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特集「B級映画に愛をこめて」

2016年7月21日

特集「B級映画に愛をこめて3」⑩ 
人生スイッチ(2015年 コメディ映画)

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監督 ダミアン・ジフロン

出演 リカルド・ダリン(ビル爆破職人)他

 

シネマ365日 No.1822

えげつなさに覗く本音 

特集「B級映画に愛をこめて3」

珍しいアルゼンチンの映画です。珍しい、と書いたけれど、単に私が見ていないだけかもしれないけど。製作にペドロ・アルモドバルが参加しています。本作はアルゼンチンで大ヒット、アカデミー賞外国語映画賞候補にもなりました。いつも思うのですけど、ラテン系の国と人って、なんでこうコテンコテンなのでしょう。日本人なら、まあこのへんで、とか、武士の情けとか、惻隠の情とか、見て見ぬ振りとかあるじゃないですか。それらのものの見方や解釈は、決して後ろ向きでもなければマイナーでもなく、恥ずべき行為ではないどころか、日本人の美学の範疇なのよね。同じように、息の根を止めなければ必ず復讐するのに決まっていると思うのが、ラテンアメリカの文化であり、発想の基本なのでしょうか。どっちにしても本作6編のオムニバス映画で見る限り、甘っちょろいコメディではありません。どす黒い笑いが充満し、辟易しながら、笑いの裂け目からチラッと覗く人間の本性、もっとはっきり言うなら(そうだ、そうだ、だれも見ていないなら絶対俺もやる、私だってあの気持ちわかる)という共鳴が、結局いちばんこわい本性なのではないか▼忌々しいこと、腹の立つやつ、あの野郎死ね、と呪詛したいやつ…日常生活とか人生とかいうのは、ままならないものだと自分自身に言い聞かせながら人は生きているものだ。どこかで折り合いをつけながら(まあまあ)と我慢する。この映画に登場する主人公や脇役はみな、世間のどこにでもいる真面目で善良な市民だ。善男善女と言ってもいい。なのに、ある瞬間、スイッチを押し間違えたがために、とんでもない方向へ人生は暴走し始めた。事件を起こした本人たちは軽率で行きすぎだったかもしれないが、本来罪だ、罰だ、懲役だなどというトンデモ事項ではなかったはずだ。人間の営みにはついて回る「ちょっとした出来事」を、どう解毒したか問題なのである▼いくつか例を挙げてみよう。「おもてなし」はこうだ。雨の夜カフェに男客が来る。レンズ豆の日替わり定食を注文する。ウェイトレスは一目見て父親を自殺に追いやり、母親を誘惑した高利貸しだとわかる。恨みが再燃する。キッチンにいる同僚は「料理にネコイラズを入れな」と平坦な声で言う。「そんなことしたら警察が来る」と女。「奴が死んで検死すると思う? コレステロール過剰の発作だよ」と彼女は落ち着き払い、棚から大きな缶入りネコイラズを取り出す。「ばれたら刑務所行きだわ」「刑務所も悪くないよ。食事は三度、家賃はタダ、生活の心配は不要、友ダチができれば楽しいもんだよ」「あなた、何をしたの」「後悔していないわよ。世界は悪党が支配しているのさ。世直しするかい? おや、まだ生きているのかい。ネコイラズが古すぎた? 賞味期限は書いてないけど」。毒をくらって苦しんでいる男のところへ男の子が来る。息子である。「どうしよう、子供が来たんだよ」と女。「大きくなったら親父みたいになるのさ。鶏みたいに切り刻んでやる」。ダイナーは血の海になった。通報されて警察が到着、初老の女はパトカーに連行され、ウェイトレスの女は呆然と見送る…見終わったあと、どんな顔をしていいかわからんわ▼次は「パンク」。山に囲まれた一本道で車がエンストする。新車が走りすぎる。追い越すのを邪魔しているエンストのボロ車に暴言を吐く。ところが新車野郎の車がパンクした。タイヤを取り替えていると(不慣れで不器用でひとつもうまくいかない)さっき追い越したボロ車が追いついてきた。暴言を腹に据えかねていた運転手はわざわざ車を止め、新車のフロントガラスをバットで殴り「腰抜け」と罵り、おしっこをする、ウンチをする、車を押して崖から落とす、墜落した車から男が這い出て、相手を轢き殺す手段に出る、川に落ちる、ボンベを手に殴り合い、消火器液を吹きかけ、パトカーが来た時車は爆発。警官は黒焦げになって抱き合っていた男たちの死体に心中だと判断した▼「ヒーローになるために」は、ビル爆破職人がいた。危険極まりない仕事だ。やっと一仕事終えてホッ。一服しに喫茶店に入っている間に車がレッカー車で移動された。翌日車を引き取りに行った男は、陸運局の窓口で自己の正当性(つまり悪いのは役所)と訴え、無視され大暴れ。その姿が派手に報道され、会社は男を解雇。妻には離婚を言い渡される。「長年生活費を稼いできたのは俺だ」「いつも家庭は後回しだったわよ」とどっちもの言い分が炸裂。男は作戦としてネットに言い分を乗せたところ、彼を無罪にしろという声がネット上に溢れる…こういうエピソードが連なっているのだ。理由もヘチマも貸す耳ない、なんでもいいからスカッとしたい人向けの「ブラックな笑い」満載の映画です。

 

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