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特集「ザ・クラシックス」

2016年7月28日

特集「ザ・クラシックス4」⑥ 
トリコロール/青の愛(1994年 社会派映画)

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監督 クシシュトフ・キェシロフスキー

出演 ジュリエット・ビノシュ/エマニュエル・リヴァ

 

シネマ365日 No.1829

ビノシュだからよ 

特集「ザ・クラシックス4」

作品の背景に「ヨーロッパ統合」がありますが、そういうスケールの大きな社会問題にかかわると、わたしのリテラシーではおっつかない気がするので、監督と女優に限って書くことにしました(笑)。クシシュトフ・キェシロフスキー監督の「愛に関する短いフィルム」にすっかりノックアウトされ、この人の映画ならばまちがいないと、思い入れの固まりになって「トリコロール三部作」に入りこみました。ジュリエット・ビノシュが相変わらず例のユーウツそうな顔で出ているしね(笑)。有名な映画賞、いっぱい取った映画で、かなり豊富な解説もあり、読みかけたけど退屈になってやめました。劇中の監督と女優を追いかけていくだけで、この映画は充分に話題拡散するわ。手短にいうと、車の事故で夫と娘を失い一時は死のうとまでし、世捨て人同様になったヒロイン、ジュリー(ジュリエット・ビノシュ)の再生物語よ▼自分を過去に引き戻すものすべて、家屋敷、家財一式を売り払うよう、ジュリーは弁護士に依頼します。介護施設にいる実母と、長年務めてくれたメイドと庭番の老後の経費万端も手当する。「あなたはどうするのですか」と弁護士がきくと、「預金があるわ」と答える。これ、すごく重要なことよ。ジュリーはパリに引っ越し、だれもしらない町で生きていく、ジムのプールで泳ぎ、買い物に行く。屋敷を離れる前夜、夫の友人で自分のことを好きな男・オリヴィエと一夜をともにするが、彼の枕元に熱いコーヒーを置き、別れ際のあいさつはこうだ「とてもよかったわ、わたしだって普通の女よ。汗もかけば咳もするし、虫歯もあるわ。でもあなたを追ったりしない。ドアは閉めて帰って」。ジュリーはこのへんですでに立ち直っているではないの、とわたし、思うのだけど。映画が進むにつれますますその感を深くするわ▼だってね、部屋を探しに不動産屋にいくと、てきぱき条件を出し、適切な物件があるときくと家賃もきかず、少なくとも値切りもせず引っ越す。肉体の回復は順調だと医師も認める。部屋にネズミが子供を産んで、アパートの住人にネコを借りて退治させる。下の階にいる娼婦が男を連れ込むから立ち退かせようという署名の呼びかけには、自分には関係ないとクールに断る。木枯し紋次郎女子版である。その娼婦が夜中に電話で呼び出すと、不承不承であるがピガール(モンパルナスの盛り場)にある店にいき、わけをきく。しょうもない理由だが、ばかにしないで慰める。気力体力とも充実していない女に、他人を力づけたりできはしない。施設に入っている母親は、認知症気味だというが、「お金はあるの。大事なことよ」と娘に念を押す。みあげたお母さんじゃないの▼思うに、ジュリーが復活するのは経済力があるからである。食べるに困らない収入か財産があり、ガツガツその日のパンを心配しないでいいからだ、そう断定するのは貧乏人のやっかみかもしれないが、ジュリエット・ビノシュのサラサラした顔を見ていると、どうにもこうにも、スクリーンのどこからも生活感は漂ってこないのである。そればかりか、彼女は夫に恋人がいることを知り、会いにいく。ジュリーがホントに社会にも人生にも絶望しているなら、夫の恋人など、いまさらいようといるまいとどうでもよかろうが、とんでもない、顔をみてやれとばかり、好奇心とファイトとどちらが大きかったか知らないが、とにかく会いに行くのだ。弁護士見習いだという彼女は大きなお腹をして、夫の子だという。弁護士見習いにしては、あまり趣味のよくない女だと思うのだが、当初彼女はジュリーを警戒し、ことさら夫との恋仲を強調するのだが、生まれるのは男の子だと知ったジュリーが、弁護士に屋敷の売却を中止させ、生まれる子に家と財産を相続させると決めるや、女は「あの人の言うとおりね。あなたは寛大で、理解があり、理想の妻だと…許して」なにこれ▼過去からの再生も再生どころではない、ジュリーは、とっくに別人生の主人公ではないか。驚くのはまだ早い。彼女はオリヴィエと、夫が作曲途中で死んでしまったゆえ、中断した「欧州統合協奏曲」を仕上げるのだ。もともとジュリーの音楽家としての実力は、夫の作曲は彼女の作品ではないかという噂がでるほどだった。スコアを書き上げたジュリーは夫とオリヴィエの共作とするが、オリヴィエは「1週間考えた。やはりこの作曲者はきみとすべきだ」とマア、どこまでも立派で善良で、やさしい人たちに囲まれ、これで再生しなかったら死んだほうがマシ、というラッキーなヒロインなのに、よく頑張った、ほんとによく頑張った、と思わせるのがジュリエット・ビノシュのあの憂い顔なのね。そうそ、もうひとり、すごい女優が出演しているわ。ジュリーの母親になったのがエマニュエル・リヴァよ。気難しいミヒャエル・ハネケの「愛、アムール」に主演、85歳にしてアカデミー主演女優賞に最高齢のノミネート、同年のセザール賞主演女優賞、ヨーロッパ映画賞女優賞、英国アカデミー主演女優賞をさらっていった人です。

 

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