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特集「ザ・クラシックス」

2016年7月26日

特集「ザ・クラシックス4」④ 
バニー・レイクは行方不明(1966年 ミステリー映画)

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監督 オット―・プレミンジャ―

出演 ローレンス・オリヴィエ/キャロル・リンレー/キア・デュリア

 

シネマ365日 No.1827

豪腕プレミンジャー 

特集「ザ・クラシックス4」

「ミッシングものベスト10」を上げればなにが入るだろう。ジョディ・フォスターの「フライト・プラン」、ヒッチコックの「バルカン超特急」、クリント・イーストウッドの「チェンジリング」、シガニー・ウィバーの「ミッシング〜消された記憶〜」、ジュリアン・ムーアの「フォアガットン」、最近では「プリズナーズ」や「チャイルド44 森に消えた子供たち」などが高位にランクインすると思うが、ベストワンを争うのが本作だと言っても、異を唱える映画ファンの方は極めて少ないにちがいない。ミッシングものの出来栄えは、行方不明になった人物(本作では4歳の女の子)が、発見されるまでのプロセスが複雑で、こみいっているけど、最後はよくわかった、という作りこみのみごとさによる。本作はどうか。もちろん絶賛である、といいたいが、ちょっと残念なことに、すべての経緯が明らかになったときの失望感がぬぐいがたい。ラストの、兄貴のドアップがすごかったために、本作の基軸である近親相姦が背景に隠れてしまい、ミステリーとサスペンスの部分だけが残ってしまったのは残念だ▼アメリカからロンドンに引っ越してきたシングルマザー、アン(キャロル・リンレー)が、一人娘のバニーを保育所に送っていく。娘を迎えにいくと、そんな子は来なかったと言われる。だれも見た職員はいない。アンは、雑誌社のロンドン支局長代理である兄のスティーブンに電話し、狂ったように事態を訴える。警察がよばれ、ニューハウス警視が来る。これがローレンス・オリヴィエだ。彼は落ち着いて事実関係を追跡する。警視の視点に従ううち、観客は「バニーははじめからいなかった」という、別の事実があるかもしれないと刷り込まれる。主要登場人物は兄妹と警視の3人なのに、プレミンジャ―は単純構造を迷宮に造り変えてしまう。その役割を担った役者が、変態の家主のノエル・カワードであり、保育所の屋根裏の私室にひとり住む、魔女めいたオーナー、マーティタ・ハントだ。とくにマーティタの片言隻句は重要だ。彼女は警視に「お兄さんは妙な青年ですよ。妹を心配している。ふつうなら子供を心配するでしょ」と指摘した。警視は彼女がもらした言葉から、アンとスティーブンが、子供の頃バニーという空想の友だちをつくって遊んでいたことを知る▼細部にわたって精緻な彫り込みがなされる。人形の山に埋もれるようにして、修繕に当たる人形病院の孤独な老職人、暗い地下室で娘の人形を探すアン。そんなはずはないと確信するにもかかわらず、このあたりでいきなり殺人鬼が登場するのでは、という恐怖を掻き立てられる。バニーの匂いを追跡する警察犬が投入されるが、バニーの持ち物が忽然と、家から根こそぎなくなってしまったのだ。警視は出生証明書をとりよせ、未婚の母になった事情をアンに聞く。「妊娠したときだれが出産に反対しました」「兄です」「バニーの父親は?」「付き合っていた男の子です、彼が家にきて、兄が追い払いました」警視は兄が妹をかばうためならなんでもやると確信する。アンはバニーが実在することを証明しようと、わずかな手がかりをたどり、人形病院にたどりつく。そして人形を見つけたのに、現れた兄貴は人形を燃やしてしまうのだ。ここから映画はいっきょにスティーブンの狂気に移行します。移行というより跳躍に近い。あざやかというより、極端すぎる変わりように違和感を覚えます▼少なくともロンドン支局長代理を勤める男が、ことほどかように、狂うだろうか。現に狂っちゃったのですよ。なぜか。妹といっしょにバニーがロンドンに来たからである。彼にとってバニーは妹との恋路を邪魔した張本人だ。いままではロンドンとアメリカに別れていたから、憎い姿をみないですんだが、これからは同じ家に暮らすのだ。がまんできん。なんとしてでも取り除かねばならぬ邪魔者だった。近親相姦を示唆する具体的な言葉も行為もありませんが、姪を抹殺してまで独占したい愛情を、ラストのやりとりは充分すぎるほど明らかにします。兄「君は悪いことをしたね、アン。男の子に夢中になってぼくを忘れた。汚い男の子に。そしてバニーを産んだ。必要もなかったのに。この子がジャマだ。天国へ送らなきゃ」アンは兄の気をそらそうと、かくれんぼしたり、ブランコにのったりする。またしても(狂い方が幼稚すぎるのではないか)と疑問に思うが、プレミンジャーは怒涛のごとく、兄貴を狂気のドン底に脳天逆落し。ド迫力で疑問もヘチマもシャットアウトする、プレミンジャーの豪腕に拍手と敬意を、という、しょうがない境地になります。

 

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