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シネマ365日

2016年8月5日

特集「気になる女1」⑤ クセニア・ラパポルト 
時の重なる女(2012年 サスペンス映画)

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監督 ジュゼッペ・カポトンティ

出演 クセニア・ラパポルト

 

シネマ365日 No.1834

複雑系女子

特集「気になる女1」

日本で公開されたクセニア・ラパポルトの作品がとても少ないことをいつも残念に思っています。彼女は今年(2016)42歳。ロシアのペテルブルク出身で、日本で初公開になった映画が、ジュゼッペ・トルナトーレの「題名のない子守唄」でした。以来わたし彼女のファンです。憂いをたたえた張りのある瞳。軽く閉じた唇は、およそ彼女に「唇を引き結ぶ」という激しい感情が浮かび上がるかどうかわからないような、暗さを心に秘めていることを教える。鼻筋は通っているけれど案外力強い鼻梁が、顔立ちに柔らかさを与える。髪は金髪に近いブロンド。上目遣いで見る視線には、しばしば不安と猜疑心がよぎる…何を言いたいか、つまり彼女の表情の移ろいがとても豊かです。最初に見たのが「題名のない子守唄」だったのが決定的でした。あんな映画にはそうそう出会えるものではありません。ラストシーンの微笑の切なさ、儚さ、それでいてストイックな愛に溢れた女性がそこにいました(我ながら照れるほどのベタ誉めですね)▼「時の重なる」というタイトルから察しがつくように、劇中度々時系列が入れ替わり、ヒロインのソニアの立ち位置を見失いそうになりますが、監督は割とヒントを撒いていまして、(おや)と引っかかるところはみな伏線です。最後にソニアの行動が太陽のもとに晒されますが、本作は犯人探しでもなく、トリックのネタを暴いて面白がる映画でもありません。ソニアがスロベニアからトリノに来た移民であり、ホテルの客室係をしながら家に帰ればイタリア語を勉強している。同業のマルガリータしか友達はおらず、父親とは絶縁状態、森が好きで一人で森を歩き、物思いにふけるという孤独を好む性格です。そんな彼女がスピード・デートに行き、そこで元警官、今は警備員のグイドと知り合う。監督はもう最初から、ソニアの行動に裏があることを見せています。ソニアが掃除に入った客室の窓から投身自殺があったことも、映画が進むにつれ、現実か幻想かわからなくなる。グイドはすぐソニアに関心を持ち、自分が警備員をしている大邸宅でデートする。考えてみれば職権乱用ではないですか。そこへあつらえたように強盗団が押し込み、トラックにぎっしり邸宅のありとあらゆる美術品を詰め込み、首領らしき男がソニアを暴行しようとし、止めたグイドは射殺されてしまい場面は溶暗▼ソニアは病院で手当てを受け、職場に復帰したがグイドの幻想に悩む。幻想は次々連鎖し、マルガリータが投身自殺、葬儀に出たソニアは読み上げられた名前が自分であることにおののく。謎は膨れ上がるばかりでソニアの神経は異常なのか、正常なのか、判断がつかないまま引きずられる。ある日ソニアはホテルの窓から一台のトラックがノロノロ走っているのを見かけた。それこそ強盗団が美術品を運び込んだ大型トラックだった。ソニアはホテルを抜け出し、トラックの後を追う。ここからが謎解きです。考えてみれば、森を散策する孤独の好きなソニアが、どうしてスピード・デートなどに行くのか、グイドとの会話で一度も話題にならなかったブエノスアイレスの写真がなぜ部屋に貼ってあるのか。ソニアに言い寄っているホテルの常連客に殺されかけたとか、森に生き埋めになったときに救出してくれたグイドの姿に、思わず叫び声をあげたらそこは病室で、グイドやマルガリータがソニアを見守っていたとか、頻繁に虚実が入れ替わります。で、結局明るみに出た真相は、ソニアは強盗団の一味であり、強盗団の首領リカルドは恋人だった、スピード・デートでグイドと出会ったのは最初から彼の勤める豪邸がターゲットだったから。彼らはそこでドガなどの一級品を根こそぎさらい、ブラックマーケットで売りさばき、南米ブエノスアイレスに高飛びする計画だったのだ。やるわね▼リカルドの手元が狂って「あやうくわたしが死ぬところだったじゃないの!」とソニアはいう。グイドの元同僚の刑事ダンテは最初からソニアが怪しいと睨んでいた。グイドはソニアに惚れ込んでしまったから忠告は耳に入らなかった。最後の日、ソニアはマルガリータに会うといって部屋を出てリカルドと落ち合い、空港に向かう。グイドは尾行する。もう何もかも知ってしまった。グイドはダンテに電話するが、結局何も通報しないまま、ソニアの逃亡に目をつぶる。ソニアは空港の中から、駐車場に入るグイドに気がつき視線が交わる。この恋物語(と言えるかどうかわからないが)は、これで終わりだ。グイドは元どおりスピードデートクラブの常連になった。ソニアはブエノスアイレスでリカルドと観光写真に収まった。むなしさを抱えたままソニアを見送るグイド、ソニアは一陣の風、一瞬の夢だった。でも写真に写ったソニアが、幸福そうではなかったと見えたのはわたしだけ? いや〜クセニアがそう見させているのですよ。だってあそこでキャピキャピはじけたら、おバカにしかならないでしょ。クセニアの持ち味は、複雑系の女なのよ。

 

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