。マリアの過去は、失われた人生は、ついに「見出された時」となって、いま彼女の眼の前を通り過ぎているのだ。このシーンは実に、実に美しい▼ナチに奪われてから68年後に、絵はマリアの手に戻った。アデーレの肖像画はニューヨークのノイエ・ギャラリーにある。オーナーはエステ・ローダーの息子、ロナルド・ローダー氏が1億3600万ドルで購入した。マリアは相変わらず自分の家で小さな洋品店を続け、絵画から得たお金は親族や慈善事業、ロサンゼルス・オペラの資金に使い、2011年、94歳でこの世を去った。ランディは事件の報酬で美術品返還を専門とする法律事務所を設立、ロスのホロコースト博物館の資金を提供した▼出番は少なかったけど、ケイティ・ホームズは役得でした。無謀な訴訟に腹を立てている自分を、不安そうな顔色で伺っている夫に「破水したわ」と何気ない声で告げ、慌てる夫に「今から病院に行くわ、生まれたら知らせるわ、心配いらないわ。そっちもどうなったか教えてちょうだい」夫を勇気づけ、大きなお腹で胸を張って出て行く。もう一人、この女優。アデーレのアンチュ・トラウェがいいですね。硬質の落ち着いた知的な美人。オープニングはクリムトのアトリエでした。暗い誰もいないアトリエ。クリムトがこれから貼ろうとする金箔の向こうに女性がいる。一目でアデーレだとわかる。絵と突き合わせたらあんまり似ていないのですが、アンチュのほうがアデーレらしく見えた、それくらい説得力がありました(笑)。

 

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