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特集「ベストコレクション」

2016年7月9日

特集「7月/真夏のベストコレクション」⑨ 
サヨナラの代わりに(2015年 社会派映画)

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監督 ジョージ・C・ウルフ

出演 ヒラリー・スワンク/エミー・ロッサム

 

シネマ365日 No.1810

愛の物語 

ヒラリー・スワンクもエミー・ロッサムもよかったですね。エミー・ロッサムは、製作も兼ねているヒラリーや監督のジョージ・C・ウルフに猛アタックし、「あの二人は、しまいにわたしからの電話を聞くのが嫌になって、わたしに決めたのだろう」と冗談にしていました。それほどこの役が欲しかった。ヒラリーは「ミリオンダラー・ベイビー」以来の来日。インタビューで「この映画はドキュメントに近い」というほど、ヒロイン、ケイトのALS(筋萎縮性側索硬化症)に肉薄しました。いわゆる「難病物」とちょっと違ったのは、患者本人もさることながら、介護者ベック(エミー・ロッサム)が、介護のイロハも知らないどころか、病状に全く理解がないコンマ以下からスタートし、本来できるはずのなかった介護と看取りをやり抜いたことです。この映画は難病物でも介護物でもないです。心から出たものが心に届く、それ以外人間を幸せにするものなんかない。ケイトとベックがともに過ごした時間は1年半でしたが、幸福そのものでした。何のてらいもない信頼と愛情に圧倒され、最後にくるのがたとえ死でも「よかったね」と、言ってあげたくなる映画です▼エミーは大学にもいかず、音楽家を目指すことにもドロップ・アウトした自分の役をこう分析しています。「ベックはおバカだけどケイトに好かれる。ベックはケイトを重病の病人扱いしない。住み込みでケイトを介護し、ミキサーも使えなかった彼女が、クリスマスの七面鳥を焼けるまでになった」。ケイトが介護技術の完璧なヘルパーを解雇したのは「わたしの話を聞いてくれない」からだった。夫のエヴァンは、身の回りの世話さえちゃんとやれば申し分ないと思っている。面接に来たベックは口をきいてもペケ、身なりもペケ、社会常識にはほど遠い大学生で介護の「カ」も知らない。夫が帰らせようとすると、ケイトが履歴書の空白の部分を聞く。「おばあちゃんの面倒を見ていたの。1年ちょっとだから書かなかった」。ケイトはベックを採用する▼ベックの悪戦苦闘が始まります。学歴も教養も高く、自身ピアニストであり、裕福な家に育ち、病気さえなければケイトの人生は順風満帆でした。ブロッコリーを切るだけで台所を散乱させる、ミキサーにむちゃくちゃ詰め込んで噴出させる、でもケイトは咎めず「慣れたらできるわ」。ただし「汚い言葉を使わないで」「ヘタはきちんとゴミ箱に捨てて」と行儀には口を出す。ケイトはベックが既婚者とばかり関係を持ち、気楽な火遊びしかしないのは、真剣な恋愛になってしまったら傷つく、そんな恐れが無意識のうちに心に壁を作らせているのだとわかっている。深いところで自分をわかっているケイトの理解に、ベックは徐々に心を開き、そうなると若さとエネルギーは強い。電動車椅子に乗せてスポーツジムに行き、スーパーの買い物に連れ出し、ケイトは好きな料理を教え、ベックは「致死率100%」の病気に、日々勇敢に向き合うケイトのそばを、離れまいとする。二人が楽しそうにスーパーで買い物をするシーンは、人生の喜びと輝きにあふれた、この映画のとびきりの場面です▼夫の浮気がわかった。「いますぐこの家から連れ出して」というケイトの頼みを聞いて、女友だちのアパートに泊めてもらう。ケータイに夫からの着信が800回。見せるとケイトは激しくケータイを床に叩きつける。「やるわね」と若い女たち。「彼の浮気はわたしのせいよ。寝返りを打たせ、食事に入浴、呼吸以外は何でもやってくれる。彼は37歳。幸せになる権利があるわ」とケイト。ベックはいう「わたしたちもそう。下品な表現で悪いけど、あいつクソ野郎だわ」そして思い出したように「昨夜階段の上で何をしていたの?」「トイレに行こうと」「違うでしょ」カンのするどいベックは、夫の浮気を知って動揺したケイトが、最悪の行動に出たのだと感じた。「あなたのこと、あまり知らないけど、好きになってきた。こんなのおばあちゃん以来よ。毎年クリスマスまでおばあちゃんが生きるか、いとこと賭けをしていたの。12年連続でわたしの勝ちよ。おばあちゃん、タフだった」愉快ではない話題に違いないのに、ケイトは楽しそうに聞いている。そして自分の家に戻り、夫の顔を見るや「出て行って」と宣告するのだ。「わたしが耐えられないのは、あなたの人生に負い目を感じながら生きることよ」。夫は女と別れた。それでもケイトは「自慢しているの? 誰も興味ないわよ。別れる理由は浮気じゃないの。わたしを見てくれていなかったこと。そして愛していると言ってくれなかったこと。さよなら」▼しかしベックが大学を中退したことを知ったケイトは、これ以上自分のそばに彼女を置いておくことは、ベックの未来を損なうことになると決心し、解雇を言い渡します。「誰が世話するの」「母に頼むわ」「近くにいても来たことのない人が何をしてくれるのよ!」。ベックの母もこういうのです。「あなたがいくら時間と労力を注ぎ込んでもあの気の毒な女性は死ぬのよ。彼女が死んだ後、あなたに何が残る? 学位も資格もなくどうやって食べていくの」。ケイトの家を出たベックに深夜夫のエヴァンから電話が入る。呼吸困難でケイトが病院に担ぎ込まれ、人工呼吸器を外すかどうかの判断は「君に委ねられている」▼ベックはケイトを家に連れて帰ります。もう言葉は喋れない。かろうじてベックだけが聞き取れる音声を発する。ベックは甲斐甲斐しく身の回りの世話をし、ピアノの音に反応したケイトの手を、自分の手の甲の上に乗せ、ゆっくりキイを叩く。ケイトはある夜「今夜はこの部屋に入らないで」とベックにいう。「何があっても助けを呼ばないで。ベック、約束して。いい人に出会って。あなたを見ている人に」「わたしを見ている人?」「その人に見せるのよ。わたしにみせている自分を」「あなたが見ているわたし? 次はあなたが約束して。今から褒めちぎるから黙って受けて。靴をありがとう。料理も教わった。でも何より感謝しているのは最後までわたしを信じてくれたこと。そんな人、生まれて初めてだった」「さあ、もう行きなさい」間もなく呼吸困難による激しい発作が襲った。ベックは耳を覆うがたまらず部屋に駆け込み、もう何をしていいかもわからず夢中で抱きしめる。やがてケイトが静かになった。彼女はベックの腕の中で息を引き取ったのである▼ヒラリー自身の言葉で締めくくろう。「この映画は彼女たちの愛の物語でもあります。才能があるのに自分を抑制していたケイトが、ついに殻を破って生まれ変わる変化は、人の心の多様性を教えてくれます。女性同士の友情の最もいいところは、女性という性について話し合える点よ。女性特有の苦労も分かち合える。全力で生き抜くことは大事だけど、難しい。成功の意味はみな人によって違う。自分らしさは自分で決めることよ。日々考えながら。いろんな選択をして夢の実現に歩み続けることが自分を形作るのだわ」

 

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